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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

民間インフラ案件として有望なミャンマー・ダウェー工業団地開発

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前回述べたように、EOI(Expression Of Interest)から落札まで2−3年かかるのが外国政府によるインフラPPP案件。それに対して民間が進めるインフラ案件は、もっとスピーディな動きが期待できます。ということで、日本企業は海外の民間ベースの案件にも目を配るべきだと思います。

民間系インフラ案件の例には、用地をすでに保有している不動産デベロッパーが実施する都市開発および工業団地開発や、特定国の政府から特定企業が勅許を得て行う大規模開発案件があります(なお、都市開発も工業団地開発も日本政府のインフラ輸出支援施策の対象になっています)。

後者の一例が、タイ最大手建設会社イタリアンタイデベロップメント(Italian-Thai Development, ITD)がミャンマー政府から75年にわたるコンセッションを得て開発しているダウェー深海港とそれに隣接する大規模工業団地です。ここに日本企業が受注できそうなインフラ案件がいくつか含まれているように思います。先ほど、このプロジェクトの全体像を説明する投資家向けの資料を見つけたので、それを元に説明します。

■ダウェー開発プロジェクトの概要

ダウェー開発プロジェクトの概要については今年の6月に弊ブログでまとめたことがありますが、非常に興味深い案件なので、アップデートしながら改めて中身を確認してみましょう。

まず、インドシナ半島のメコン川流域に関係するベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、さらに中国の5カ国は、アジア開発銀行が作成した大メコン圏(Greater Mekong Subregion)という経済発展シナリオを共有し、3年ごとにGMSサミットを開催するなどして、政治・経済の相互交流を深めています。

大メコン圏では人とモノの行き来がスムーズになるように、すでに東西、南北の幹線道路が複数ルート存在し、いわゆるアジアハイウェーの一部を形成しています(以下の地図を参照)。しかし、タイ・ミャンマー間については、バンコクのはるか北部にあるピサヌローク(Phitsanulok)からミャンマー最大の都市ヤンゴンへ抜けるルートか、もっと北部の山あいのルートがあるぐらいで、産業の大動脈とも言うべきホーチミン・バンコク間のルートは、タイ・ミャンマー国境に近いタイ側の都市カンチャナブリで行き止まりという状況にあります。付記すれば、カンチャナブリは映画「戦場にかける橋」で知られるクワイ川のある町です。

Asianhighwaynetwork2010gms

出典:UNESCAP (2010)

このルートをカンチャナブリからミャンマー西岸の漁村ダウェーまで通し、さらにダウェーに深海港を建設してインド洋に出られるようにしようというのがダウェー開発プロジェクトです。深海港建設だけではポテンシャルを発揮しきれないということで、深海港に隣接した大規模工業団地も計画されています。以下がそのプロジェクトの概要。

・イタリアンタイは75年間のコンセッションをミャンマー政府から得て、ダウェーに深海港と船荷用ヤードを建設。完成後は港湾運用とメンテナンスを行う。並行して石油化学工場、精油所、製鉄所、発電所、バンコクからの道路・鉄路との接続、石油パイプラインから成る大規模工業団地を建設、運用する。
・深海港は2万〜5万トンの船が25隻同時に接岸できる22の埠頭を備える
・第1フェーズの事業費80億ドル。全フェーズでは580億ドル。
・250平方キロの敷地に2つの工業地区を造成。付設する発電所の発電容量は4,000MW。

全フェーズでは約4兆5,000億円という非常に規模の大きなプロジェクトです。

■大きなポテンシャルを持つエネルギープロジェクト

ダウェー深海港→カンチャナブリ→バンコク→プノンペン→ホーチミンとインドシナ半島を東西に横断する物流ルートが持つ意味は、実は私自身も先ほどまではよくわかっていませんでした。

これまで理解していたのは、日本、韓国、中国の輸出品目がベトナム東岸の港湾で陸揚げされ、難所マラッカ海峡をバイパスする形でダウェー港に抜けてインド洋へ出ることで、それらの工業国に有利な物流環境が生まれるということでした。この区間にかかる日数が数日短縮されます。これはこれで喜ばしいことです。

しかし、地図をじっと眺めているうちに、東から西へという工業製品の流れだけでなく、西から東へと流れるモノもあるなということがわかってきました。中東産油国などからやってくる原油やLNGの流れです。これらがマラッカ海峡を通過せずに、ダウェーで陸揚げされることによって何が起こるでしょうか?

すなわち、マレー半島をぐるっと回ってバンコク以西で精製していた石油製品がまさにダウェーで生産可能になります。また、LNGをダウェーで陸揚げすることにより、パイプラインでタイ内陸部、ミャンマー国内などへ運ぶことも可能になります。さらにはダウェーで陸揚げしたLNGを使って大規模な発電を行えば、電力不足で悩むミャンマー国内などに送電をすることも可能になります。

イタリアンタイデベロップメントがダウェー深海港に隣接する工業団地をなぜ計画したか、また、その工業団地になぜ石油精製プラントがあり、4,000MW(原発4基分)もの大規模な発電所をなぜ併設するのかが、これでようやく納得できたという次第です。そのままでは素通りしてしまうエネルギー資源の流れをダウェーで堰き止め、そこで付加価値を付けて、ミャンマーやタイ、さらに大メコン圏の諸都市に送り出そうというわけです。石油化学製品は中国へも陸送される可能性があります。

プロジェクトの全容を説明した資料では、ミャンマー海域にガス田があることもわかります。そこで産出されるガスは天然ガスのままパイプラインで運ばれるか、量がさばききれないようであれば液化してLNG船で輸出に回ることになるのでしょう。

ダウェー開発は物流インフラプロジェクトというよりは、東アジア有数の規模を持ったエネルギーインフラプロジェクトだということが明らかになってきました。

■日本企業にとってどういう好機があるか?

この大きなポテンシャルを持った案件に対する日本の関与については、報道や政府の発表で以下が伝えられています。

・経団連のミッションが2月にタイでITDのプレゼンを受ける。
 Japanese keen on Dawei work(元記事は2011年2月18日)

・ITD傘下のダウェー開発会社CEOが6月にアジア各国を巡るロードショーの一環で日本を訪問。
 日経:ミャンマー南部の大型開発、日本勢に川上投資期待 開発会社社長(2011年6月20日)

・工業団地内の製鉄所建設において日本企業の関与が伝えられる。
 Bangkok Post: Ratch, ITD do Dawei deal(2011年11月15日)

・11月にインドネシア・バリで開催された第3回日本・メコン地域諸国首脳会議において、野田首相が「連結性の観点からミャンマーのダウェーの連結性や経済特区の開発等を内容とする総合開発調査の実施」を新たに決定した。
 外務省発表:第3回 日本・メコン地域諸国首脳会議(2011年11月18日)

ということで、相応の仕込みは進んでいるようです。

さて。私の見立てでは、この案件にはまだまだ日本企業の参画余地が含まれているように思います。具体的にはこの資料の末尾にある以下のサブプロジェクトです。

Daweiproject

(上掲表中のフェーズ3)
3.3 鉄道 約297億バーツ
3.4 送電線 約111億バーツ 
3.5 石油&ガスのタイへのパイプライン 約538億バーツ

*バーツを2.5倍すると円になります。

これらの案件については、ITDから完工までを請け負ういわゆるEPC契約ではなく、中長期にわたってオペレーションを請け負ってそこから使用料収入を得るインフラビジネスとして受注することも可能なのではないかと考えます。言うまでもなく、日本政府のインフラ輸出支援策にあるJBICのプロジェクトファイナンスを前提とした形の受注です(バンカブルでなければなりませんが)。フェーズ3は2016年に建設スタートなので、おそらくはまだ受発注が決まっていないはず。まだまだ仕込み時だと思います。

前投稿で書いたように外国政府が取り仕切るインフラPPP案件は、受注まで2−3年かかります。こちらについてはITDと話をすればよいだけなので、比較的早期に決まる可能性があります。海外インフラ案件第1号を獲得したい企業さんにはよいのではないでしょうか?

さらには、4,000MWの大型火力発電案件。これについては上のプロジェクトリストには含まれておらず、おそらくは別建てなのでしょうね。規模からすると5,000億円以上を要する超大型案件です。現在、得られる限りの報道ではどこが受注したとも書いていません。タイ国に最大手発電会社がありますが、おそらく資金調達は無理なはず。日本企業の出番です。ミャンマー海域で産出する低コストの天然ガスを使うことができれば燃料費も抑制でき、物価水準が低い国への売電でも採算が合う可能性があります。アプローチしてみる価値は十分にあると思います。

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