カスタマーサービスの改革、成功のカギは「技術」より「組織」
米調査会社Gartnerは2025年7月9日、カスタマーサービス部門におけるテクノロジー投資に関する調査結果を発表しました。
2024年12月から2025年1月にかけて実施された本調査では、200名以上のサービス・サポート部門のリーダーを対象に、導入技術と実際の成果の関係が検証されました。その結果、約半数のケースで、導入時に想定した成果が十分に得られていないことが明らかとなりました。
注目すべきは、技術やベンダーの選定が的確だった場合でも、目標達成の確率がせいぜい50%しか高まらなかった一方で、組織としての「導入準備」ができていた場合、目標達成の確率は3倍にまで高まるという点です。
今回は、Gartnerの調査結果をもとに、顧客サービスにおけるテクノロジー活用の課題と、成果を引き出すために必要な戦略、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
成果を阻むのは「技術」より「組織」
カスタマーサービス領域では、チャットボット、ナレッジマネジメント、AIによる応対支援などの新技術導入が進んでいます。しかし、Gartnerの調査では、それらの技術がもたらすと期待された成果の実現率は芳しくない実態が明らかになりました。
要因として挙げられるのは、導入技術自体の性能ではなく、社内の準備不足です。たとえば、新システムに対応できる人材の不足、業務プロセスとの整合性欠如、関係部門との目標の不一致など、組織的な足並みの乱れがプロジェクトの足を引っ張っているケースが目立ちます。
Gartnerのリサーチディレクターであるエリック・ケラー氏は「企業は技術の導入可否を問う前に、自社がその技術に対応する準備ができているかを問うべきです」と指摘しています。
成功の鍵は「組織的準備」の3要素
調査では、成功を収めた組織に共通する「3つの準備要素」が浮き彫りになりました。どれも、技術選定そのものではなく、導入を支える内的な整備に関わるものです。
1. 必要な前提条件の見極め
多くのリーダーが、テクノロジーの最先端機能に目を奪われがちですが、成功する企業は導入の前提条件を丁寧に洗い出しています。必要なデータ整備、業務プロセスの再設計、社内システムとの統合性などを事前に評価することで、スムーズな運用につなげています。
2. 関係者の目線と行動を揃える
導入目的や期待効果を共有し、部門間の足並みを揃えることも不可欠です。技術ベンダーはしばしば「万能な解決策」として提案しますが、それが社内の実情や部門ごとの課題と食い違っていれば、導入後に軋轢を生む原因となります。目標に対して社内インセンティブを調整するなど、全体最適の視点からの合意形成が重要となります。
3. 技術を使いこなす人材の育成
新技術の導入には、それを管理し運用する高度なスキルが必要です。加えて、現場のスタッフが使いこなせなければ、投資効果は限定的です。成功事例の多くでは、社内での人材育成やチェンジマネジメントに積極的に取り組んでいます。テクノロジー導入を「人の課題」と捉える視点が求められています。
今後の展望:「導入後の運用」を重視
今回の調査は、カスタマーサービス領域におけるテクノロジー導入において、「導入前の準備」と「導入後の運用設計」がいかに成果に直結するかを明確に示しました。今後、企業がROI(投資対効果)を高めていくには、次のような視点が求められるでしょう。
まず、テクノロジー導入を単なる「ツールの導入」ではなく、組織変革プロジェクトとして位置づける必要があります。業務プロセスや評価制度、現場の習熟度といった要素を見直し、全社的な取り組みとして計画的に実行することが不可欠です。
また、ベンダーとの関係性にも変化が求められます。一方的に技術を導入するのではなく、「共に成果を創出するパートナー」として、継続的なサポートやアップデートを求めていく関係構築が重要となります。
そして、経営陣がこの分野を戦略的テーマとして認識し、長期的視点での人材投資や組織設計を推進していく必要があります。表面的なKPI達成だけでなく、「テクノロジーを使いこなす企業文化」づくりが求められていくでしょう。