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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

あまりに多すぎるランサムウェア被害「VPNからの侵入」を経営者向け解説。対策はゼロトラストVPN

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VPN経由のランサムウェア被害は、「技術の問題ではなく、経営判断の問題」でもあります。
文系の経営者やビジネスパーソンにも理解できるよう、基礎から整理して解説します。

1. VPNとは何か?

■ 定義(専門用語を使わずに解説)

VPNとは、Virtual Private Network(仮想専用線)の略で、
「会社の外から、会社の中のネットワークに安全に入るための"専用の通路"」のことです。

たとえば、社員が出張先や自宅から自社サーバにアクセスするとき、
インターネットは公共の道路のようなもので危険なので、
暗号化されたトンネル(VPN)を掘って、そこを通って安全に入る――それがVPNです。

2. 企業での一般的な利用シーン

シーン 具体例 補足説明
テレワーク 自宅PC → 社内ファイルサーバ 社内LANにいるのと同じ状態で作業できる
海外出張 現地ホテル → 社内システム(会計、人事) 国境を越えても安全に社内リソースへ接続
拠点間接続 工場・倉庫 ↔ 本社 遠隔地の拠点を一本の社内ネットワークのように扱う

このように、VPNは「利便性」と「セキュリティ」を両立するための技術でした。
しかし――ここに「重大な盲点」があります。

3. なぜVPNが"攻撃のドア"になるのか?

■ 問題の核心

VPNは「社内ネットワークに入るための正規の入口」だからこそ、
一度破られると、社内全体に入れる"正面玄関"になってしまうのです。

■ 典型的な侵入パターン

  1. VPN機器の脆弱性(セキュリティホール)を悪用

    • 例:FortinetPalo AltoPulse SecureなどのVPN装置の古いバージョンに脆弱性。

    • 攻撃者はログインなしで内部に侵入できる場合がある。

  2. VPNのログイン情報(ID・パスワード)を盗む

  3. 多要素認証(MFA)が未設定

    • IDとパスワードだけでログインできるため、盗まれれば侵入可能。

  4. VPNサーバがインターネットに"むき出し"

    • 「誰でもアクセスできる状態」にあり、24時間スキャンされている。

■ つまりVPNは...

「利便性のために設置された正面玄関が、セキュリティ上の最大の弱点になっている」

4. 実際の被害事例

  • Black Basta(英国Capita社など)
     Fortinet製VPNの既知脆弱性(CVE-2018-13379)を悪用して侵入。
     結果、年金情報・医療記録流出、被害額80億円規模。

  • LockBit(国内大手製造業など)
     海外出張者のVPNアカウント情報が漏洩し、そこからActive Directoryへ侵入。
     バックアップごと暗号化され、全工場停止。

  • Qilin(アサヒグループHDなど)
     攻撃経路の詳細は非公開だが、VPN・リモート接続経由の初期侵入が強く疑われている。

5. なぜVPNは「古い仕組み」になりつつあるのか?

VPNはもともと「社内と社外を区別できた時代」の発想です。
しかし、クラウド利用・リモートワーク・海外拠点などで、
もはや「社内」という境界は存在しません。

そのため、セキュリティの世界では今、
"境界防御(Perimeter Security)"から"ゼロトラスト(Zero Trust)"へと移行しています。

6. 現代的な解決策:「ゼロトラストVPN」

比較項目 従来のVPN ゼロトラストVPN(SASE/SSE型)
接続判定 社内ネットワークに入れたら"信頼" 常にユーザー・端末・位置・時間を検証
アクセス範囲 社内LAN全体 必要最小限(業務アプリ単位)
検知機能 侵入後の監視なし 行動異常をAIでリアルタイム検知
更新頻度 年1〜2回 クラウドで常時更新

代表的な事業者例:

  • Zscaler(米国) - ZTNA(ゼロトラスト・ネットワーク・アクセス)の先駆者。日本の窓口

  • Palo Alto Networks Prisma Access - SASE統合プラットフォーム。日本の窓口

  • CrowdStrike Falcon ZTA - EDRと統合されたゼロトラストVPN。日本の窓口

7. 経営層が理解すべき「VPNリスクの本質」

  1. VPNは"便利な社内入口"だが、同時に"攻撃者の入口"でもある

  2. 「閉じたLAN=安全」という発想がすでに時代遅れ

  3. VPNを刷新する勇気が、次世代セキュリティの第一歩

まとめ:ビジネスリーダーのための要約

視点 一言で言うと 経営判断のポイント
技術 VPNは暗号化された社内接続トンネル 安全だが、一度破られると全社侵入される
経営 VPN構造は全社停止リスクの根源 分散構造+ゼロトラスト設計への移行が急務
実行 MFAと脆弱性管理を徹底 CIO主導で"入口管理"を刷新する

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