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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

HyfluxによるTuas海水淡水化プラント事例 - マレーシアから「水」で独立する必要があるシンガポールの水PPP事例(中)

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シンガポールのTuas海水淡水化プラントは、同国初のPPP適用案件であり、落札したシンガポール水企業大手Hyflux(特別目的会社SingSpring)と発注した同国公益事業庁PUBとの間で2005年〜2025年までの20年間の飲用水購買契約が結ばれています。海水淡水化PPP案件としては、1つのモデルと言える内容を持っていると思うので、細かな部分も拾って記します。

情報源としては、PUBがPPP案件のノウハウ共有という視点で本事例等を説明した"PUB Singapore’s Experience in Public-Private Partnership (PPP) Projects"(2008年10月)、落札した特別目的会社SingSpringの持ち株会社(インフラファンド的な位置づけ)であるCitySpring(Hyfluxが出資)が本事例を説明した"SingSpring - A Positive PPP Experience" (2009年6月), (財)自治体国際化協会が海外のPFI、PPP事例を研究する目的で作成した報告書「海外比較調査 自治体業務のアウトソーシング」(2005年5月)、および関連の報道記事を用いています。最後の報告書は、日本の官公庁・自治体がPPPを行う際に実務面を確認するのによい内容だと思います。

[PPPを導入したシンガポール政府の意図]
・シンガポール政府は2000年代初めから"Best Sourcing"と呼ばれる公営サービスの民営化政策を開始。市場化テストを行うなどして、民間の方がよりよいサービスをより安いコストで提供できる場合には、サービスを民間に任せる方向に転換。
・PPPの対象になるのは、5,000万シンガポールドル以上の事業。
・これにより新市場が生まれ、民間企業側でも公益サービス運営の経験を積むことができる。
・なお、同国財務省はPPPのハンドブックを作成し、パブリックセクター、プライベートセクターの双方が実務レベルで推進できるように便宜を図っている。

[水を所管するPUBの意図]
・海水淡水化を推進することにより、最重要課題である飲用水の長期的な安定供給に資することができる。
・PPPプロジェクトとして競争入札にかけることにより、相対的に低コストの水を調達することができる。
・プラント建設のコストが肥大するリスクを民間側にシフトすることができる。
・水分野で経験を積んだ企業がゆくゆく国際展開を図ることも期待できる。

[プロジェクト概要]
・造水量30万ガロン(13万6,000立方メートル)/日の世界第二位の海水淡水化プラント。
・PUBが、造水を行う特別目的会社との間で、20年(2005-2025)にわたる飲用水購買契約を締結。
・いわゆるDBOO(Design、Build、Own、Operate)モデル。ファイナンスも民間が行う(正確に言えばDFBOOモデルということ)。
・PUB側では需要に基づき最大30万ガロン/日までを購入(購入量は変化する)。
・製造される飲用水はWHOが設定する飲用水基準に合致する必要がある。

[競争入札経緯]
・2001年3月に案件公開、入札資格認定を経て2001年11月に11の企業グループに対してプロポーザル提出(見積含む)を要請。2002年5月に4つの企業グループからプロポーザル提出がなされ、2003年1月に落札者を決定。
・落札したのは、当時フランスの水大手Suezの子会社であったOndeo(現在は資本関係を解消してNalcoという社名に変更)と、シンガポールの水処理会社Hyfluxによるコンソーシアム。1立方メートル当たり0.78126シンガポールドルという、当時の世界最安値で落札した。ただしその後、Ondeo社は同社事業再構築を理由にこのコンソーシアムから脱けている。
・他には、SembCorp Utilitiesが0.96188シンガポールドル、Tuas Powerと三菱商事のコンソーシアムが1.01171シンガポールドル、Keppel FELS Energyが1.4050シンガポールドルで入札している。

[ファイナンシング]
・Hyfluxは傘下に100%出資のTrust(一種のインフラファンド)であるCitySpringを作り、その子会社という位置づけで特別目的会社SingSpringを設立。なお、CitySpringは他にもインフラ関連の特別目的会社を持っている。
・Hyfluxは本件落札により、3年にわたる計5,700万米ドル以上のエンジニアリングおよび建設を受注。さらに総プロジェクトコストは1億5,000万米ドルに上った。
・SingSpringは総プロジェクトコストのうち、2,800万ドルをHyflux(CitySpring経由)からの出資により、残り1億2,200万ドルを金融機関からのプロジェクトファイナンスによってカバーした(Singspring awarded PUB desalination project)。
・プロジェクトファイナンスは、DBS Bankが幹事行になり、KBC Bank、ING Bank、Standard Chartered Bankによって行われた。融資期間は15〜17年。
・SingSpringに対するファイナンシングのアドバイスはHunton & Williamsが行った。

[特別目的会社SingSpringから見た受発注関係、契約関係]
・HyfluxはSingSpringの親会社であるものの、本プロジェクトの推進主体でありファイナンスを受ける主体であるSingSpringを中心にした契約関係で見れば、SingSpringがオペレーション&メンテナンスを発注する事業者という位置づけ。エンジニアリングおよび建設もSingSpringがHyfluxに発注する格好になる。
・以下の2枚の図を参照。2枚目の図の管理運営会社、建設会社がHyflux(およびその関連会社あるいは孫請け)になる。

Singspringstructure01

出典:"SingSpring - A Positive PPP Experience"

Singspringstructure02

出典:「海外比較調査 自治体業務のアウトソーシング

[SingSpringがPUBから得る収入]
[PUBが本PPP案件設計に際して留意した点、リスクヘッジ方策]
[SingSpringが造水単価を安くできた理由]

については次の投稿で記します。

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