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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

中東インフラ市場のすごさがわかる6本の記事

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ブログの場をお借りしているITmediaさんの「オルタナティブブログ」が開設から6周年だそうで、おめでとうございます。
2005年から長らくお世話になっております。今後ともよろしくお願い申し上げます。

6周年にちなみ「6」がつく話題ということで、たまたま連続的に目に飛び込んできた中東関連のインフラの記事を6本、簡単にメモします。中東の動きは定常的に追いかけていませんでしたが、大きな動きがいくつもあることがわかりました。
日本にいると、先頃の政変で全域が沈滞しているように思えますが、現地メディアの報道を読むと、アジアとはまた異なる活気があり、お金の流れもまったく違うようです。
2009年のドバイショックによって商業不動産系の案件への融資は止まった模様ですが、インフラ案件については盛り返してきてるのかも知れません。

■カタールがワールドカップ2022を控えて建設ラッシュ

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カタールの首都ドーハのスカイライン(2008年)。Photo courtesy of Zitona

カタールの首都ドーハの最近の写真を見るとすごいですね。現代的なデザインの高層ビルが林立していて、上海の浦東を思わせます。掲げた写真は2008年7月に撮影されたもの。建設中のビルがいくつもありますね(写真をクリックして拡大するとわかります)。一番下の記事にもドーハの写真がありますが、こちらは2010年12月のもの。ほとんどのビルができあがっています。

カタールは2022年のワールドカップ開催国となったそうで、スタジアムなどの関連設備の建設が急がれています。とは言っても、9つの競技場の建設費は40億ドルに留まります。政府と民間によるインフラないし建設関連プロジェクトは2015年までの間に530億ドルが予定されており、2015年からワールドカップの2022年にかけてはさらに1,000億ドル分のプロジェクトがパイプライン状態(計画段階)にあるとのこと。
出所の異なる数字としては、政府が新ドーハ国際空港に230億ドル、都市間鉄道および都市内ライトレールに350億ドルを割り当てているというのがあります。

不動産系の調査会社によると、カタール1国の建設関連投資は中東北アフリカ地域の総投資の19%を占めます。

以上はこちらの記事(Building momentum - Qatar investing in infrastructure)から。

■ドバイメトロの第2期新線が開業迫る

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ドバイメトロの駅。Photo courtesy of ~Pyb

三菱重工などの日本企業が関わったドバイのメトロ。無人運転と駅の斬新なデザインが特徴です。2009年9月から営業している第1期の路線はレッドラインと呼ばれ、今年夏に開業予定の第2期の路線はグリーンラインと呼ばれています。

こちらの記事(UAE: Dubai Metro Green Line set to boost integration of mass transit modes)によると、ドバイのメトロは、いわゆる「パーク・アンド・ライド」の定着に貢献しているようです。駅まで車でやって来て駐車をし、そこから電車に乗るスタイルです。電車を降りた先では接続が便利になっているバスないしタクシーを利用します。

グリーラインの起点にある駅では住宅地からやってくる通勤者のために2,300台分の駐車場が用意され、将来的には6,000台に拡張予定とのことです。巨大な駐車場ですね。

ドバイの成功が中東の各都市に影響を与えて、この地域全体でライトレール建設が活発化するのはほぼ確実でしょう。二酸化炭素排出削減方策としても期待がかかります。

■世界銀行主導の中東インフラ向け基金が始動

中東にはサウジアラビア、カタール、UAEのような富裕な国がある一方で、水や電気のインフラがまだまだ不足している国がいくつかあります。中東地域の1人当たり水供給量は世界平均の20%に留まり、この数字は今後も向上する見込みがないそうです。
電力需要も増大していますが、それを満たすには年間300億ドルの発電などへの投資が必要。インフラ全分野では中東・北アフリカ地域の需要は年間750億〜1,000億ドルに上ると言われています。先頃の「アラブの春」の背景にあった失業率の高さを解決するためにも、各国政府はインフラ建設を活発化させていく必要があります。

こちらの記事(World Bank Tackles Infrastructure Challenge in Middle East and North Africa region)によると、先頃ヨルダンの首都アンマンで開催されたアラブ連合のインフラ整備をテーマにした会合で、Arab Financing Facility for Infrastructure(AFFI)と呼ばれるインフラ支援の金融措置を設けることが決定しました。これは世界銀行系のInternational Finance Corporation (IFC)とイスラム諸国を対象にした公的金融機関Islamic Development Bank(IsDB)とが中心となって資金を出して10億ドルの資金をプールし、パイロット的なプロジェクトに投融資を行って、他のプロジェクトへの呼び水とします。先般の「アラブの春」の争乱によって民間資本が及び腰になっていることから、その打開を図るようです。
対象になるプロジェクトは、既存の金融スキームによるものに加えて、イスラム法に基づくイスラム金融によるものも含まれます。
これまで世界銀行は中東・北アフリカ地域のインフラに年間10億ドルを、IFCは過去4年で10億ドル超を、IsDBは過去5年にわたり毎年13億ドル以上を投資してきており、それに上乗せする資金措置となります。

■周辺国に延伸するヨルダンの高速鉄道計画

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ヨルダンの首都アンマンの街並み。Photo courtesy of Adam Reeder

ヨルダンで高速鉄道計画が動いています。これの規模がなかなか壮大で、こちらの記事($ 5 billion railway plan to transform Jordan into a regional trade hub)によると、ヨルダン、レバノン、シリア、イラン、トルコ、イラク、サウジアラビア、その他の湾岸諸国をつなぐものになるとのこと。総延長1,600km。日本の東海道、山陽、東北、上越、北陸、九州の各新幹線の総延長約2,600kmと比較すると、相応の規模であることがわかります。旅客列車は時速160kmが予定されています(高速鉄道にしては遅い方ですね)。

ヨルダンはこちらの地図で見るとよくわかりますが、この地域の結節点に位置しています。ここから路線を東西南北に伸ばすことで、通商のハブになることを期待しています。
建設資金については公的金融機関Islamic Development Bank(IsDB)が中心になって、各地域・国の公的金融機関に声をかけて調達します。日本の国際協力銀行も参画する見込みです。

ヨルダンのやや北に位置するトルコでも高速鉄道計画がかなり進展しているようで、そうした路線と接続すれば、この地域の人の移動が大きく変化するでしょう。

交通・物流系のインフラは、地理的な「十字路」に相当する場所に集中投資することで、高い投資効果が得られるようです。トルコなども欧州とアジアをつなぐ、よい位置に存在しており、数多くの交通・物流系インフラのプロジェクトが動きつつあります。

■モロッコの水インフラ整備を韓国が支援

Morocco

モロッコの首都ラバト。Photo courtesy of sandyraidy

この記事(Morocco, South Korea sign water and environment MoU)では、詳細が書かれていませんが、韓国がモロッコとの間で、水分野と環境分野に関する協力について、二国間の覚書を取り交わしたと報じています。

この種の二国間のインフラに関する協力では、日本政府の場合であればデリー・ムンバイ間産業大動脈構想やインドネシアのインドネシア回廊のインフラ整備で前例があります。また、JICAが多数のプロジェクトを走らせています。従来からのODA的な枠組み(主に無償資金協力や技術協力)に加えて、最近では自国の企業が相手国に進出するのを支援する目的で、相手国のPPPプロジェクトに出融資を行うタイプの協力があります。

インフラに関する二国間の協力は自国企業の輸出を助ける側面があるので、韓国に限らず、他の国でも取り組みが活発になりそうです。

■カタールが都市交通の競争入札を準備中

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カタールの首都ドーハのスカイライン(2010年)。Photo courtesy of etnobofin

最後にカタールの記事をもう1つ。上のドバイに加えて、カタールでもライトレールの建設を競争入札案件として実施します。この記事(Qatar Railways to issue first tender for metro system in three months)によると、向こう3ヶ月以内に公開されるとのこと。総事業費1,300億カタール・リヤル、ということは357億ドルです。やはり大きなプロジェクトですね。記事には駅数100とあります。
2020年にワールドカップが開催されるので、第1フェーズは2021年までの完成が目標です。発注者はカタール鉄道会社。

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