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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

中国のスマートグリッドをかいま見る

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今日から再スタートをさせていただきます。今年6月から8月にかけて、多くの方々をお騒がせさせてしまい、ご迷惑をおかけしました。そのことにつきましては、改めて別な場所で記したいと思います。

 

向こう20年程度の大きな流れを見据えて、リサーチのテーマを、スマートグリッド、スマートシティ、東アジア地域の中間層興隆の3つに絞りたいと考えています。自分の頭にあるのは、これら3つのテーマにおいては、日本企業が活躍できる余地が多大にあるだろうということ。今後、国内の需要が人口減により縮減するなかで、これら3テーマにおいては、中長期の需要増が国外の旺盛なインフラ投資および中間層の積極的な消費に求められるということ。スマートグリッドと東アジア中間層については、過去に、リサーチの仕事のテーマとして取り扱ったことがあり、多少の蓄積が生きるであろうこと、です。

なお、スマートグリッドについては、2009年半ばから、私的な勉強会であるスマートグリッド勉強会に世話人役で関わっており、途中、路線調整などありましたが、現在でも月例の勉強会は続けております。

 

さて、今日の本題に入ります。1019日と20日の日経朝刊で「世界環境ビジネスフォーラム2010 in 中国」のパネルディスカッション等が採録されていました。記事広告の枠組みではありましたが、発言されている方々は、日本のスマートグリッドよびスマートシティに関して、日本政府および日本企業を代表する方々ばかりであり、また、中国の関連動向でリーダーシップをとっている方々の参画もありました。

 

個人的に興味深いと思った点をいくつか記します。

 

中国のスマートグリッドにおいて日本企業はまずショーケースを作るべき

米国のGEはすでに中国揚州市で、都市ぐるみのスマートグリッドのショーケースになりうるプロジェクトを開始しています。概要はこちらに。 http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100524/182836/ 今年4月にオープンしたデモンストレーションセンターの詳細はこちらに。 http://www.elp.com/index/display/article-display/6856049794/articles/electric-light-power/smart-grid/2010/04/GE-opens-Yangzhou-Smart-Grid-Demonstration-Center-in-China.html 後者の記事によると、現在考えられているスマートグリッドのアプリケーションがフルに展示されているようです。この揚州市とGEとの提携は、200911月に発表になったオバマ米国大統領と胡錦濤胡中国国家主席との合意が元になっています。 http://blogs.itmedia.co.jp/serial/2009/11/1-d5ee.html

日経掲載のパネルディスカッションでは、こうした現況を踏まえ、日本企業もショーケースづくりをするべきだということを複数のパネラーが述べていました。特に、日本のヒートポンプ技術(「エコキュート」として普及しているもの)は世界最先端であり、中国のスマートグリッドにおいても役立つそうです。具体的には、ヒートポンプを家庭に広範に普及させることによって、夜間の余剰電力を効果的に熱(お湯)として蓄え、電力が逼迫する時間帯に電力を使わずに給湯や暖房に用いることができるようになります。投資も5年で回収できるそうです。これに類似したスマートグリッドアプリケーションは米国では類例を聞きませんし、事実、GEのショーケースでリストアップされているアプリケーション群にも見当たりません。日本の強みが出せる技術だと思います。

 

中国の発電は長期にわたり6割が石炭によって行われ見通しで、石炭火力発電の高効率化が課題

電力供給事情は国によってずいぶん違います。中国では、都市部や工業地域において電力供給が逼迫していることはつとに知られていますが、今後、都市部の中間層が富裕化してくる過程で、電力の総需要がまだまだ伸びるのは必至。発電の「量」を確保していかなければなりません。同パネルディスカッションの資料にあった世界エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2009の予測によると、中国では現在も総発電量に占める石炭の割合は現在も約60%。これが2030年までほぼ同比率で続くとのことです(再生可能エネルギーは2030年でも約10%)。従って、煤煙等による環境破壊を抑えたり、発電効率を増すための方策が不可欠であり、日本のIGCCIntegrated coal Gasification Combined Cycle、石炭ガス化複合発電) のような技術が求められるということになります。同パネルディスカッションによると、J-POWER(日本の卸発電最大手)は1980年代から中国に技術提供を行っており、石炭発電についても高度な技術を提供できるとのことです。

 

・中国では2020年までに総発電量を2倍にする計画がある

中国の現在の発電設備容量は約9kw(日本は27,500kw)。これを2020年までに2倍に増やす計画だそうです。例えば、米国のスマートグリッドは、新規の発電所を建設しないで電力需要ピークをどう乗り切るかというのが根本にあり、日本のスマートグリッドは、家庭の太陽光発電が現在の20倍などに拡大するなかで系統とどうバランスをとるかというのが根本にあります。それに対して、中国が向き合うべきスマートグリッドの姿は自ずとまったく異なるものになるはずです。電力供給が需要を満たしていないわけですから(今後もその傾向が当面は続くわけですから)、発電まわりの拡充、高度化が鍵になるわけで、家庭などの需要家側ではインテリジェントなEMSEnergy Management System)よりは、もっと単純な省エネ方策が有効になると思われます(そういう意味ではGEがショーケースで展示している高度なアプリケーションがはたして意味を持つのかという疑問も少し沸きます)。

また、中国の場合、発電所と電力消費地とが遠く隔たっているという課題もあるようです。中国国家発展改革委員会・李俊峰氏によると、「中国の発電所は太陽光、風力、水力ともに新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区などの西部地域に多く、消費地は北京や天津、唐山、上海、広東などの東部沿岸地域に多い」そうです。そのため、スマートグリッドに求められるのは、大容量の電力を遠距離に送電できる機能であり、例えば、日本ですでに実用化されている超高電圧UHVUltraHigh Voltage)が有用なのだそうです。

東京電力技術部部長・財満英一氏によると、日本ではすでに430kmUHV送電線が建設され、50Vで送電されているそうです。これによりわずかな送電ロスで大容量の電力を離れた場所に送ることができるとのこと。ひょっとすると、中国西部地域の砂漠で非常に大規模な太陽光発電設備が設置され、超高電圧UHVで沿岸の大都市に送電するなんていう未来もあり得るのかも知れません。

 

次回は、今年前半から米国各地で相次いだスマートメーター設置に対する反対運動(backlashと呼ばれていますね)の動きをまとめてみたいと思います。



 

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