セルフサービス化するB2B営業、営業はどこに介在価値を見いだすのか
ガートナーは2025年6月25日、B2B取引における購買担当者の意思決定プロセスの変化を明らかにする調査結果を発表しました。2024年8月から9月にかけて632人のB2B購買担当者を対象に実施されたこの調査では、61%の購買担当者が「営業担当者不在の購買体験」を望んでいることが判明しました。さらに、73%の購買担当者が「不要で的外れなアプローチを行う企業を意図的に避けている」と答えています。
Gartner Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience
背景には、急速に進展するデジタル化と、購買担当者が必要な情報を自ら収集できる環境が整ってきたことがあります。営業現場の慣例に依存したままでは、もはや顧客に選ばれ続けることは難しい時代となりました。
今回の記事では、ガートナーの調査が示す現状の課題、営業戦略に求められる変革、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
B2B購買の主流は「営業担当者を介さないセルフサービス」へ
ガートナーの調査結果が示す最も大きな特徴は、B2B購買担当者の多くが営業担当者による支援を求める場面を限定的に考えているということです。購買担当者は、初期の情報収集や商品・サービスの比較検討において、営業担当者を介することなく、自らデジタルチャネルを活用して情報を得ることを好んでいます。
調査では、B2B購買担当者が平均して3つの活動をオンラインと営業担当者双方で行い、2.3の活動を営業担当者と、1.8の活動をセルフサービスで完結していることが明らかになりました。このデータは、営業担当者がすべての購買プロセスに関与する必要があるという従来の営業スタイルが変わりつつある現状を象徴しています。
背景には、情報が容易に入手できるようになったこと、そして営業担当者から受けるアウトリーチの多くが顧客にとって「的外れ」であると感じられていることがあります。実際、73%の購買担当者は、不要なアウトリーチを行う企業を避けると回答しています。この状況は、顧客接点の質が企業間競争の成否を分ける重要なポイントとなっていることを意味しています。
営業担当者が果たすべき「価値提供」の役割とは
とはいえ、すべての購買プロセスがデジタルセルフサービスで完結するわけではありません。調査は、購買担当者が営業担当者に期待する役割が変わりつつあることも示しています。具体的には、製品やサービスが自社の要件に適合するかどうかといった文脈的な洞察や専門的な知見が必要な場面では、営業担当者の支援を求める傾向があります。
ガートナーのアナリストは「営業担当者は、単に製品情報を提供するのではなく、顧客の意思決定を後押しするガイド役としての価値を発揮する必要があります」と指摘しています。つまり、購買担当者が自力で得られる情報以上の洞察を提供できるかどうかが、営業担当者の存在意義を左右する時代に入ったと言えるでしょう。
このような役割変化は、営業組織の戦略にも大きな見直しを迫ります。従来型の汎用的なアウトリーチを続けるのではなく、顧客が購買プロセスのどの段階にいるのか、何を求めているのかを的確に捉え、必要な情報と支援を的確なタイミングで提供することが求められています。
顧客の信頼を損なう「情報の不一致」というリスク
調査は、営業活動に潜むもう一つの大きな課題も明らかにしています。それは、営業担当者が提供する情報と、企業のウェブサイトや公式資料に記載されている内容に「不一致」が見られることです。69%の購買担当者が、この情報の不一致を経験していると回答しています。
この不一致は、顧客の不信感を招き、購買の中断や見送りにつながるリスクをはらんでいます。ガートナーは「企業はウェブサイトや営業資料、営業担当者の説明内容を一貫させ、組織としての価値提案を明確に伝える必要がある」と強調しています。情報の統一が、デジタル時代の営業戦略の基盤になるのは間違いありません。
特に生成AIやデジタルツールを駆使して顧客との接点を最適化しようとする企業においては、こうした情報管理の重要性はさらに高まっています。営業とマーケティング、カスタマーサクセスの各部門が緊密に連携し、顧客接点全体で一貫したメッセージを届ける体制構築が急務です。
今後の展望 デジタルシフト時代の営業戦略に求められる変革
今回の調査結果は、B2B営業組織に「デジタルセルフサービスを基軸としつつ、営業担当者の介在価値を再定義する」という新たな戦略の必要性を突き付けています。購買担当者の期待に応えるには、次のような取り組みが必要です。
まず、営業担当者は「顧客が自力で収集できる情報の繰り返し提供」ではなく、「その顧客ならではの課題解決に役立つ洞察や提案」を強化すべきです。生成AIやデータ分析基盤を活用し、顧客の状況を把握した上で価値ある情報を提供できる体制の整備が求められます。
次に、営業・マーケティング・カスタマーサクセスが分断された組織体制を改め、全社一丸となった顧客接点管理を進めることが重要です。情報やナレッジの一元管理により、情報不一致のリスクを排除し、信頼に基づく関係構築を進める必要があります。
最後に、営業組織は「売り込み型の接触」ではなく、「購買担当者の購買体験価値を高める接触」への転換を進めることが求められています。デジタルシフトの時代においては、営業担当者が「売り手」ではなく「信頼できるアドバイザー」としての役割を確立できるかどうかが企業の競争力につながると考えられます。
こういった変化を前向きに捉え、企業は営業戦略の根本的な見直しを早急に進めていく必要があります。B2B営業の未来は、単なるデジタルツールの導入にとどまらず、組織文化や営業パーソンの意識改革までを含む本質的な変革が問われています。