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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

判明したアスクル物流システムで起こったランサムウェア攻撃をAIでシミュレーションする【ランサムウェア対策】

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ランサムウェア関連の投稿で何度も記している通り、シリコンバレーの天才達によって開発されたChatGPTやGoogle Geminiの中にぎっしり詰まっているのは、シリコンバレークォリティの最先端ITの粋であり(膨大なナレッジベースとして収蔵)、日本人のIT専門家の誰もが敵わないような知識量、事例、技術理解などを持っています。以下のカテゴリーにリンクされている投稿群を読めばわかります。素朴に言っても読んでいる英語IT資料の量が日本人には到底敵わないレベルです。

「ランサムウェア被害」カテゴリーの投稿

従って、アスクルで発生したランサムウェア事案についても、インプットが適正ならば、ほぼ正確にランサムウェアが侵入した手口をシミュレーションすることができます。仮説としてそうしたものを提示することができます。

「そんな仮説なんか意味はない。真実が知りたい」とCIOは言うかも知れません。しかしその真実を突き止めることができるハイレベルの専門家は日本に数えるほどしかいません。イスラエルか、インドか、シリコンバレーにいるサイバーセキュリティの天才であって、かつ、アンダーグラウンドで流通しているランサムウェア等の最新情報にも精通しているホワイトハッカーなら、そうした真実を突き止めることができるかも知れません。

そこでセカンドベストとしてChatGPT最新版(特にその有料版)やGoogle Geminiの最新版(同)を試行錯誤しつつも使ってみるというやり方が浮上します。アサヒグループのランサムウェア事案がXで流れて以降、筆者はそうしたことを一種のユースケース開発としてやってきています。

さて。本投稿で行うのは膨大な文書を咀嚼し論理的に完璧な報告書を作成する能力に長けているGemini Pro 2.5(有料版)とDeep Researchを掛け合わせて使って、まず、アスクルの物流システムの全体像を描き出し、その物流システム全体像において、ランサムウェア犯罪集団はどのように行動してアスクルの物流システムを止めたのか?他社の参考になる情報/知見として、手口の技術的詳細を得ると言うことです。

前回投稿でアスクルの物流システムの全体像を公開資料のみから分析しました。そらくかなりの精度で記していると思います。(これができるのは元々GeminiにWMSなどの物流系システム利用事例多数に関する知識があるため<物流システムでも世界トップクラスの知見がある>。アスクルに関する公開情報がある程度インプットされれば高い精度でアスクルの物流システムを脳内で組み上げることができる)

【AI調査術】公開情報からアスクルのSAP S/4HANAを中心とした物流システムの全体構成はここまでわかる

これをベースにランサムウェア犯罪集団のハッキング手口をシミュレーションします。これの目的は、他社がランサムウェア対策として何を行えばいいか?現実的な知識(IT詳細情報が詰まったもの)を得るためです。

以下のGeminiの報告から日本企業は何を学ぶことができるでしょうか?

脅威ベクトル分析:アスクル物流インフラへのランサムウェア攻撃シミュレーション

本章では、第1部で特定したアーキテクチャと、近年のランサムウェア攻撃で一般的に見られる戦術に基づき、詳細かつ現実的な攻撃シナリオを構築します。

2.1 初期侵入:拡張された境界の悪用

アスクルのコアサーバーへの直接的な攻撃よりも、広範なデジタルエコシステム内の弱点を突く攻撃の方が可能性は高いと仮定します。特に、以下の2つの侵入経路が有力です。

  • 主要仮説 - シナリオA:VPN機器の脆弱性の悪用

    これはランサムウェアの最も一般的な感染経路であり、報告されている事例の約7割を占めます。

    • 攻撃経路:攻撃者は、Askul Logistの従業員や小規模拠点がリモートアクセスに使用する、インターネットに公開されたVPN機器をスキャンします。その中で、既知の脆弱性に対するセキュリティパッチが適用されていないデバイスを発見します(これは他のインシデントでも見られる一般的な管理不備です 36)。攻撃者はこの脆弱性を悪用し、Askul Logistの施設内ネットワークへの初期アクセスを確保します。

  • 副次仮説 - シナリオB:MOVO Vistaを介したサプライチェーン攻撃

    これは「アイランドホッピング」と呼ばれる手法を活用します。

    • 攻撃経路:攻撃者は、Askul Logistのパートナーである、地方の中小運送会社を標的とします。この種の企業は、一般的にサイバーセキュリティ対策が手薄である可能性が高いです。単純なフィッシングメールを通じて 、攻撃者はその運送会社のMOVO Vistaアカウントの認証情報を窃取します。その後、正規のパートナーとしてMOVO Vistaプラットフォームにログインし、そこから脆弱性を探索したり、共有データにアクセスしたり、あるいはプラットフォームの欠陥を利用してAskul Logist自身のネットワーク環境へ侵入を試みます。これは、サプライチェーンを標的とする近年の攻撃トレンドを反映しています 。

関連投稿:

あまりに多すぎるランサムウェア被害「VPNからの侵入」を経営者向け解説。対策はゼロトラストVPN

2.2 攻撃の軌跡:足場確保からシステム全体の侵害へ

ネットワークへの侵入後(VPN経由)、攻撃者の目的は即時の破壊ではなく、隠密な偵察活動です。彼らはツールを用いて内部ネットワークをマッピングし、重要な資産(ドメインコントローラー、管理者アカウントなど)を特定します。

次に、内部の脆弱性を悪用するか、窃取した認証情報を用いてネットワークの管理者権限(例:Active Directory環境におけるドメイン管理者)を奪取します。これは、最重要サーバーへのアクセスと制御を可能にするための鍵となるステップです。

洗練された攻撃者は、復旧オプションを排除するため、最初にバックアップシステムを無力化します。バックアップサーバーを標的にし、ボリュームシャドウコピーを削除し、迅速な復旧に利用されうるデータリポジトリを暗号化または破壊します。この行動は、身代金支払いの圧力を最大化するために設計されています。

2.3 影響の中心:物流中核システムの暗号化

管理者権限を掌握し、バックアップを無効化した後、攻撃者は最終的なペイロードを実行します。ランサムウェアは、オペレーションを完全に麻痺させるため、複数の重要システムに対して同時に展開されます。

  • 標的1:WMS/WCSサーバー

    ランサムウェアが倉庫管理・制御システムのデータベースおよびアプリケーションサーバーを暗号化します。

    • 直接的な影響:物流センター内のすべての自動化システム(AGV、ロボットアーム、コンベア、自動梱包機)が機能停止します。倉庫スタッフはピッキング、梱包、出荷に関する指示を受け取れなくなり、物理的なフルフィルメントの心臓部が停止します。

  • 標的2:SAP-WMS連携基盤

    攻撃者は、SAP S/4HANAとWMS間でデータを送信するミドルウェアサーバーを暗号化するか、APIを破壊します。

    • 直接的な影響:「頭脳」から「心臓」への新規出荷指示の流れが遮断されます。仮にWMSが復旧したとしても、処理すべき新しい作業指示が存在しないため、情報がブラックアウトした状態に陥ります。

  • 標的3:Askul LogistのTMSおよび配車システム

    攻撃者は、Askul LogistがMOVO Vistaインスタンスや独自システムとらっくるを管理するために使用しているサーバーを暗号化します。

    • 直接的な影響MOVO Vistaを介した新規のトラック配車が不可能になります。とらっくるアプリにデータを送信できなくなり、ラストワンマイルのドライバーはルートや配送リストを失います。流通の動脈が完全に閉塞します。

2.4 オペレーションの崩壊:システム障害の時系列的分析

技術的な攻撃が、いかに連鎖的に事業へ影響を及ぼすかを非技術者にも理解できるよう、時系列のシナリオを示します。

表2:ランサムウェア攻撃の段階と事業への影響(シミュレーション)

経過時間 技術的イベント(ランサムウェア実行) 直接的なオペレーションへの影響 広範な事業への影響
T=0 WMS/WCSデータベースサーバーが暗号化されます。 全てのAGVとロボットアームが停止します。ピッキング・梱包作業が完全に中断します。 BtoBおよびBtoC事業の出荷が全国的に停止し始めます。
T+5分 SAP-WMS連携ミドルウェアのAPIが応答不能になります。 新規の注文情報が倉庫へ送信されなくなります。 倉庫内の作業が完全に停止し、バックログが急速に増加します。
T+1時間 TMS配車サーバーが暗号化されます。 DCからのトラック配車が不可能になります。ラストワンマイルのドライバーがルート情報を喪失します。 配送網全体が麻痺します。当日・翌日配送の約束がすべて反故にされます。
T+4時間 3PLクライアントのデータがアクセス不能になります。 無印良品やネスレなど、3PL顧客向けの出荷業務が完全に停止します。 顧客サービス窓口が問い合わせで麻痺します。すべての顧客および3PLパートナーとのSLA違反が発生します。
T+24時間 システム全体が暗号化され、身代金要求が表示されます。 全物流オペレーションが停止状態を継続します。手作業での復旧も困難です。 壊滅的な収益損失。ブランドイメージと顧客信頼の深刻な毀損。サプライチェーン全体への波及。

[本レポート作成に使用した資料]

サイバーセキュリティ・ランサムウェア関連


【セミナー告知】

【オンライン】経営企画室が主導するアメリカ基準のランサムウェア対策

- ChatGPT活用情報収集からランサムウェア防御対策プロジェクト詳細まで -

【主催】

一般社団法人 企業研究会

【講師】
インフラコモンズ代表 リサーチャー AI×経営ストラテジスト 今泉大輔

【開催にあたって】
アサヒグループやアスクルが被害に遭っているランサムウェアは、犯罪集団の手口が高度化しており、多くの上場企業が潜在ターゲットになっています。従来サイバーセキュリティはCIO/情報システム部門が管掌していましたが、アサヒに見るように全社規模の営業損失になりかねないことから、対策には経営者の意思決定が不可欠になっています。

このセミナーでは経営者の意思決定を支援する経営企画室が主導するアメリカ水準のランサムウェア対策について、ChatGPT 5を活用した情報収集から現行社内システムに堅固なランサムウェア防御策を組み入れるプロジェクト詳細まで、ノウハウを伝授します。

【対象】
経営企画部門、情報システム部門、リスク管理部門、法務部門、総務部門、管理部門の方、経営者の方など

【日時】
2025年 11月 17日(月) 13:30~16:00    

【受講形態】
オンラインZoomで受講していただけます。会場開催はありません。

【詳細/料金/お申し込み】

一般社団法人 企業研究会サイトをご覧下さい。

【内容】
第一章 海外ランサムウェア事案を熟知しているChatGPT 5を活用した情報収集

 ・主なランサムウェア犯罪集団と手口、被害に遭った主なケース

 ・平均的な身代金、ケースごとの損失額、被害対応のベストプラクティス

第二章 危機発生時に頼りにできる外資系フォレンジック専門会社5社

 ・ランサムウェア事案発生時の典型的な「フォレンジック専門会社の動き」

 ・フォレンジック会社を使えないと何が起こるか?

 ・世界的に定評のある外資系フォレンジック会社5社と日本の窓口

第三章 経営企画部が主導すべきランサムウェア対策の最重要項目5つ

 1.フォレンジック即応契約と「72時間以内復旧体制」の常設化

 2.「事業停止コスト」シナリオ算定と防衛予算の明示化

 3.AI監視+EDR/XDR」統合監視体制の常時運用契約

 4.社長・役員・現場を巻き込む「BCP×サイバー演習」の制度化

 5.「経営サイバーKPI」の設計とIR開示体制の構築

第四章 現行社内システムに堅固なランサムウェア防御策を組み入れる

 ・Wave 1(0~90日)初動・急所補強

 ・Wave 2(3~6ヶ月)構造改革("入らせない・増やさせない")

 ・Wave 3(6~12ヶ月)定着("見える化・自動化・演習")

  会社規模別の費用レンジ(初年度)例:従業員 5,000名規模:5~12億円

  PMO/体制と期間の目安、経営会議用:"社長決裁を仰ぐ予算提案パッケージ"

第五章 危機発生時に初動を仰ぐことができるChatGPT 5

 ・緊急時のシナリオに応じた具体的な活用方法

 ・AIを活用したランサムウェア犯罪集団にはAIで立ち向かう

【本セミナーはZoomを利用して開催いたします】

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