スマート・クラウド戦略(6) 次世代クラウド技術
総務省は、「スマート・クラウド研究会中間取りまとめ(案)」の中で、次世代クラウド技術についても触れられています。その主な技術として仮想化技術と分散処理技術をあげています。
分散処理技術については、グーグルの「Big Table」、「MapReduce」、そして「Hadoop」等があげられています。これらは、既にクラウドサービス事業者によって運営されているとしながらも、日本の先進的なブロードバンド基盤を活用し、世界をリードする次世代のクラウド技術を開発し、これらの技術をいかしたサービス開発などや標準化を通じて、ICT産業の国際競争力の向上を図ることが必要であるとしています。
スマート・クラウドサービスを実現するクラウド技術
日本のクラウド技術を活用する分野として、ICTの利活用が遅れている、行政、医療、教育、農林水産業等の分野をあげています。第3章で、電子行政クラウド、医療クラウド、教育クラウド、農業クラウド等があげられているように、これらの分野で次世代のクラウド技術がどのように活用されるのか、注目されるところです。
また、大量のデータ処理を必要とする分野、中小企業、ベンチャー企業等の分野においても技術要素を洗い出し、開発推進に向けた検討を進めていくとしています。
スマート・クラウドサービスを実現するクラウド技術としては、以下の8つをあげています。
- 多様かつ大量のセンサー情報を自動的に収集するネットワーク技術
- 収集された多様なデータフォーマットの共通フォーマットへの変換や有意な情報を抽出するリアルタイム前処理技術
- 上記のリアルタイムのストリームデータ(大量情報)を時系列情報として効率的に蓄積する技術
- 大量情報の内容や規模に応じて、一定のルールで並列分散処理を行い、これを可視化する技術
- 大量情報から再利用可能な情報・知識を抽出するデータマイニング技術や抽出されたデータを蓄積するデータベース技術
- マイニングされたデータを実際の利活用シーンに適したモデルに変換・加工するためのモデリング技術
- 上記の蓄積された情報・知識に基づき、システムの最適化を実現する制御技術と関連するアプリケーション実行環境の開発
- フロー型データと蓄積型データの処理を最適化して行うためのクラウドインフラ動的再構成技術など、常時発生する大量データの量に応じてクラウド内の資源を最適化する技術
安全性・信頼性の向上を実現するクラウド技術
クラウドサービスの普及させていく観点から、安全性・信頼性の高い次世代クラウド技術が必要であるとしており、以下の10つをあげています。
- 複数のクラウド間でのネットワークを通じた連携やコンピュータ資源とネットワーク資源の動的再構成など通信制御技術とクラウド技術が相互補完する技術
- 膨大なインフラの状態をリアルタイムに監視し、サービスに応じて必要な制御を行う自律監視制御技術
- サーバ、ストレージ上のデータの配置及び利用を利用者側で制御するための技術
- オンプレミス(自社運用型)システムとの連携を利用者が自ら制御するための使い勝手のよいAPI
- マルウェア耐性のあるクラウドネットワークや端末技術
- データを暗号化したまま計算処理等を行う技術
- セキュリティレベルを可視化する技術
- サービスの不正利用や不正改変を検出できるモニタリング技術や監査のための証跡保存技術
- サーバだけではなく、ネットワークや運用まで含めて総合的に安全性・信頼性を高める統合管理技術
- 収集したデータの利活用のためのデータ匿名化技術
また、IPにとらわれないプロトコルという表現もあり、IPレスのNWGN(新世代ネットワーク)も将来視野に入ってくるでしょう。
環境負荷の軽減に貢献するクラウド技術
環境の視点では、ICT産業そのもののをグリーン化する「Green of ICT」、そしてICTを活用したグリーン化「Green by ICT」の二つがあげられます。「Green of ICT」では、グリーンクラウドデータセンターの構築に向けた支援や省電力制御等の開発を一体的に推進する点をあげており、それらをグローバルに展開していく必要があるとしています。
また、「ICT分野におけるエコロジーガイドライン」などの指標に基づき、フロントランナー基準を設定し、基準を達成するデータセンターについては、政策的な支援を講じる施策を検討することが望ましいとしています。本報告書の中では、一つの基準となるPUE(Power Usage Effectiveness:電力使用効率)というキーワードが出てきていないのが少々気になるところです。
「Green by ICT」では、スマートグリッドや、次世代ITS、港湾管理、防災管理などのシステムにクラウド技術を導入するスマート・クラウド基盤確立のための技術開発を促進することが必要であるとしています。ここの章で防災管理について触れられていますが、個人的には「防災クラウド」の利活用などについて検討していく余地もあるのではないかと考えています。
技術開発に関する政策支援
クラウド技術の開発においては、政策面の支援も必要となります。国際競争力の向上や環境負荷の軽減、そして標準化の推進などについて、開発目的や達成目標を具体化し、ロードマップを描いていくことが適当であるとしています。そして、産官学連携のオープンイノベーションを生み出すための「クラウド研究開発プラットフォーム(仮称)」やアジア・太平洋諸国と連携した次世代クラウド技術の開発を行う「アジア・太平洋クラウドフォーラム(仮称)」といった共同技術開発や標準化などに向けた意見交換を行う「場」が必要であるとしています。
現在、これからの次世代技術やクラウドシステム間の連携インタフェースやネットワークプロトコル(通信方式)の標準化を推進し、より信頼性の高いクラウドサービスの実現等を目指し、普及推進をはかるために、「グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム(GICTF)」が産学官連携した取組みが実施されています。
そして、3月2日には、「クラウドネットワークシンポジウム」が開催され、「次世代クラウドコンピューティングサービスを支えるネットワーク技術」や「クラウドの安全性や信頼性を支えるクラウドサービス連携技術」、そして「実世界情報処理に向けたクラウドネットワーキング」の研究開発の取組み状況の報告が予定されております。
本シンポジウムはWebで公開してから、わずか1週間で満席となるなど、日本の次世代クラウド技術への期待が伺えます。当日は私も参加しておりますので、もし、会場で見かけることがありましたら、是非声をかけてください。
国産のクラウド技術の研究開発は、海外のクラウドサービス事業者が既にサービスに対抗するのではなく、安全性や信頼性を重視した次世代クラウド技術にフォーカスをおいているように見受けられます。これからの技術開発が実際にユーザにどのように将来的に浸透していくのか、そして国際競争力の観点から見ても優位な立場になるのか、様々な視点から検証が必要となってくるのではないかと感じているところです。