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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

【AIデータセンター電力供給】「メガワット」から「ギガワット」へ―原子力発電所級の「AIファクトリー」が描き直す世界のエネルギー地図

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まずは昔の拙著の宣伝を。

電力供給が一番わかる 表紙

拙著『電力供給が一番わかる』について

2012年の出版ですが、電力供給の「基本中の基本」を学ぶには今でも最適と自負しています。AIやデータセンターで電力需要が急増する今こそ、変わらない基礎知識の確認にお役立てください。わかりやすいと評判でした。古書は安いです。

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生成AIの登場以降、半導体市場の活況やNVIDIAのGPU不足については連日多くのメディアで語られています。しかし、AIインフラの物理的な基盤となる「データセンター」と、それを動かす「電力」の世界で、今まさに地殻変動とも言える規模の変化が起きていることについては、まだ十分に認識されていないかもしれません。

これまでの連載では、ラックあたりの電力密度の上昇や液冷技術といった、いわば「データセンター内部」の技術革新について触れてきました。今回は視点を一気にマクロな領域へと広げます。テーマは「メガワット(MW)からギガワット(GW)への単位の跳躍」です。

従来のハイパースケールデータセンターの常識を覆し、単一のキャンパスで原子力発電所1基分に匹敵する電力を消費する「AIファクトリー」の建設ブーム。そして、その巨大なエネルギー需要を満たすために動き出した「原子力×AI」の融合。米国を中心に進行しているこの巨大プロジェクトの全貌と、それが電力供給ビジネスに突きつける新たな現実について、詳細に解説していきます。

「ハイパースケール」の再定義:メガワット時代の終焉

これまで、データセンター業界において「大規模」とされるハイパースケールデータセンターは、キャンパス全体で数十MW(メガワット)から、大きくても100MW程度の受電容量を持つものが一般的でした。日本の商用データセンターにおいても、数千ラック規模で50MW〜80MW程度の受電容量があれば、国内最大級のフラッグシップ案件として扱われてきました。

しかし、大規模言語モデル(LLM)の学習と推論に特化した次世代のAIデータセンターは、この物差しでは測れない領域に突入しています。現在、世界のトッププレイヤーたちが計画しているのは、単一のキャンパスで「1GW(ギガワット)」を超える規模の施設です。

1GWは1000MWです。単純計算で従来の最大級データセンターの10倍以上の規模となりますが、この数字のインパクトを理解するには、発電インフラと比較するのが最も分かりやすいでしょう。1GWという出力は、標準的な「原子力発電所1基分」の発電能力にほぼ相当します。

つまり、今後のAIデータセンター開発とは、一つの産業施設を作るために、原発1基分の電力を丸ごと用意するプロジェクトと同義になりつつあるのです。これはもはや、一企業のITインフラ投資という枠を超え、都市計画や国家レベルの電源開発計画に匹敵する社会的インパクトを持ちます。なぜこれほどまでの電力が必要なのか。それは、LLMの「Scaling Law(スケーリング則)」が、計算リソースの指数関数的な増大を求めており、数万基から数十万基のGPUを高速なネットワークで結合し、単一の巨大なクラスターとして稼働させる必要があるからです。物理的な距離によるレイテンシ(遅延)を最小化するためには、分散配置ではなく、一箇所への超高密度な集積が不可欠となるのです。

Stargateプロジェクト:人類史上最大級の電力消費体

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この「ギガワット級」へのシフトを象徴し、現在世界中のインフラ投資家やエネルギー事業者が固唾を呑んで注視しているのが、MicrosoftとOpenAIが計画しているとされるスーパーコンピュータ・プロジェクト、「Stargate(スターゲート)」です。

米国の報道によれば、Stargateプロジェクトは最大で「5GW」の電力を必要とすると予測されています。5GWという数字は、約300万世帯から400万世帯分の生活電力に相当します。これを単一の、あるいは近接した産業施設群だけで消費するというのです。これは人類史上、単一のプロジェクトとしては最大級の電力消費体となる可能性があります。

さらに、OracleとOpenAIの提携などの動きも含め、関連する拡張計画を合わせると、Stargateネットワーク全体では将来的に10GW規模に達する可能性さえ示唆されています。10GWとなれば、小規模な国家の総電力需要すら上回るレベルです。

このプロジェクトの事業規模は1000億ドル(約15兆円)とも噂されており、その大部分がGPUなどの半導体コストと、それを動かすための電力インフラ・データセンター建設コストに費やされます。彼らはこの巨大な計算資源を用いて、現在のGPT-4クラスを遥かに凌駕する次世代、あるいはその次の世代のAIモデル、そしてAGI(汎用人工知能)の実現を目指しています。

2026
1/27 (火) 10:00-
※会場開催なし
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【世界のAI特需が生むビジネス機会】
AIデータセンター時代の
電力インフラ戦略
〜世界の事例から学ぶ発電・送電・電力供給の最新動向〜

AI特需の裏で進行する「電力争奪戦」。Grid Bypassやオンサイト発電など、米国テックジャイアントの動向から日本企業のビジネスチャンスを読み解きます。


講師:今泉 大輔(株式会社インフラコモンズ 代表)

主催:SSK 新社会システム総合研究所

米国における立地戦略と電力争奪戦

5GWもの電力を、既存の電力網(グリッド)からただコンセントを挿すように調達することは不可能です。現在の米国の電力網は、老朽化や再生可能エネルギー連系による系統混雑の問題を抱えており、これだけの負荷が一気にかかれば、地域一帯がブラックアウトしかねません。

そのため、テックジャイアントによるAI覇権争いは、そのまま「土地と電力資源の争奪戦」へと直結しています。彼らは現在、通信インフラとしての利便性よりも、エネルギー資源へのアクセスを最優先事項として立地選定を行っています。

具体的には、テキサス州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ワイオミング州など、広大な土地があり、かつエネルギー開発の規制が比較的緩やか、あるいは豊富な再エネ・原子力資源にアクセス可能な地域が候補地として検討されています。これまでのデータセンター適地といえば、バージニア州北部のような「通信ハブ」が定石でしたが、AIファクトリーにおいては、通信遅延よりも「電力が確保できるか否か」が最大のボトルネックとなっているのです。

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「原子力×AI」の融合:SMRへの期待と現実

ここで浮上するのが、「ベースロード電源」の問題です。

AIの学習プロセスは、24時間365日、常に高負荷で稼働し続けます。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、脱炭素の観点からは理想的ですが、「風が吹かない」「太陽が照らない」時間帯の発電量の変動があまりに大きく、AIデータセンターの安定稼働を支える主電源としては心許ないのが現実です。蓄電池を併設するソリューションもありますが、ギガワット級の電力をバックアップするための蓄電システムは、コスト的にも規模的にも現実的ではありません。

「脱炭素(カーボンニュートラル)を維持しながら、5GWもの安定した電力を、24時間供給し続ける」。この極めて困難な連立方程式を解く唯一の解として、現在、米国テック業界で急速に再評価されているのが「原子力」です。

Microsoftは、既存の送電網に依存しない、データセンターの「オンサイト電源(敷地内発電)」として、小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactors)の活用を強く示唆しています。SMRは、従来の大型原発に比べて建設期間が短く、冷却システムなどの安全設計が簡素化されており、特定の産業施設向けに設置する電源として期待されています。

実際、この動きはMicrosoftだけに留まりません。 Oracleの会長であるラリー・エリソン氏も、決算説明会の場で「1GW規模のAIデータセンターキャンパスを計画しており、その電力供給のために3基のSMR(小型原子炉)の建設許可を取得中である」と明言しています。 また、Amazon(AWS)は、ペンシルベニア州にあるタレン・エナジー社の原子力発電所に隣接するデータセンターキャンパスをまるごと買収しました。これは「原発直結型データセンター」という新しいモデルであり、送電網を経由せずに原発から直接クリーンな電力を調達する契約です。Googleも同様に、SMR開発企業であるKairos Powerと電力購入契約を締結し、2030年までの稼働を目指しています。

このように、米国のハイパースケーラーたちは、「電力会社から電気を買う」という従来の受動的な立場を捨て、自らが「原子力開発のスポンサー」となり、専用の発電所を持つインフラ事業者へと変貌を遂げようとしているのです。

電力供給ビジネスへの示唆:オンサイト発電とPPAの進化

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この「メガワットからギガワットへ」、そして「グリッド依存からオンサイト原子力へ」という流れは、電力供給ビジネスにどのような変革をもたらすでしょうか。

第一に、電力供給のビジネスモデルが「小売」から「共同開発」へとシフトします。 これまでは、電力会社が作った電気をデータセンター事業者が購入する契約が主でしたが、今後はデータセンターの建設段階からエネルギー事業者がパートナーとして参画し、専用の発電所(SMRや大規模再エネファーム)を共同で開発するモデルが主流になるでしょう。ここでは、長期間の電力購入契約(PPA)が担保となり、巨額のエネルギーインフラ投資が正当化されます。

第二に、データセンターの「オフグリッド化」または「マイクログリッド化」の加速です。 地域の送電網容量がボトルネックとなる以上、AIデータセンターは自前の発電設備と配電網を持つ独立したエネルギー経済圏を形成します。これにより、電力系統への負担をかけずに超大規模な需要を満たすことが可能になります。日本の文脈で言えば、かつての製鉄所や化学プラントが自家用発電所を持っていた構造に近いですが、それが最先端のAI産業で、かつてない規模で再現されようとしています。

日本への問いかけ:エネルギー安全保障としてのAI

ひるがえって、日本の状況はどうでしょうか。 日本国内でもデータセンター建設ラッシュは続いていますが、その規模は数十MW、大きくても100MWクラスが中心です。「1GWのキャンパス」を許容できる土地と電力インフラが、今の日本にどれだけあるでしょうか。

Stargateプロジェクトのようなギガワット級のAIインフラが米国で次々と稼働し始めれば、AIの学習能力において、日本と米国との差は「計算資源の差」=「エネルギー供給能力の差」として、決定的に開いていく恐れがあります。AIを国家の成長戦略の柱に据えるのであれば、半導体の確保と同時に、あるいはそれ以上に「原発級の電力を、いかに迅速に、特定の場所に供給できるか」というエネルギー政策の抜本的な見直しが不可欠です。

再稼働が進まない原子力発電所の電力、あるいは洋上風力などの新規再エネ電源を、系統に流すだけでなく、データセンター集積地へダイレクトに供給するような大胆な特区構想も必要になるかもしれません。

「電力」はもはや、単なるユーティリティ(公共サービス)ではなく、国家の知能(AI)を決定づける戦略物資となりました。 メガワットからギガワットへの跳躍は、データセンター事業者だけでなく、電力会社、建設会社、そして政策立案者に対し、既存の枠組みを超えた連携とスピード感を求めています。

Stargateが開こうとしているのは、AIの新たな可能性への扉であると同時に、人類がエネルギーをどう生産し、どう消費するかという、文明の基盤そのものの変革への扉なのかもしれません。

次回は、こうした海外の巨大需要が日本の電力機器メーカーや関連ビジネスにどのようなビジネスチャンスをもたらすか、サプライチェーンの視点から掘り下げていきたいと思います。


【1/27開催 セミナー告知】

--世界のAI特需が生むビジネス機会--
AIデータセンター時代の
電力インフラ戦略
〜世界の事例から学ぶ発電・送電・電力供給の最新動向〜

1.イントロダクション
 ●AIデータセンター需要が電力インフラに与えるインパクト
  ・世界のAIファクトリー建設ブーム(米国・韓国・中東・欧州)
  ・GPU集中稼働が引き起こす「電力供給・送電網ボトルネック」
 ●AIデータセンター×電力インフラの基本構造
  ・発電(再エネ/ガス/専用発電)
  ・送電(専用線・変電所・系統容量)
  ・電気設備(冷却・蓄電・バックアップ)

2.事例ベースで学ぶ:グローバルAIデータセンターの最新動向
 (1)米国:OpenAI/SoftBank/Crusoe「Stargate 4.5GW」モデル
  ・巨大AIデータセンターを支える 4.5GW専用発電タービン
  ・発電所隣接・専用送電線・専用変電所の"Power-First"設計
  ・日本企業が入り得る領域:ガスタービン周辺設備、送電・変電、冷却・蓄電設備
 (2)韓国:政府主導の「AIファクトリー+広域電力網改修」
  ・全羅南道の3GW級AIデータセンター構想
  ・系統制約の克服に向けた広域送電網強化/高密度冷却/蓄電併設
  ・日本へ示唆:老朽送電網更新・再エネ併用モデルへの応用可能性
 (3)中東/UAE:G42主導「Stargate UAE(5GW級)」
  ・ガス+太陽光+海水淡水化+冷却設備を統合した"メガキャンパス設計"
  ・国家インフラ(発電・送電・水)とAIデータセンターの完全統合モデル
  ・EPC・重電・電線メーカーの国際展開機会
 (4)発電所隣接型モデル(米国・英国)
  ・廃止した石炭火力跡地/既存変電所隣接地にAIデータセンターを直建設
  ・送電距離短縮・専用線・バックアップ設備の合理性
  ・日本国内での「発電所跡地再活用」への示唆
 (5)その他のソブリンAI事例
  ・サウジNEOM(Zero-Emission発電×AIインフラ)

3.事例から読み解く:発電・送電・電気設備のポイント
 (1)発電:電源の"確保競争"が始まっている
  ・専用発電(天然ガス・再エネ・SMR)
  ・PPA(電力購入契約)と電源前払いモデル
 (2)送電:系統容量・変電所・専用線がボトルネック化
  ・AIデータセンターが"送電網の空きを奪い合う"現象
  ・HVDC/系統連系・再エネ連系の重要性
 (3)電気設備:冷却・蓄電・配電の高度化
  ・液浸冷却・廃熱回収・蓄電池併設
  ・高密度GPUラック対応の配電盤・ケーブル・電設工事

4.質疑応答

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