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「変化に強い企業」は何をしているのか?

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Gartnerが2025年7月8日に発表した最新調査によると、直近の組織変革において「健全な変化の定着(Healthy Change Adoption)」を実現できたと回答した中堅・上級ビジネスリーダーは全体のわずか32%にとどまりました。VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代において、変化は絶え間なく、しかも互いに重なり合い、外的要因によって引き起こされることが常態化しています。そのため、従来の「インスピレーションによるリード」だけでは、変化の効果的な定着には限界があるとGartnerは警鐘を鳴らします。

Gartner HR Research Finds Just 32% of Business Leaders Report Achieving Healthy Change Adoption by Employees

このような背景の下、Gartnerは、HR部門がリーダーに「変化を反射的に受け入れる力=ルーティン化された対応力(Change Reflex)」を育てる役割を果たすことの重要性を指摘しています。

今回は、Gartnerの調査結果と提言をもとに、組織が変化への対応力をどのように高めていくべきか、HRが果たす役割とともに展望を考察したいと思います。

変化をリードする難しさが増す中、信頼は大きく揺らいでいる

Gartnerによれば、「健全な変化の定着」とは、社員が変化に対して行動を起こし、期限通りに適応し、かつその過程でパフォーマンスやエンゲージメントが損なわれず、過度なストレスを感じない状態を指します。ところが、変化が「統制不可能(ungovernable)」と表現される現代において、多くの組織がこの理想に届いていません。

2025年4月に実施されたGartnerの別調査では、変化をうまく制御できていない組織では、社員の「変化への信頼(Change Trust)」が1.6倍低下することが明らかになっています。さらに、約2,850人の社員を対象にした調査では、実に79%が「変化に対する信頼が低い」と回答しました。

このように信頼が損なわれた状態では、いかに魅力的なビジョンを示しても、変化は浸透しにくくなります。実際、Gartnerの分析モデルでは、信頼が低い場合、インスピレーション型のリーダーシップによる変化定着の成功確率は25%程度にとどまるとしています。

「変化をルーティン化する」ことで変革は日常になる

変化に対する信頼が低い状況でも、どうすれば組織に変化を根付かせられるのでしょうか。Gartnerはその答えとして、「変化をルーティン化する(routinize change)」というアプローチを提案します。これは、社員が変化を特別なものと捉えるのではなく、日々の業務の一部として自然に受け入れられるようにすることです。

このような「反射的な変化対応力(change reflex)」を育むには、HRがリーダーに以下の3つの支援を行う必要があるとGartnerは提言しています。

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出典:Gartner 2025.7

HRが担う3つの支援:役割明確化、感情調整、反射の構築

① リーダーの役割を明確にし、変化の「進行役」としての意識を醸成

HRは、リーダーに対して「変化の進行役」としての役割を明確にし、社員に対して定常的に変化への進捗を示し続けるよう促す必要があります。これは、変化が激化したときだけでなく、日常のなかでリーダーが常に変化を可視化し、社員の歩みを認めるような「継続的なナビゲーション」を求められています。

② 感情への配慮を強化するツールの提供

変化にともなう不安やストレスを軽視すると、社員の抵抗感が高まり、変化の定着が妨げられます。HRは、リーダーが社員の感情を理解し、適切に支援できるように、感情調整のツールやアプローチを提供することが求められています。自己認識を促すリソースの導入などにより、社員自身が変化への反応を理解し、コントロールできる状態を支援することが重要です。

③ 日常業務における「反射的スキル」のトレーニング

変化を特別なものとせず、「いつものこと」として扱えるようにするには、社員自身が「変化に強いスキル」を日常業務の中で繰り返し練習することが求められます。HRは、こうしたスキルを明確化し、それらを実践する機会を業務に組み込むようリーダーを支援することが重要です。

今後の展望:変化を受け入れる"組織体質"の再設計へ

Gartnerの分析によれば、「変化がルーティン化された組織」では、社員の変化対応率は3倍向上し、結果として年次収益成長率も2倍に達する可能性があるとされています。社員数5万人以上の企業においては、その差が年間22億ドル(約3,500億円)に相当するとの試算も示されています。

こうした成果を実現するには、HRの役割が単なる制度設計や採用にとどまらず、「変化の体質づくり」にまで拡張される必要があります。リーダーが変化を伝える存在から、変化を日常化する存在へと転換するために、HRは変化のプロセス全体に対して横断的に関与していくことが重要となります。

今後、企業が競争優位を保つためには、変化そのものを戦略的資産ととらえ、組織のあらゆる階層において変化対応力を習慣化する仕組みを整備していくことが求められています。

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