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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Masdarの太陽熱発電事業と日本企業の参画

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■アブダビの太陽熱発電に日本企業が関与している

前投稿ではMasdar Cityの母体であるMasdar社(Abu Dhabi Future Energy Company)が行っている発電事業について少し触れました。その中には同社の事業として以下の内容もありました。

アブダビで世界最大級(発電容量100-125MW)の太陽熱発電所Shams solar power stationをスペインのAbengoa Solar、フランスのTotal S.A.と合弁で設立。なお同発電所は太陽”光”ではなく太陽”熱”発電。

Masdarは再生可能エネルギーの活用を複数のアプローチによって追求しています。その1つが太陽熱発電です(英語で"Concentrated Solar Power"ないし"Concentrating Solar Power" と記述されていることを知っておくと、検索しやすくなります)。この分野、日本では太陽光発電がメジャーであるため、あまり報じられませんが、中東ではかなり本気で考えられているようです。

この太陽熱発電について、たまたま、11月5日付日経朝刊で次のニュースが出ました。

三井造船と大成建設 太陽熱発電で提携。インドで事業化調査

要約すると、「タワー式」と呼ばれる太陽熱発電所の技術を持つ三井造船と、中東や北アフリカに拠点を持ち、道路や橋梁などのインフラ建設プロジェクトの実績がある大成建設とが提携し、海外において太陽熱発電所建設を受注していこうという内容です。個人的に興味深かったのは以下の記述。

アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで、100kW規模の発電が可能な太陽熱を集める実験設備を設置した。

つまり、太陽熱発電にも注力しているMasdarと日本企業との接点がありそうだということです。仮に、今後、太陽熱発電所を世界各地に建設していくMasdarおよびその関連会社のプロジェクトにおいて、日本企業の技術や製品が採用されれば、非常に経済ポテンシャルは大きいということになります。

なお、中東のインフラ投資プロジェクトを扱う専門サイトやMasdar関連の記事を多数見てみましたが、明確に日本企業の名前を掲げているものはありませんでしたので、詳細は要確認です。

■中東・北アフリカ地域の太陽光・太陽熱発電のポテンシャルはすさまじい

以前から、「サハラ砂漠全域に太陽光発電パネルを敷き詰めれば、世界の電力需要が短時間でまかなえる」という話がネットで流布していました。
Booz and Companyが今年3月に発表した調査報告によると、サハラ砂漠やアラブ首長国連邦などを含む中東・北アフリカ地域は、全世界の再生可能エネルギー源の発電ポテンシャルの45%を保持し、仮にこのポテンシャルがすべて発電に回されたとすると、現在の全世界の電力需要の3倍以上の電力の供給が可能になるとのことです。
この関連のことを本気で考えている人たちはいるわけですね。

A New Source of Power, the Potential for Renewable Energy in the MENA Region

最近記しているアブダビのMasdar社にしても、再生可能エネルギーで世界のリーダーたらんとしているそのビジョンの中には、同社が手がける中東・北アフリカ地域の太陽光発電、太陽熱発電でもって、非常に大規模な電力供給事業者になろう…というニュアンスが込められているように思います。彼らに関する資料を読むと、それが感じられます。

日本でも再生可能エネルギー分野は、将来の成長産業の1つとして重視され、関連の施策も多数実施されていますが、アブダビと比較すると、日本の動きはあくまでも「温帯の国の再生可能エネルギー活用法」であるのに対し、アブダビでは「熱帯・砂漠の国の再生可能エネルギー活用法」であるという印象が強く残ります。また、日本が技術や製品の供給を想定しているのに対し、アブダビでは自らがパワープロバイダー(電力供給事業者)に”も”なろうと考えているのが特徴的です。

アブダビでは、いったん外に出れば灼熱の太陽が燦々と降り注ぎ、来る日も来る日も晴天であるという、「太陽の威力」を日常的に感じる環境にあるわけです。「この強烈な太陽のパワーを使って何かできないか?」と考えるのは当然の話で、いくつかのプロセスを経ると、「われわれの地域の太陽光を電力に変え、世界最大規模の電力供給事業者になってやろう」という大きなビジョンになる…これは自然な発想なのかも知れません。

この時、選択肢としては、太陽光発電と太陽熱発電があるわけですが、発電単価では太陽熱発電がまさるそうで、Masdar社は両にらみで進んでいます。

Masdar Cityに敷き詰められるのは太陽光発電パネル。集中的な太陽光発電施設も建設予定のようですし(完成予想図には太陽光発電施設が見えます)、ビルや居住棟の屋根には太陽光発電パネルが設置されるようです。

一方、太陽熱発電事業においても、大胆なプロジェクトが2つ存在しています。
Masdar社がスペインのAbengoa Solar、フランスのTotal S.A.と合弁でアブダビMadinat Zayedに建設しているShams 1太陽熱発電所は100MWの発電容量を持っています。これは世界最大級だとのこと。こちらに完成予想図があります(タワー式ではなく、トラフ式と呼ばれるタイプ)。建設コストは5億〜7億ドル。

もう1つは、スペインのSener Aeronáuticaと合弁で設立したTorresol Energy社。こちらが行うのも太陽熱発電事業です。スペインで3つの太陽熱発電所の建設が計画中だと報じられています。

このようにMasdar社は太陽熱発電事業についても非常に意欲的です。日本企業が関連技術を持っているのであれば、共同で何かを行う余地は大いにあるでしょう。

次回は再び、MasdarとFoster+Partnersの話に戻ります。

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