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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Masdar Cityの母体"Masdar"とマスタープランを受注したFoster+Partners(上)

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アブダビ首長国のスマートシティ計画Masdar Cityは、アブダビの長期経済成長ビジョン"Abu Dhabi Economic Vision 2030"に基づく非常に野心的なプロジェクトです。本投稿ではこのプロジェクトのマスタープラン作成に、なぜ、英国の設計事務所Foster+Partnersが選定されたのか、関連の素材を集めて文脈を浮かび上がらせてみたいと思います。

■まず"Masdar"とは何か

まず、Masdar Cityの頭についている"Masdar"とは何なのかを確認しておきます。アラビア語Masadrは字義的には"Source"であり、このプロジェクトの文脈ではエネルギーの源、知識の源、イノベーションの源という意味が込められているようです。アブダビにおいては、Masdarは、2006年に設立された次世代エネルギー事業を営むAbu Dhabi Future Energy Companyの別称です。ブランドネームと言ってもいいでしょう。なお、同社はアブダビ国営の投資会社Mubadala Development Companyの100%子会社です。Masdary Cityの当初予算220億ドル(現在では200億ドル程度に削減されたと報じられている)はMubadala Development Companyが投資名目で拠出している模様です。

同社は、アブダビが世界の再生可能エネルギー分野の研究、開発、イノベーションの中心になることを目的として、様々な活動を行っています。その背景には、将来において石油資源が枯渇した時に、子孫が豊かな経済を営めるように、知識ベースの経済活動の基盤を今から築いておくという意図があります。従って、1つの企業が単に営利を目的として事業を行うというのは異なる、かなり壮大な野望がベースにあるということになり、その本気度が窺い知れます。同社チェアマンもCEOもサイトに掲げた挨拶文において「21世紀のエネルギー産業におけるグローバルリーダー」であることを強調しています。

同社には3つの事業部門と1つの投資部門とがあります。
・Masdar Carbon事業
 二酸化炭素排出を減らすためのエネルギー効率化技術と、化石燃料使用時の二酸化炭素削減技術の開発と販売を扱う。
・Masdar City事業
 ゼロエミッション、ゴミゼロのスマートシティとしてアブダビ郊外に建設されているスマートシティMasdar Cityの計画から運営全般に関する業務を行う。Masdar Cityのエネルギーはすべて再生可能エネルギーとする。
・Masdar Power事業
 既存電力会社の発電所レベルの再生可能エネルギー発電所の建設と運用を行う。
・Masdar Venture Capital投資事業
 以下に記すような再生エネルギー関連の投資事業を行う。

また、研究機関として、Masdar Institute of Science and Technologyがあり、米国Massachusetts Institute of Technologyと提携して研究活動を進めつつあります。Masdar Institute of Science and TechnologyはMasdar Cityのキーテナントの1つでもあります。

■国策再生エネルギー事業会社Masdarの活動内容

具体的な事業活動および投資活動としては以下を行っています。
Applied Materialsのドイツの太陽光電池フィルム製造工場を6億ドルで買収。 
・買収した太陽光電池フィルム製造工場を元に子会社Masdar PV(PVはPhotoVoltaic、太陽光電池の略)をドイツに設立。
・12億4,000万ドルを投じてスペインのSener Grupo de Ingeniería社と合弁で世界各地で太陽光発電所を建設運用するTorresol Energy社を設立。
・ドイツでMasdar PVが手がける初めての太陽光発電所Ichtershausenを建設。
・アブダビで世界最大級(発電容量100-125MW)の太陽熱発電所Shams solar power stationをスペインのAbengoa Solar、フランスのTotal S.A.と合弁で設立。なお同発電所は太陽”光”ではなく太陽”熱”発電(こちらを参照)
・フィンランドの風力発電施設製造会社WinWinD Oyに出資。
・E.ONと共同で大規模洋上風力発電所London Array wind farm(発電容量1,000MW)を建設。

ここまで見てくると相当活発に再生エネルギー発電事業を行っているということがわかります。また、同社は、世界最大の再生エネルギー関連展示会であるWorld Future Energy Summitを2008年から主催しています。この展示会には日本企業も参加しています。今年の模様を伝えるレポートを見ると、NEDOも非常に華やかなブースを設けています。
 2008年第一回の開催を伝える記事 
 2010年第三回に参加した三菱総研の研究員のレポート 
 2010年第三回に出展したことを伝える国際石油開発帝石(株)のプレスリリース 
 2011年第四回にNEDOが出展するにあたって行っている公開入札の案内 

2008年の第一回World Future Energy Summitでは、Masdar Cityのマスタープラン作成を受注したロンドンの設計事務所Foster+Partnersの代表Norman Fosterが基調講演を行い、Masdar Cityの先端的なゼロエミッションの概念などを説明したと報じられています。
World Future Energy Summitは、世界中の再生エネルギー関係者の関心を集め、実際に現地で交流を図ってもらい、かつ、同社のMasdar Cityを初めとする取り組みを世界にPRするのに役立っていると言えるでしょう。
また、この展示会と並行して、再生可能エネルギー技術の開発を促進する賞Zayed Future Energy Prizeを設け、受賞者には150万ドルを授与するといった活動も行っています。また、今年10月には、ロンドンでEuropean Future Energy Forum 2010を主催し、4,000名の参加者を集めて盛況だったそうです。

Masdarは潤沢な資金に恵まれて、再生可能エネルギー施設の建設、運用から展示会による人のネットワーキングまでを手がける、非常に戦略的な位置づけをもった国策会社と言うことができるでしょう。

長くなったので2回に分けます。

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