インフラ事業の基本用語:バンカブル
■言葉の意味
「バンカブル」。英語では"Bankable"。名詞形で"Bankability"を使うこともあります。
日本語では、「××××案件をバンカブルにするためにいくつかの方策を付加する必要がある…」といった使われ方をします。
バンカブルの意味は、その案件に銀行融資が可能な状態になっているということ。ここで言う案件は大きな金額の初期投資を必要とするインフラ案件ということなので、この「銀行融資」は、すなわちプロジェクトファイナンスということになります。
従って、ある案件がバンカブルであるかどうかは、プロジェクトファイナンスが成立しそうな案件であるかどうか、ということを意味します。
例えば、先日の孫社長が打ち出した太陽光発電所建設構想。あのプロジェクトがバンカブルであるかどうかは、きわめて重要なポイントです。あのプロジェクトがバンカブルなものになるためには、先日も書きましたが、全量固定価格買取制度(フィードインタリフ制度)が不可欠です。
■プロジェクトファイナンスの融資が可能になるには
20年といった長期にわたるコンセッションを外国政府からもらって行うインフラ案件でプロジェクトファイナンスが成立するには、少なくとも、以下の条件が満たされる必要があります。
・コンセッション期間の需要が読める
・サービス購入型(大口顧客に対して一括納入するモデル)では、大口購入者(オフテイカー)が長期にわたって購入を約束しており、かつ、買取価格も下限が決まっている。
・独立採算型(消費者などから料金を徴収するモデル)では、需要予測に基づいてシミュレーションした売上が安定している。
・サービス購入型あるいは独立採算型のいずれであっても、コンセッション期間にわたってシミュレーションを行った結果、得られるキャッシュフローがプロジェクトファイナンスの返済額をカバーし、出資者に対する配当もカバーし、妥当な内部留保も可能にする水準である。
■外国政府官僚も「バンカブル」を気にする
一般的に、ある案件がバンカブルであるかどうかは、入札する民間企業側が気にするべき事柄ですが、最近では、新興国の官僚が、これから競争入札にかける案件を「バンカブルなものにする」ために、色々と工夫する傾向が見られます。
すなわち、民間企業が落札しても、通常の営業努力だけではプロジェクトファイナンスの融資を返済し、かつ、落札コンソーシアムに配当原資が残らないような収益しか見込めない案件では、収益を穴埋めするものとして、"Viability Gap Funding"の方策を付与することがあります。一種の補助金、あるいは、政府筋による金融支援です。
"Viability"とは、その案件が"Viable"、すなわち「民間企業が実施するに足る採算性を持った案件である」ということ。"Viability Gap Funding"で、「採算性にギャップがある案件に対して行う"Funding"=資金措置」という意味です。
■バンカビリティが高い案件とは
新興国では、インフラ案件の競争入札にできるだけ多くの国際プレイヤーに集まってもらいたいため、案件をバンカブルなものになるようにデザインした上で公開する気運が高まっています。従来のように、殿様商売的に、「案件がここにあるので、民間企業は粛々と入札登録をするように」といった高飛車な態度は少なくなっているようです。
一般的に言って、バンカビリティが高い案件とは、
・大口購入者(オフテイカー)が長期にわたり一定価格以上での購入を約束している案件。例:発電所、海水淡水化プラント、ごみ処理施設
・大多数の消費者が、予めその利用料を支払うことに同意している案件。例:上水道
・利用者(法人含む)が実質的にその施設を使わざるを得ず、利用料水準が国際的に決まっている案件。例:空港の離着陸関連施設
といったものだと考えられます。
それに対して、顧客の動きが読みづらく需要が大きく変動する可能性のあるもの、市場独占の要素が薄いもの、将来において競合する施設が近隣に建設される可能性があるものは、長期のキャッシュフローシミュレーションを行ってみると、返済不能な水準に陥る時期が出るかも知れず、バンカビリティが低い可能性があります。
なお、新興国の場合で、消費者の料金支払で売上が立つ事業モデルでは、その国の消費者が妥当だと考えている料金水準が実質的にキャッシュフローを決めてしまうことがあります。上水道の場合だと、消費者が「毎月支払えるのは500円程度である」と考えている国で展開する場合には、それを超えるような料金設定は現実的に難しく、収益にキャップが被さっている格好になります。すると、事業設計もその収益上限に基づいて行わざるを得ず、結果として、初期投資にかけられる金額が決まってきます。