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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

集合的意思決定の背景

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特定の企業を離れて一般論ということで記します。

日本企業には2つのタイプがあるように思います。

タイプA:
オーナーシップの形態は集合的であり、現実的に特定の個人ないし企業がその企業を所有しているとは言えない状況にある。経営も集合的な意思決定を特徴とする。

タイプB:
オーナーシップを明確に特定の個人ないし企業に帰着させることができる。経営の意思決定には明確な主体が存する。

(上で"集団的意思決定”とせずに"集合的意思決定”としたのは、ユングが言っていた集合的無意識に近いものをそこに見てしまうからです…)

現在起こっているのは、タイプBの企業が相対的に余裕があるため、タイプAの企業に対して「一緒になりませんか?」とラブコールを送っているということだと思います。

タイプBの企業がなぜ相対的に余裕があるのかということを、突き詰めて考えなければなりません。ポイントは1点のみ。企業価値の定義です。

ファイナンスの教科書(ブリーリーとか)は、企業価値を、将来において得られるであろうキャッシュフローを現在価値に割り引いたものであると明確に定義しています。これは定番中の定番。公式のようなものです。

企業価値が明確に数値として得られる場合、企業価値を上げるということは、その数字を上げる可能性のある戦略的・戦術的な方策を積極的に打ち出していくということに他なりません。
一般的に将来に不確実性が残るなかでは、もっとも勝てそうな方策を上から順番にいくつか並行的に実施していくのが順当だということになります。

そこでは戦略的ないし戦術的オプションのリストアップと精査、実施すべきオプションの選択、そして実行に関して、非常に明確な意思決定が不可欠になります。
タイプAの企業の場合、オーナーシップがあいまいであるため、明確な意思決定をしたからと言って必ずしもオーナーから報償が得られるとは限らず、結果的に、1人で責任をとるタイプの意思決定に踏み込めないまま時間が経ってしまいます。また、それ以前に、企業価値に関する合意があいまいなままだとすれば、意思決定の中身もぶれます。

一方、タイプBの企業は、オーナーシップが明確であるために、企業価値を積極的に向上させる意思決定を行ったことに対して、非常に割に合う報償が得られます。積極的な意思決定にインセンティブがあるのです。企業価値増大のメカニズムが理解できていれば、時宜を得て戦略的・戦術的オプションを駆使することは当たり前であり、それも複数のオプションを間髪おかず駆使することを躊躇しなくなります。オプションを細かく繰り出してたくさん試すというやり方をやっていると、確率から言って、企業価値は上がりやすくなります。この差が実際に、タイプAとタイプBの企業価値の差となって表れてきます。

昭和時代の高度成長の原動力となった日本の会社の典型は、タイプAであったと認識しています。都銀を中心に大企業が株式を持ち合い、内外で発生する様々な権益や事業機会を相互に融通して、一種のエコシステムを形成していました。
それらの企業が目的としていたのは、グループとしての繁栄です。子会社の数が増え、グループの売上高が拡大し、雇用力が高まり、管理職のポストも増え、より多くのグループの関係者がより多くの恩恵を享受できるようになる。それが是でした。いわば最大多数の最大幸福を追求する動きだったと思います。

それはまさに経済的に豊になることであり、前向きな行為です。けれども1点だけ弱みがあります。企業価値を定量化するための明確な基準がないということです。
売上高や従業員数などの規模をカウントする経営では、「売上高日本一」「売上高1兆円」といった勇ましい掛け声は可能ですが、その実、その目標の根拠がどこにあるかと問われれば、「とにかく一番なのだから一番なのだ」といったひどく不明瞭な答えにならざるを得ません。かなり前近代的な経営だと言えます。

この経営姿勢は、規模拡大が続く限りは有効です。集合的なオーナーシップの下で、経営陣は、より有力な企業と関係をつけ、より有力な顧客と密接な関係を結び、より多くの商流を自分たちに取り込むということを継続的にやっていれば、責務を果したことになったと思います。諸先輩と同じ姿勢で経営に向き合い、諸先輩と同じ価値基準で物事を判断していれば全体はうまく行っていた。集合的なオーナーシップの下で集合的な意思決定をしていれば、規模は拡大したのです。

それが現在では状況が変わっているわけですね…。まだ全体をうまく整理できませんが、今日はこのへんで。

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追記

集合的なオーナーシップによる集合的な意思決定は、日本企業のカルチャーのようなものなので、安易に否定してはいけないとも思います。たぶん、キャッシュフローベースの企業価値とは異なる、別種の企業価値がそこにはあるはずで、それを”定量的に取り出して”、「おまいらの企業価値より、こっちが優れているんだ!」ときちんとロジカルに主張できれば、そしてそれを市場が認めるような状況がくれば、話は変わってくると思うのです。

要は定量化のロジックに関する戦法が必要です。

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