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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Googleのイノベーション管理とわれわれの利益

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先日ちらと触れたDavosのBill Gates、John Cambers、Eric Schmidt、Niklas Zennströmをパネリストに迎えたディスカッションのiPodコンテンツをまだ朝の通勤時にちょびちょび聴いています。英語耳がネイティブ並みではないので、何度も戻しては聞き、戻しては聞きを繰り返すので時間がかかります。

Google CEO Eric Schmidtの発言によると、Googleは自らをサーチの技術の会社ではなく、イノベーションに邁進する企業として規定しています。
イノベーションとは、端的には過去に前例がなく、人が取り組んでいないものを指します。Googleの場合、同社が保有する世界最大のネットワークコンピューティングシステムで動かすことができ、世界の大多数のコンシューマに価値があると認めてもらえる何かで、かつ類例のないものということになります。そこに制約はありません。想像力が働く限りにおいて、何でもやれます。

これが本業であるため、イノベーションにおける生産性向上を果すにはどうすればいいか?イノベーションから実のあるサービスを生み出すにはどうすればいいか?といったことを自分たちの本業として考え、実装し、日々動かしています。
イノベーションが本業に近い位置づけにある企業は、トヨタ自動車をはじめ世界に数多いですが、多くの場合は、イノベーション以外に、製造、マーケティング、販売チャネル管理などの業務も必要になり、相対的にイノベーションそのものが事業に占める割合は低くなります。例えば人件費比率で見ると、イノベーション要員のそれは5~10%程度でしょうか?(無論商品開発以外のオペレーションの部分にもイノベーションを適用することは可能で、それを行っていればぐんとイノベーション比率は高まります)

一方のGoogleはすでにコンシューマとダイレクトに結びつくチャネルが確立されており、商品のパッケージングやデリバリーに関してさほど悩む必要はなく、βサイトを立ち上げたその日からある程度の顧客にリーチすることができます。つまり、イノベーションと顧客とがほぼダイレクトで結びつく図式を作り上げています。イノベーションだけに集中しておれば、あとはよいと。それだけで完結する事業構成になっています。イノベーション要員人件費比率はたぶん60~70%ぐらいになっているのではないでしょうか?

こうした過去に類例のない企業におけるイノベーションの管理とはどういうものかと言うと、件の「ウェブ進化論」でも述べられていますが、ポイントは以下です。

・世界で最高の頭脳を雇う
・Run the business業務に8割の時間を充てるとしても、イノベーションに2割の時間を必ず充てるように求める(「ビジョナリーカンパニー」記載の3Mでも似たような方策を採っていました)
・3人程度の少人数でチームを組ませ、イノベーティブな何かの開発に当たらせる
・プロジェクトのgo/no goに学術論文の評価メカニズム(引用回数)に近いメカニズムを適用する(Projected ROIなんかで見たりはしない)
・社内で常時多数のイノベーション案件が走るようにしておき、強いものが生き残るように、ある種の自然淘汰のメカニズムを走らせている

このようななかでイノベーティブな異種、亜種、突然変異などがもたらされるわけですね。少し恐いと思いませんか?この文脈において、「Don't be evil.」という同社の社是もよく理解できます。
Googleのイノベーション管理手法は、シナリオプランニング的なアプローチとはまったく異なる、力づくごり押しアプローチとでも言ったらいいか、ものすごいやり方だと思います。前者が智略的であるのに対し、後者は実質的に無限の資源を投入する肉弾戦です。またそこに突然変異の可能性を取り込んでいます。無論どちらが正しくて、どちらが勝つかということは誰にも言えません。

Googleの場合、ある意味では手をさらけ出してしまっているので、受ける側では、いくつかの選択肢を持つことができます。
「Without Google」は今やできない相談です。
「With Google」、すなわちGoogle平和共存圏内で、Gooleの権益を侵さないような領域で事業活動を行う。これもありでしょう。彼らが押さえている範疇は世界のGDPで言えば、1%にも満たないのではないか?Googleと利害が衝突しない好機は無数にあると思います。ちなみに、The World is Flatですばらしい形で紹介されていたUPSは、世界GDPの2%程度を常時自社のロジスティクスネットワーク上で動かしています。ただ、今のGoogleが影響を及ぼせる世界GDP比率が低いとしても、何らかの方策によってぼんと跳ね上がりますから、甘く見ないほうがよいです。
「Against Google」、これはやめた方がいいです。ここまで彼らの力が明らかになった以上、1940年代前半の米国に竹やりで立ち向かうようなものになりかねません。
「Beyond Google」。たぶんこれがこれから考えを集中させるべきところではないでしょうか。彼らにとってメタであるような領域で勝負をするということです。
Googleが処理できるのはすべてdigitaizeされたものだけです。とすれば、digitizeが永久にあるいは当面に不可能なもので、ITによるレバレッジが十分に働き(SCMなどはdigitizeできない物品の流通に対してITのレバレッジを利かせています。これが最たる例)、コンシューマにあっては現行のコンピュータインターフェースがカバーしきれないリアルな空間の認識、人の高満足度対応、匂いや触覚などが形作る何らかの心地よさ、運動の喜びなどをカバーするもので、世界市場にリリース可能なものにおける何かが、ひどく有望だと言えそうです。(とは言え、よくわかりませんね。未だ存在していないからです)
これはすべて「IT+α」の様相を呈します。少し前に紹介した「メディチ・インパクト」における「交差点」です。

Googleは確かにばかでかくて末恐ろしい存在です。しかし、彼らが絶対に追いかけてこれない「交差点」はたぶん世界中に無数に存在しており、それを手がけていくのが賢い戦略ということになると思います。「With Google」の世界では利が薄いです。

追記。

あ、それからもう1つ。Googleは、完全に中央集権国家的な組織です。価値の権威構造を自分たちが握るという志向を持っており、ソ連を彷彿とさせます。これに対するには、flat、leveled、distributed、self-organizedなどがすごく効果的です。

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