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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

どう変化する今後の原発計画? - ベトナム

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原子力発電所の輸出は、わが国のインフラ輸出政策においても1つの柱となっています。福島第一原子力発電所の事故が海外の国々の原発推進にどのような影響を与えているか、現時点の報道から拾ってみます。まずはベトナムについて。

■原発計画続行の意向

Financial Times: Vietnam: nuclear still a go

フィナンシャルタイムズのこの記事では「日本で地震および津波となって表れている気象の変化と自然災害の可能性を考慮すると、原子力発電所の安全はきわめて重要であり、最優先事項だ」というベトナム外務省報道官のコメントを引用しています。

ここで言われている「気象の変化と自然災害」とは、国土に長い海岸線を持つベトナムにおいては、近年の地球温暖化によって海面水位が上がってくることがすなわち大きな自然災害につながるということを意味しています(島国インドネシアにも同じような認識があります)。ちなみにベトナムでは地震が活発ではないそうで、ありえるのは台風に伴う高潮だと思われます。そうした自然災害を防ぐには二酸化炭素を排出しないエネルギー源を増やさなければならず、それはベトナムにとっては現在のところ原子力であるということです。

報道官は、ベトナム政府は今後も日本政府や他国のパートナー(ロシア)と緊密に原子力エネルギーの開発を進めていくが、一方で原子力の安全と自然保護にも注意を払っていくと述べています。
以下の記事でもほぼ同じ内容を報じています。

Vietnam says safety key in nuclear programme

ベトナム政府関係者の発言を書いている記事はこれら2本だけでしたが、おそらくベトナム政府の本音と見てよいでしょう。

先日も書いたように、ベトナムでは電力が足りていません。現在の発電は4割が水力でなされていますが、渇水傾向にあるため、総発電量が不足していて停電が慢性化しています。これを抜本的に解決するために、向こう20年で8カ所の原子力発電所を建設する計画があります。最初の原発をロシアが受注し、2つめの原発を日本が昨年11月にフランス、韓国に競り勝って受注しました。

原子力を放棄するという選択は、外貨で天然ガスを購入して発電容量を増やすことに他ならず、経済がまだまだ発展途上の同国にとってはありえない選択だと思われます(天然ガス以外の化石燃料だと二酸化炭素排出量が多すぎます)。また同国の場合は日本同様に国土が狭く、太陽光発電のような場所を多く必要とする再生可能エネルギー発電を大々的に展開することは難しいと思われます。発電単価という意味でも太陽光発電はまだまだ高く、量を確保するには現実的ではありません。あるとすれば洋上風力発電でしょうか?しかしながら、同国では風力発電は未だ検討されている気配が見られません。現実的な解は原子力ということになります(ただ、可能性としては、隣国ラオスが注力する水力発電から購入して国内需要の一定割合を満たすという選択肢があります。類似した選択肢では中国からの買電もあり得ますね…)。

今後、原子力発電所建設にあたっては、安全上の方策の充実を求められることは間違いなく、従来想定していた計画よりも初期投資がかさむ可能性があります。同国の場合も日本と同様に、原子力発電所は海沿いに建設されることになると思われます。高潮による被害が発生しないような設備への投資が新たに必要となるでしょう。こうした追加の投資は、政府系電力会社への売電価格を調整して長期で回収することになります。

■海外メディア一般の報道姿勢

補足として記します。海外メディアの福島第一原発に関する報道一般に見られる姿勢として、放射能防護服に身を固めた係員が赤ちゃんの被爆状況をテスターで検査している様など感情に訴える写真を掲げて、日本が放射能汚染で相当にひどいことになっているという先入観の元に、色々な事実や推測を記述するということがあります。従って、かなり悲観的に、誇張と思えるほどの筆致で書いています。ちなみに、リンクした記事にある写真は他の米英系ニュースサイトでも見ました。

これは、原子力発電所や放射能汚染について正確な知識がないために、不安が先走っているためだと思われます。

しかしながら、原発では長い歴史がある日本のわれわれでさえ、正確な知識があるわけではなく、数々の記者会見やテレビ、新聞の報道、ソーシャルメディアに流れる専門家の解説などに接して初めて、何がいけなくてこのような事態になったのか、放射能はどの程度危険なのかということの理解ができたわけです。他国のメディアが、知識のなさのゆえにセンセーショナルに書き立てることを責めるわけには行きません。

取り得る方策としては、海外メディアに対して、英語により、正確な情報を、彼らが理解できるような専門家による補足情報も添えて流すのが一番だと思われます。

今回の事故は、わが国観測史上最大のマグニチュードを持った地震による大津波が原発の冷却用システムを破壊したことによって引き起こされた、すなわち、原子炉そのものの事故ではなく、支援系システムが非常にまれな天災によって破壊されたという発生確率のきわめて低い事象だということが、海外メディア一般には理解されていません。

地震や津波が起こりにくい国では発生しえない事故であること。支援系システムの冗長化によって避けることが可能な事故であること。そういったことが海外メディアで記事を書く人たちには理解されておらず、それがために、盲目的に「原発は果たして安全か?」という議論が引き起こされています。その無理解が正しい情報の流布によって改められなければなりません。

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