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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景] 政府・民主党、国際協力銀行を分離・独立、インフラ輸出支援

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今日付の日経朝刊で「(政府・民主党、)国際協力銀を分離・独立、インフラ輸出支援」という記事が出ました。これはかなりタイムリーな話題なので、背景について記しておきます。

国際協力銀行は、元々独立した政策金融機関として海外のインフラ案件等に投融資する業務を行っていましたが、特殊法人改革、および官業の縮小の動きの中で、金融部門は日本政策金融公庫に統合され、かつ、投融資範囲も新興国向けに限るといった業務の制限が加わりました(国際協力部門はJICAに統合されています)。
しかし、リーマンショック後の世界経済激変のなかで、この措置が裏目に出始めています。すなわち、先進国の企業は経済成長の源泉を新興国に求めざるを得なくなっているなかで、特にインフラ投資、インフラ輸出に関連したプロジェクトを手がける場合、国際協力銀行のような存在が不可欠になりつつあるのです。

どのような点で不可欠なのか、いくつかに分けて述べます。

■そもそもインフラプロジェクトにおいてはファイナンスを取り仕切る金融機関が不可欠

現在多くの国々では公共部門の財政が厳しいなかで、鉄道、道路、上下水道、ゴミ収集システム、空港、鉄道、港湾、物流ターミナル、発電所、送電網、パイプラインといったインフラの新設、増強プロジェクトに関して、民間の関与を求めるようになっています。すなわち、官民連携(Public-Private Parntership)を打ち出し、計画作成、設計、建設、ファイナンス、運営、メンテナンスといったプロジェクトの全体ないしは一部について、民間企業の競争入札にかけるということをやり始めています。
欧米やアジアなどで成功例が出始めていることから、日本政府でもこれを大きな市場と捉えて、いわゆる「インフラ輸出」を成長政策の柱に据えたことは記憶に新しいところです。

このインフラプロジェクトにおいては、民間の資金を融資の形で、あるいは投資の形で呼び込みます。融資の場合は、プロジェクトファイナンスと呼ばれる、プロジェクトが生むキャッシュフローを返済原資とするスキームで行われるのが一般的です。投資の場合は、インフラを保有する、あるいは営業権を独占する特別目的会社などを作り、その会社の株式を買うという形で、投資主体が投資します。インフラ投資を専門とするインフラファンドや年金基金などの機関投資家が投資主体になるのが一般的です。

インフラプロジェクトは投融資総額が1件当たり数百億円〜数千億円といった規模になり、かつ、プロジェクト期間も20年、30年に及ぶことが少なくないですから、融資でも投資でも、スキームを作る場合には、非常に多くのステークホルダーが参加し、各者の利害を調整しながら、取りまとめを行う存在が不可欠になります。

国際協力銀行は、この取りまとめができる数少ないプレイヤーの一者です。

■メガバンクのプロジェクトファイナンスを補完する存在として

三菱東京UFJ、三井住友、みずほのメガバンク3行は、国際的なプロジェクトファイナンス融資ランキングにおおむね毎年顔を出している常連です。特に三菱東京UFJは先頃、プロジェクトファイナンス界最大手(破綻前まではランキング1位の年もあった)の英国Royal Bank of Scotlandのプロジェクトファイナンス部門を買収していますから、今後、この状況で存在感を増してくるのは間違いありません。
そういうなかで、政府系金融機関としての国際協力銀行の存在が再び大きくなれば、民業の圧迫にはならないにしても、邪魔になりはしまいかという問いがあるかと思います。

答えはおそらくノーです。

ここしばらくプロジェクトファイナンス関連の報道を見てきましたが、日本のメガバンクは、大型プロジェクトファイナンスの銀行シンジケート団に名前を連ねているものの、率先して案件を取り仕切ったというケースはほとんどないのでないかと思えます。(2010年12月21日付記。ここの記述は完全に誤認であり、邦銀も海外インフラ案件のプロジェクトファイナンスにおいて主導的なアレンジメントを行っていることが、こちらにある資料から判明しました<日本総研主催シンポジウム「金融システムの将来像」において三井住友銀行の常務執行役員の方が使用した資料>。お詫びして訂正します。リンク先の資料の10p目以降に邦銀関連のPF事例のリストがあります。)
というのも、例えば、中東のパイプライン、欧州の洋上風力発電、米国の高速鉄道といったプロジェクトファイナンスでは、融資に先立ち20年以上にわたってキャッシュフローを予測するだけでも、地政学、エネルギー需給、環境変化、人口動態、経済成長等々を読み込むシナリオプランニングを行ない、その上で当該インフラの利用収入を予測するというプロセスが不可欠になります。これは各分野に精通した調査部門を自前で持つ金融機関でないとできない話です。

プロジェクトファイナンスの取り仕切りは、おそらくは地の利がものを言う世界でしょう。中東の大型案件では、中東ないしは欧州の金融機関が地縁・人脈で有利であり、調査部門のカバレッジも利くはずです。そういう案件では、日本のメガバンクが取り仕切るのは現実的ではありません。

一方で、日本政府が注目しているアジア系の案件では、国際的なプロジェクトファイナンスのプレイヤーの活躍はまだまだといったところがあり、ここに、日本のメガバンクが出て行く余地があります…と言いたいところなのですが、現実的には、メガバンクにも増して取り仕切り役にふさわしい存在が国際協力銀行だと言えます。

日本は古くから新興国に対してODAを行ってきました。その中で多くの国々のインフラに関係する官公庁の担当者たちとつながりができています。そうした地縁・人脈を元として、インフラ案件の投融資を行ってきたのが国際協力銀行だと言われています。投融資を手がけてきただけあって、そうした国々に関する調査部門も相応の蓄積があるものと思われます。たとえて言うなら、日本の総合商社の調査部門並みの調査機能を持っているのではないでしょうか。融資に先立ってプロジェクトの中長期の収益性を吟味する場合にもそれが生きるはずです。

これをメガバンク側から見れば、アジア系の案件についてはむしろ国際協力銀行が音頭をとってファイナンスの枠組みをまとめてくれた方が乗りやすいというところではないでしょうか。

また、国際協力銀行には、民間銀行が負いにくいポリティカルリスクと呼ばれるリスクを保証してくれる機能もあります。そういう点でも同行のリードが望まれるはずです。

■インフラ投資を促進する存在として

ここまでは国際インフラ案件に関する融資の話でした。ここからは投資の話です。

国際インフラ案件の投資主体には、上述のようにインフラ投資ファンド(インフラファンド)や年金基金などの機関投資家があります。過去10年にわたってインフラ投資が活発に行われてきたオーストラリア、欧州、中東などにおいては、そうした投資家がよく育っています。
一方で、日本では、インフラ投資に対する興味は高まっているものの、現実的に運用資産の数%なりをインフラ投資に振り向ける機関投資家等はまだほとんどいないと言われています。

これも詰まるところは地の利の話ではないかと思います。

例えば、韓国でスマートシティ新松島の総額350億ドルの案件が動き始めた時、投融資に参画したのはほとんどが韓国系の銀行や資本でした。ファイナンスの取り仕切り役が韓国企業であったため、話も通じやすかったというところがあると思います。欧米系のプロジェクトファイナンスのニュースに登場する企業や金融機関が、やはり欧米系であるというのも同じ事情なのではないでしょうか。

端的に言うと、日本にはこれまで、インフラファンドを取り仕切る存在がいなかった。それがために、日本の機関投資家もインフラ投資に乗り出せなかった。そういう事情があるかと思います。

2007年に野村資本市場研究所の瀧俊雄氏が書いた「ファンドが変えるインフラ民営化のあり方」にそうした事情を窺わせる記述があります。その後も根本的には変化していないはずです。

そういうなかで、これから、日本の年金基金などの機関投資家が投資しやすい枠組み、例えば、インフラファンドを国際協力銀行が直接的に組成したり、大手証券会社などと組んで組成のお膳立てをすることができれば、話が全然違ってきます。

インフラ投資は一般的には株式と債券の中間に位置する利回りが期待できると言われています。また、リスクの面で見ても、株式と債券の中間に位置するようなリスクがあるとされています。国際的には、インフラ投資を積極的に手がける投資主体がインフラ投資に求めるリターンは10〜15%という非常に高い水準になります。

国際協力銀行が関与するインフラファンドが現実的にどのような期待利回りになるかはわかりませんが、アジアにとって社会的経済的な意義があり、中長期にわたって発展に役立つようなインフラであって、かつ、利用者が安定的に使用料を支払うことが見込まれるインフラであれば、そこに対する投資は相応のリターンを生むはずです。そしてそれは、日本の機関投資家にとっても意味ある投資先になるはずです。

アジアにある膨大なインフラ投資機会に対して、日本の年金資産のごくわずかな割合が向かうだけでも、アジアの経済発展はまったく違ってくると思います。国際協力銀行にはそうした役割も期待できます。

■オールジャパンのインフラ輸出のファイナンス役として

最後に、オールジャパンのインフラ輸出を振興するには、現実的にファイナンスの面倒を見る政府系の金融機関が不可欠だということがあります。

インフラ輸出とは、インフラを輸入する側から見れば、「われわれにはインフラ投資機会がある。機会を民間に開放するので、よい提案を持ってきてほしい」ということです。
インフラの保有権や営業権を持っている国・自治体からすれば、「インフラを建設してほしい」、「ファイナンスの面倒も見てほしい」という、ある意味、虫のよい要望なわけですが、受注する側には収益機会が得られるため、その虫のよさは相殺されてなおリターンが来ます。

フロリダ高速鉄道の事例で見ると、フロリダ州の鉄道管掌当局は、高速鉄道の建設〜営業一切に関する提案とともに、ファイナンスの枠組みの提案も求めています。従って、応札するためには、ファイナンスを専門的に取り仕切ることのできる金融機関が不可欠です。JR東海などからなる日本チームは、国際協力銀行をメンバーに加えて、ファイナンスの枠組みを整えようとしています。

先般受注が決まったベトナムにおける原発建設においても、ファイナンス役として参画しているのが国際協力銀行です。

これから日本政府や経産省が振興していくパッケージ型のインフラ輸出がどんどん活発になっていくとすれば、どの案件においても、ファイナンス面を取り仕切る金融機関が絶対に必要です。仮にそういう存在ないとすれば、メーカーだけではファイナンスのスキームが作りきれず、受注を他国に奪われてしまいかねません。

政府が日本の成長の大黒柱にしようとしているパッケージ型インフラ輸出では、まさに、国際協力銀行こそがファイナンス関連を準備して、相手国政府や自治体が受け入れられるスキームを作り、かつ、そこにメガバンクの融資や、内外のインフラファンドの投資などを呼び込んで、総合的にアレンジする存在だと思います。

そういう意味で、今回日経が「政府・民主党は7日、日本政策金融公庫の国際業務部門である国際協力銀行(JBIC)を2011年度にも分離・独立させる方針を”固めた”」(傍点筆者)と書くこの報道は、非常に意味あるものだと思います。むしろ同行の機能を拡充し、独立的に動けるようにすることこそが、日本のインフラ輸出を活発にする近道でしょう。

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