ネットワークは"自動化"の時代に
Frost & Sullivanは2025年年7月9日、企業向けネットワークサービス市場における「インテリジェントネットワーク自動化」と「専用インターネット接続(DIA)」の成長機会に注目すべきという見解を発表しました。
調査レポート『Top 10 Opportunities in Network Services』などによると、グローバルなネットワーク接続は2028年までに年平均2.9%の成長が見込まれ、SD-WANやクラウド環境の普及を背景にネットワーク自動化とDIAのニーズが高まっています。
生成AIや5G、エッジコンピューティングの進展により、企業ネットワークは「高負荷・低遅延・高セキュリティ」な通信を支える新たなインフラ整備が必要となっています。こうした背景の中、AIベースの自動化、ソフトウェア定義型ネットワーク、統合セキュリティ、NaaSなどの取り組みが、次世代ネットワーク構築の重要な柱となりつつあります。
今回は、ネットワーク自動化とDIAの潮流、クラウド・エッジとの連携、そして今後の進展に向けた戦略の方向性について考察します。
インテリジェントネットワークへの転換が進む
企業ネットワークは、単なる接続基盤ではなく、自律的に最適化される「知的システム」へと進化しています。AIや機械学習を活用したネットワーク自動化により、異常検知やネットワーク構成の最適化がリアルタイムで行われ、システム管理者の負荷を軽減しています。中でも、意図ベースのネットワーク(intent-based networking)や自己修復型ネットワークの導入が、可用性とセキュリティの強化に寄与しています。
Frost & Sullivanの分析によると、AIネットワーク自動化は、サービスプロバイダが高付加価値サービスを提供する上で差別化要素となりつつあり、今後の市場拡大に向けた重要な戦略投資領域と位置づけられています。
専用インターネット接続(DIA)への期待の高まり
DIAは、クラウドネイティブアプリケーションや高解像度ストリーミング、IoTといった高帯域・低遅延の要件を満たすための不可欠な基盤となっています。北米市場では2024年にDIAサービスが105億ドル規模に達し、2028年までに年平均4.4%で成長すると予測されています。
DIAは、共有型回線に比べて帯域保証やセキュリティ性に優れ、企業のレジリエンス戦略において通信の安定性を確保する手段として注目されています。また、ファイバーインフラの拡張と合わせて、100Gbps超の通信速度も視野に入っており、次世代業務基盤の構築を支えます。
クラウド・エッジ時代に対応した柔軟なネットワーク設計
クラウド、オンプレミス、エッジをまたいだハイブリッド構成が一般化する中、ネットワークも複雑性を増しています。この課題に対処する手段として注目されているのが、ソフトウェア定義型ネットワーク(SDN)やネットワーク・アズ・ア・サービス(NaaS)です。
SDNは、ネットワーク構成をコードで柔軟に制御可能とすることで、異なるインフラ層を横断した最適化を実現します。一方、NaaSは、ネットワーク運用をサービスとして提供することで、企業側は初期投資を抑えつつ俊敏にネットワークを拡張可能となります。これにより、サービスプロバイダ側も継続的な収益源を確保できる仕組みを構築できます。
セキュリティと可視化を両立させる統合的アプローチ
高度化・複雑化するネットワーク環境において、セキュリティの確保と可視性の維持は両立が求められています。SASE(Secure Access Service Edge)やゼロトラストアーキテクチャの導入が進む中で、ネットワークレベルからセキュリティを設計に組み込む「シフトレフト」の考え方が広がりつつあります。
クラウドアクセスセキュリティブローカー(CASB)やアイデンティティ・アクセス管理(IAM)との連携によって、異なるクラウドやベンダーを横断した統一的なセキュリティポリシーの運用が可能となります。これにより、IT部門はネットワークの状態や異常兆候をリアルタイムで把握し、迅速な対応が可能になります。
今後の展望
今後、企業のネットワーク戦略は「接続性の確保」から「レジリエンスの設計」へと軸足を移していくことが予想されます。業務のリアルタイム化やAIの常時活用、そして分散型組織の拡大に対応するには、ネットワークがより柔軟かつ自律的である必要があります。その中で、DIAやAI自動化、NaaSなどを活用したアプローチが広がるでしょう。
一方で、こうした高度なネットワーク構成には専門知識と初期の設計力が求められ、プロバイダやパートナーとの連携がますます重要となります。今後は、業界を横断したサービス統合や、ユーザー企業ごとのカスタマイズ設計、ROIシミュレーションなどを含むコンサルティング型サービスの提供が差別化要因となっていくでしょう。