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アース・インテリジェンスが創る新市場

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Gartnerが2025年7月9日に発表した最新調査によると、アース・インテリジェンス(Earth Intelligence)は今後数年間で20億ドル(約2,900億円)規模の新たな収益機会をもたらすと見込まれています。この成長の背景には、低軌道衛星(VLEO)の普及やセンサー技術の高度化、そしてAIによる地球観測データの利活用が挙げられます。

Gartner Says Earth Intelligence Is a $20 Billion New Revenue Growth Opportunity for Technology and Service Providers Through 2030

従来、地球観測データの収集と解析は政府や軍事機関が主導してきましたが、今後は民間企業による支出が加速する見通しです。Gartnerは、2030年には政府・軍事機関を上回る規模で企業がアース・インテリジェンスに投資するようになると予測しています。こうした構造変化は、AIや衛星事業にとって大きなビジネスチャンスとなる可能性があります。

今回は、アース・インテリジェンスの市場動向、企業への影響、そして技術革新がもたらす未来について整理します。

技術革新が支えるアース・インテリジェンスの進展

アース・インテリジェンスとは、地球観測データにAIを組み合わせ、特定の業界や業務に最適化された分析結果や洞察を提供するものです。対象となるデータは、衛星、ドローン、地上センサーなどから収集され、その後、AIによって処理・解釈されます。

近年では、VLEO(Very Low Earth Orbit)衛星が注目を集めています。これらは比較的安価に打ち上げ可能で、10センチメートルの解像度で観測できる能力を備えています。たとえば、倒木による鉄道の障害を即座に特定したり、製鉄所の稼働熱から世界の金属生産動向を推測したりと、具体的かつ即効性のあるユースケースが次々と登場しています。

また、従来は観測が難しかったスペクトル帯を可視化する「ハイパースペクトル解析」や、悪天候下でも観測可能な「レーダー技術」も進化を遂げています。これにより、データ量の爆発的増加が起きており、それを処理するAIの重要性が一層高まっています。

民間企業への波及と新たな市場機会

Gartnerは、2025年から2030年までの累積で、アース・インテリジェンス分野におけるテクノロジーおよびサービス提供者向けの直接的な収益機会が約200億ドルに達すると試算しています。2025年時点で38億ドルだった年間収益は、2030年には42億ドルを突破すると予測されています。

企業の関心が高まる理由は、単なるデータ提供にとどまらず、「意思決定支援」や「業務効率化」といった実務的な効果が見込めるからです。データを解析する余力がない中小企業に対し、AIモデルやアプリケーションとして提供することで、新たな収益源が生まれつつあります。

この分野に進出するテクノロジーベンダーは、データ、AIモデル、ツール、アプリケーションといった複数の切り口で新サービスを展開できるようになります。さらに、既存の業務アプリケーションにアース・インテリジェンスの機能を組み込む「インテグレーション型サービス」も市場を拡大させる要因となっています。

データ保護とセキュリティリスクの新たな課題

一方で、膨大な地球観測データを扱う上で、セキュリティやリスク管理の必要性も増しています。Gartnerの指摘によれば、今後は新たなリスクプロトコルやガバナンス体制の構築が欠かせなくなるでしょう。

データの機密性・完全性を担保することはもちろん、誤ったデータ分析に基づく意思決定の回避や、AIの倫理的利用なども課題として浮上しています。また、国家安全保障との関係においても、民間主体の情報提供がどのように規制されるかという論点も今後の焦点となります。

このため、業界内での標準化や認証制度、ガイドラインの整備が求められています。技術が先行する中、制度設計がいかに追いつけるかが、持続的な成長の鍵を握るでしょう。

今後の展望

アース・インテリジェンスは、今後数年で「一部の業界の特化技術」から「幅広い産業の基盤インフラ」へと進化していく可能性があります。都市計画、災害対応、農業、エネルギー、物流など、適用範囲は拡大してくことが期待されます。また、アース・インテリジェンスの進化は、生成AIや機械学習といった先進技術の発展とも密接に関係しており、複合的な技術融合によって新たなユースケースが創造されることが期待されます。

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出典:Gartner 2025.7

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