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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

いろいろある欧州のスマートシティ

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日本では「スマートシティ」や「スマートコミュニティ」と呼ばれている都市改革のムーブメントは、欧州では非常に裾野の広い展開を見せています。試みにGoogleで "Smart City" Europe をキーワードとして検索を行ってみると、日本で考えるスマートシティとはかなりかけ離れた事例が出てきて、やや面食らいます。
スマートシティは「エコシティ」(Eco City)と呼ばれることもあり、「サステイナブルシティ」(Sustainable City)とも呼ばれています。

関連の検索をする際には、「スマートコミュニティ」は日本だけで使われている用語なのでそれを除いて、"Smart City"、"Eco City"、"Sustainable City"の3つで検索しないと、把握内容に漏れが出ると思います。

■スマートシティに何が含まれるか

エコシティに対する取り組みを1990年代に遡ることができる事例もいくつかあり(ドイツのFreiburg、スウェーデンのMalmoなど)、日本では2010年頃に忽然と出現した観のある「スマートシティ」を彼の地では10数年も前からやっているのかと、やや陶然となったりしますが、要は言葉の使い方の問題。日本で言う「緑の街づくり」に低炭素化方策を組み合わせたものを90年代から"Eco City"と言い表し、それが最近になって、IT方策にアクセントのある"Smart City"的な様相が出てきているということです。「緑の街づくり」なら日本でも20年ぐらいの歴史があるのではないでしょうか。

"Smart City"、"Eco City"、"Sustainable City"の定義が明確になっており、それぞれの相違点と共通要素がはっきりとわかればよいのですが、実際はそれぞれがほとんど同じものを指しており、対象範囲が話者によってずれるという具合です。相手がどこからどこまでをスコープとしてその言葉を使っているのか、常に確かめながら、読んだり話したりすることが重要です。

そもそも「都市」は多種多様な要素を包含します。話者がいる業界によって、輸送手段に目が行ったり、エネルギー方策に目が行ったりしますが、都市計画を策定し実施する地方官僚の立場から見れば、関連する「すべての要素」をに目配りをしています。そして、スマートシティ投資の意思決定を下すのはそうした地方官僚であるので、関連のビジネスを行う側は彼らの視点をよく学ぶ必要があると思います。スマートシティ開発のもう1つの主体である不動産デベロッパーの場合も同様です。

この「すべての要素」も、その人の主義主張によって、企業誘致や恒常的な税収の安定化(すなわち雇用創造、ニアリーイコール企業誘致)が含まれるとする人と、それはスマートシティの枠組みで考えなくてもよいという人とに分かれます。地方官僚の視点からは、税収が長期にわたって安定的に得られることは都市経営に不可欠な要素であり、それなくして「何のスマートか?」という考えもあろうかと思います(言うなれば、都市がスマートであるためには税収のサステイナビリティが不可欠=サステイナブルシティは税収の安定の上に成立する)。

スマートシティという語義(賢い都市)から、最低1つは大学がなくてはダメだという考え方も根強いです。天津エコシティでも広州ナレッジシティでも知識産業、コンテンツ産業の誘致に熱心ですが、欧州にも、活気ある都市づくりには大学を中心とした知識産業の隆盛が不可欠だと考える首長が少なくないようです。そのことから、スマートシティ化のプログラムの中には大学の振興、文化拠点性の充実などが入ってきたりします。

もう1つ、事例によっては、都市間競争をかなり明確に意識している場合があります。よく引き合いに出されるアムステルダムが典型です。都市間競争では、雇用力の高い企業や成長性の高い企業を、観光客を、国際会議開催を、知識や文化の拠点設置を、国際ホテルや有力商業施設を、競合する都市との間で奪い合います。その文脈におけるスマートシティ化は、競争力を総合的に高めるためのエコロジカルな先端方策ということになるかと思います。

■スマートシティの全体性に関するひとつの見方

European Smart Citiesというヨーロッパの多数の都市をスマートシティという観点でランキングしたサイトがあります。IT系のキーワードとしての"Smart City"が出現するよりも2−3年前の2007年に構築されたサイトですが、ここが出しているスマートシティの捉え方が1つの規範になるのではないかと考えています。

ウィーン大学の地域科学センターの研究プロジェクトから生まれたこのサイトでは、スマートシティには以下の6つの要素がバランスよく含まれていなければならないとしています。

  • スマートな経済
  • スマートな交通
  • スマートな環境
  • スマートな住民
  • スマートな生活
  • スマートなガバナンス(地方自治)

日本のスマートコミュニティの文脈で言うCEMS(Community Energy Management System)は、ここでは「スマートな環境」を構成する一要素に過ぎません。それぞれの要素に含まれるサブ要素はこちらのページで確かめることができます。

「スマートな住民」には「生涯学習の熱心さ」や「オープンマインドであること」といったサブ要素が含まれます。「スマートな生活」には「旅行目的地としての魅力」や「社会的な一体感」といったサブ要素があったりします。こうした要素やサブ要素への着目は、都市が「多様な住民によって構成される生き生きとした生態系」でなければならないという考えの表れだと考えられます。生態系としての都市が活発であり多様性を得て、かつ持続可能なものであるためには、環境要素だけでなく、住民の幸福度なども考慮する必要があり、あてがわれる方策は技術系だけではなく、人間系の方策も多く含まれてきます。それらすべてがバランスよく動いて初めてスマートシティたりえるというわけです。

■都市計画立案の視点でスマートシティを捉える

このような、日本のスマートコミュニティ文脈から見れば、かなり異質とも言えるスマートシティへの取り組みが欧州では数多く行われています。事例に行き当たるたびに、こんなのもあるのかと驚くことしきりです。

デンマークの建築家グループが運営しているサイト"Sustainable Cities"では、事例セクションに彼らの言う"Sustainable City"の事例がたくさん収蔵されています。建築家の目線で選んでいるため、単体の建築物も少なくないですが、地域開発事例も多数あります。

このような多様なスマートシティ、エコシティ、サステイナブルシティの事例や捉え方を見ると、日本のスマートシティ・スマートコミュニティの動きが製造業のプロダクトを展開するための「場」という性格が強く、包括的な都市づくりの文脈からややはずれたところにあるということが、だんだんとわかってきます。日本のスマートシティはおそらく、都市計画を立案・推進する立場の地方官僚やデベロッパーの人からするならば、「やや製品に寄りすぎている」スマートシティであり、「うちらは、もう少し違うことを考えているんだけどなぁ」というところではないかと思います。先日もジャカルタの不動産デベロッパーの方とお話していて、そんなことを強く感じました。

日本のスマートシティ・スマートコミュニティの試みが日本の自治体や海外の都市に根付くためには、こうした欧州事例の「すべての要素」に目配りするアプローチを参考にし、「すべての要素」のなかでスマートシティ関連製品や技術がどういう役割を担うことができるのかを再吟味する必要があるかも知れません。

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