経済激変下のシナリオプランニング
シナリオプランニングによって経営戦略を立てていた方々は、現在、どのような対応をされているのかが非常に気になります。
オーソドックスなシナリオプランニングを利用していた場合も、その派生系の例えばDeloitteのStrategic Flexibilityのようなマルチシナリオプランニング系のツールを使っていた場合にしても、リーマン破綻後のような経済環境の激変は組み込めていなかったはずで、用意していたシナリオがすべて無効だとわかった時に関係の方々が何を行ったのか…追々明らかになるのでしょうが、いまこの時点で非常に知りたいと思います。
一般的にシナリオプランニングでは、複数のシナリオドライバー(シナリオを形作る主因)を立てて、それぞれに数値の幅を割り当てて、シナリオを作ります。例えば、米国景気動向というシナリオドライバーを立てたとすると、それを表象する数値としてダウ平均を選び、ダウ平均が9,000ドル~18,000ドルの幅で推移すると仮定して、その幅のある1点を決め、その状況において何が起こるかを考えます。
多くの場合、エネルギー動向も企業活動に多くの影響を与えるので、それをシナリオドライバーの1つとして立てて原油価格の幅を設定し、その幅の中でありうる1つの値をとって、シナリオを考えます。例えば1バレル70ドル~120ドルの幅で設定し、75ドル近辺なら何が起こるか、110ドル近辺なら何が起こるかを考えるわけです。
それら複数のシナリオドライバーが設定した幅で動くことを前提に、それらのシナリオドライバーの”変化の束”としてシナリオが作られます。楽観的なシナリオから危機的なシナリオまで複数作るのが基本です。
危機的状況を表すシナリオでは、個々のシナリオドライバーのどれか1つあるいは2つが異常な値になることを想定します。例えば、上述の例で言えば、ダウ平均が下限の9,000ドルになった時に外部環境はどうなり、世界経済はどう動くかということを考えます。
シナリオプランニングを採用していた多くの企業においては、現在の経済環境の激変によって、従来なら有効であったであろうシナリオドライバーの数値設定の幅がほとんど意味をなさない異常な値が複数出現しているはずで、そこにおいて、どういう対応をされているのか、すごく気になるのです。
事は非常に深刻であり、シナリオプランニングという経営戦略立案ツールをこのまま使い続けるのかどうかという、ぎりぎりのところで議論されているかも知れません。しかし、シナリオは、依然として、”自分たちが認識しなければならない複数の要素を全体的かつ俯瞰的に把握する”のに非常に優れたツールで、経営者の方々のみならず一般従業員の方々に至るまで、環境を正確にかつ短時間で理解することができます。これを使わずして、今後を乗り切っていくことができるとは思いません。
過去3ヶ月のうちに、今後の世界経済の見通しを立てるための主な要素の動きはほぼ出揃ったと見てよく、シナリオ作成に必要な所与を得ることは比較的簡単な状況になってきたと思います。米英金融、国内金融、米国株式、日本株式、原油、日本不動産、日本自動車、日本電機、米国個人消費、日本個人消費、新興国の成長などなど、外部環境を決める主因の趨勢は見えました。いずれのシナリオドライバーを選ぶにしても、現在なら現実味のある数値のレンジを大胆に設定することができると思います。
過去のシナリオをいったん白紙に戻した上で、新しいシナリオによる新しい企業活動が求められていると思います。