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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Ultra HNWIは投資行動のイノベーター

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少し前の話になりますが、日経BPのムック「金融ITイノベーション」のなかの2本の記事を請われて書きました。1つは日本の金融系のパッケージソフトウェアの現況について、もう1つは、米国におけるウェルスマネジメント環境のいわゆるワークベンチ(フィナンシャルアドバイザーが利用する統合情報環境)についてです。ITベンダーの金融担当セクションに行くとこのムックがそのへんに置いてあったりして、はっとしますね。

書いた当時、ウェルスマネジメントについてはあまり知識がなかったので、いろいろ資料を探して読んでみました。一番役立ったのが、CapgeminiとMerrill Lynchが連名で毎年出している「World Wealth Report」です。昨年で10年目。すでに11回目のレポートが出ています。
40ページ近いみっちりしたレポートなので何冊かをじっくり読むと1日仕事になってしまいますが、そこは斜め読みで。

用語を確認しておくと、この世界では富裕層という意味で「High Net Worth」あるいは「High Net Worth Individual」を使いますね。後者は略すとHNWI。符牒っぽくっていいですね。これを多用している文書があったとしたら要注意です。
このレポートでは、100万ドル以上の金融資産を持つ個人をHigh Net Worthとしています。日本でもここ1-2年富裕層に関するレポートがいくつか出されるようになりましたが、定義はほぼ同じですね。例えば野村総研の定義では、金融資産1億円以上5億円未満を富裕層としています。

上のレポートのなかには「Ultra HNWI」も頻出しており、これは金融資産3,000万ドル以上の個人を括る用語だそうです。

2006年版のなかにUltra HNWIの投資行動を説明したコラムがあります(p16)。そこでは、Ultra HNWIは資産運用におけるイノベーターであり、一般的なHNWIの行動に先んじて、新しい投資スタイルを開拓しているといった意味の記述があり、非常に興味深く思いました。
いわく、以下いずれも、HNWIと比較すると、との前置き付きで、
・Ultra HNWIは現物株よりも、ヘッジファンド、プライベートエクイティ/ベンチャーキャピタル、ストラクチャードプロダクツ(仕組債なんかが入るんでしょうか)などのいわゆるオルタナティブ投資により多くの資産を振り向けている。
・債権よりは株式で構成したアセットクラスを好む。
・固定金利収入が得られるアセットクラスおよび現金よりは、不動産での運用を好む。
・資産運用アドバイザーのアドバイスに基づき、資産を国際的に分散させることの重要性をよく理解している。
・北米よりも、アジアパシフィックやラテンアメリカなどのエマージングマーケットに資産を振り向けている。
・リスクに対して中立的であり(必要以上に防衛的にならず、かと言って無茶を行うということもない)、よりオープンマインドである。
・国外に不動産がある、あるい資産運用助言者がいるという層がHNWIでは25%であるのに対して、Ultra HNWIは50%に上る。

とのことです。そしてこうした投資行動がHNWIに強く影響を与えていると述べています。HNWIの投資行動を先取りしているわけですね。

さらにもう1つおもしろいポイントが。Ultra HNWIはphilanthropicなgiving(慈善系の団体、教育団体などへの寄付なんかが含まれるそうです)にも熱心で、HNWIの2倍の資金を振り向ける計画があるとした上で(資金量が多いのだから2倍は当たり前ではないかというツッコミはなしにして)、彼らは、自らのビジネスや投資活動によって得た”リターンを管理する能力”(意訳)を、そうしたphilanthropic givingにおいても発揮しているとのことです。これは例えば、ビル・ゲイツが彼の財団において、非常に費用対効果の高い社会改善方策を行っているのが典型ですね(参考:マラリアの完全撲滅提唱  ゲイツ財団が関係者フォーラムで)。慈善のための資金はふんだんにある。けれどもやわな使途には振り向けない。無駄金にしたくからね、という姿勢。この領域でもHNWIをリードする立場にあるとのことです。

いやー、勉強になった。。。

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