2028年に市場規模2倍、生成AIが加速させるマネージドクラウド市場
IDCは2025年7月8日、「Asia/Pacific Managed Cloud Services Market Forecast, 2024-2028」を発表し、アジア太平洋地域におけるマネージドクラウドサービス(Managed Cloud Services:MCS)市場が、2023年の108億ドルから2028年には226億ドルへと倍増する見通しを示しました。年平均成長率(CAGR)は15.8%と、極めて高い水準で推移しています。
急拡大の背景には、企業のハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境の導入加速、AIを軸としたデジタル変革、そしてITレジリエンス強化へのニーズがあります。IDCの調査によると、アジア太平洋地域の企業の89%が複数のパブリッククラウド上でワークロードを稼働させ、72%が真のハイブリッドクラウド構成を採用していることが明らかになりました。
今回は、こうしたクラウド戦略の転換が市場にもたらす変化、成長を牽引する生成AIの存在、そしてMCSベンダーに求められる役割について考察していきます。
パブリッククラウドがけん引する成長、MCSの重層化
マネージドクラウドサービス市場の中でも、最も高い成長率が見込まれているのがパブリッククラウド領域です。IDCのレポートによれば、同分野は年平均22.1%の成長を遂げるとされ、ハイブリッドクラウド(16.2%)を上回るペースで拡大しています。
背景には、生成AIを中心とした新技術の登場があります。企業は、AIの実証実験(PoC)やパイロットプログラムの場として、柔軟性と拡張性を備えたパブリッククラウドを選好しています。その結果、クラウド利用が再加速し、マネージドサービスへの依存も高まっているといいます。
一方、ハイブリッドクラウドも着実に成長を続けています。IDCの「Asia/Pacific IT and Business Services Sourcing Survey, 2024」では、企業の46%が「クラウド戦略において最も重要なパートナー」としてハイパースケーラーやパブリッククラウド事業者を挙げ、45%がインフラおよびソフトウェアベンダーと回答しています。これにより、クラウド戦略は単なる移行から運用最適化、連携統合へと深化しつつあります。
進化する運用ニーズと課題:MCSに期待される新たな役割
企業のクラウド環境は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミス、さらにはエッジまで広がり、多層的かつ複雑化しています。こうした中で、MCSプロバイダーには、統合的かつ動的に環境を管理・最適化するスキルと体制が求められています。
IDCによると、企業がクラウド活用において直面している課題は、クラウド人材の不足(44%)、性能の限界、ベンダー間の複雑性など多岐にわたります。また、プロジェクトのコスト超過や納期遅延も頻発しており、これらの問題は外部サービスへの依存を一層高めています。
MCSプロバイダーに求められるのは、単なる運用代行ではありません。セキュリティ、スケーラビリティ、生成AI対応といった要件に対して、総合的なアーキテクチャ設計とプロアクティブな運用支援が期待されています。
IDCアジア太平洋のアソシエイトディレクターであるPushkaraksh Shanbhag氏は、「マルチクラウドとハイブリッドクラウドは、今やデジタルインフラの基盤です。企業は、これらを安全かつ効率的に運用できるMCSパートナーを必要としています」とコメントしています。
今後の展望:MCSは"成長の前提条件"へ
アジア太平洋地域におけるMCS市場の成長は、外部委託の増加ではなく、企業のIT戦略そのものの変化を映し出しています。生成AI、データ主導の経営、そしてサービスとしてのインフラ(IaaS)の高度化に伴い、MCSは「選択肢」から「前提条件」へと進化しつつあります。