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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

固定価格買取制度がスタートしても風力発電が活発化するのは東京電力、中部電力、関西電力の管内のみになりそうなことについて

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このことを明確に指摘している記事や資料がまだないようなので、押さえておいた方がいい事実ということで記しておきます。

結論から言うと、固定価格買取制度がスタートしても、北海道電力、東北電力、中国電力、北陸電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の管内では、風力発電が増える見込みはありません。特に風力発電の適地が多い北海道、東北、九州で増えそうにないのが残念なところです。

一方、東京電力、中部電力、関西電力の管内では下記の連系可能量の制約がなく、適地がありさえすれば風力発電が活発になる可能性があります。

■簡単な説明

・風力発電は出力が変動するため、電力会社側でその出力の変動を吸収することが必要です。そのためほとんどの電力会社では、風力発電を接続できる量(連系可能量)を算出しています。
・各電力会社管内における風力発電の連系可能量は以下の通り。(日本風力協会が2008年に調べた数字。その後も各電力会社では変化がない模様)
 北海道電力 31万kW 
 東北電力 85万kW 
 中国電力 62万kW
 北陸電力 25万kW
 四国電力 25万kW
 九州電力 100万kW
 沖縄電力 2.5万kW
 合 計 330.5万kW 
・これらの電力会社管内ではすでに相当量の風力発電施設(電力会社系+発電事業者系)が稼働しており、連系可能量の大半が使われてしまっています。
・また、現在は空いている枠も、電力会社が昨年までに行った接続を希望する風力発電事業者の「募集」により、ほぼ枠が埋まってしまった状況です。
・よって、固定価格買取制度がスタートして、採算が取りやすくなった風力発電分野において事業を立ち上げようと思っても、これらの管内についてはつないでもらえない(買い取ってもらえない)ことが予想されます。
・なお、東京電力、中部電力、関西電力の3社については、系統が大きいために風力の出力変動を吸収できる余地が大きく、連系可能量の制約はありません。

■もう少し詳しい説明

・電力は貯めておくことができないため(揚水発電や蓄電池がカバーする量はごくわずか)、電力会社ではその瞬間瞬間の需要を見極めながら、細かく発電量を調整して、需要と供給を一致させています(いわゆる同時同量)。
・需要と供給を一致させるために、電力会社では以下の3つのレベルでコントロールを行っています。
 - 数秒〜数分程度の周期
 - 数分〜十数分程度の周期
 - 十数分〜数時間程度の周期
・「数秒〜数分程度の周期」ではガバナフリーと呼ばれる発電機の回転数の微調整で対応します。
・「数分〜十数分程度の周期」には、周波数制御装置を使ったLFC(Load Frequency Control)と呼ばれる自動制御で対応します。
・「十数分〜数時間程度の周期」には、給電司令所による人の指示によって、発電機を動かしたり止めたりして対応します。
・風力発電では、その時々の風の状況に応じて発電量が大きく変動します。風力発電の出力が不意に大きくなると、需給を一致させなければいけない電力会社ではどこかの発電機の出力を絞るなどして、全体の供給量を調整する必要があります。また、風力発電の出力が急に小さくなると、機敏に追従が可能な火力の出力を上げて、やはり全体の供給量を調整する必要があります。こうしたことから、個々の電力会社の系統では、「系統内の全設備を使ってコントロール可能(吸収可能)な風力の出力変動の限界」があります。
・風力発電の連系可能量は、LFCがカバーできる量に大きく左右されます。
・また、火力発電など追従性に優れる電源の出力を絞ることによって風力発電の急な出力上昇を吸収できる量は「下げしろ」と呼ばれており、この下げしろにも、各電力会社の発電機の構成によって限界があります。
・下げしろが足りない時には、接続している風力発電機に「解列」と呼ばれる、接続の遮断(発電の停止ないし送電の停止)を求めることがあります。
・これらのことから、各電力会社では、自社の系統で受け入れが可能な風力発電の容量ということで連系可能量(上記)を算出し、発表しています。
・再生可能エネルギーの普及を促すRPS法により、個々の電力会社管内では相当数の風力発電機がすでに稼働しています。風力発電事業を開始したい事業者は、個々の電力会社が1〜2年に1度程度行う「風力発電の募集」に応募し、抽選で事業枠をもらわなければなりません。その電力会社に電気を買い取ってもらう事業者も、そうでない事業者も、系統につながないと送電ができない事業者はすべてこの「募集」に応募し、抽選に当たる必要があります。
・この募集枠も、そろそろ空きがなくなっている状況があるようです。東北電力の例で言うと、連系可能量は85万kW(これも近年拡げられたものです)。2010年10月に計26万kWの募集が行われ、これによって残り枠はほぼなくなった模様です。他の電力会社でも似た状況のようです。
・従来、これらの電力会社で行われていた「風力発電の募集」は、今後スタートする固定価格買取制度とは直接的に関係のないものですが、各電力会社で連系可能量の制約がある以上、固定価格買取制度がスタートしても「風力発電が接続できる量」=「買い取れる量」はその制約を受けることになります。すなわち、連系可能量がほとんどなくなってしまっているので、買取に応じられないということになります。

■蓄電池を組み合わせるケースについて

・蓄電池を組み合わせると風力発電の出力の変動を平準化することができます。これにより、電力会社のLFCや給電指令に基づく需給調整に負担をかけずに系統に接続することが可能になります。
・風力発電+蓄電池によって連系可能量が増えることについては、個々の電力会社で対応が異なるようです。東北電力の場合は、蓄電池を併設する事業者のための枠を別途設けて募集しています。しかし、それでも全体の連系可能量に限りがあることに変わりはなく、残り枠はもうないようです。
・なお、蓄電池を併設するケースでは、当然のことながら蓄電池設置のコストが事業者側の負担となります。これによって投資回収の厳しさが増します。

■関連の資料

・東北電力の募集の告知(他の電力会社でも同じ文言で募集しているので、検索ですぐに見つけられます):平成22年度 風力発電募集説明会の開催について
電力会社における周波数調整と会社間連系について(東京電力、2008年)
東北系統への風力発電の連系可能量の検討結果(東北電力、2009年)
蓄電池併設による風力導入拡大効果について(九州電力、2005年)

■固定価格買取制度スタート後はどうなる?

以上のことから、上記の各電力会社の管内では実質的に風力発電事業を開始することは困難です。また、接続の枠があるとしても、抽選に当たらないと事業が始められないという歯がゆい状況があります。消去法的に連系可能量を設定していない(接続の制約がない)東京電力管内、中部電力管内、関西電力管内で適地を探し、事業を立ち上げるということになるでしょう。
用地の選定にあたっては、やはり自治体の協力を仰ぐのが現実的だと思われます。すなわち、風力発電推進に理解のある首長が率いる自治体では、にわかに風力発電が活発化する可能性があります。しかし、適地をどこに求めるかです… → 海岸沿いや、やはり海に面した工業用地の空き地をフルに利用するというパターンがまず思い浮かびますね。

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