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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

「メディチ・インパクト」読みましたよ

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忘れないうちにもう1本。

「メディチ・インパクト」(フランス・ヨハンソン、ランダムハウス講談社)は、「若者よ、イノベーターを目指せ。目指すからには異分野が交差する領域を攻めよ。質より量。とにかく数多くイノベーションをやれ。そうすれば幸運の女神が微笑んでくれるだろう」ということを言っている本である。新しいことに取り組んで行き詰っている時に読むと、たぶん元気が出る。

書名だけを見ていた時期には、メディチ家の研究から現代に通用する何かの知見を引き出している本なのかと思っていたが、shiba blogで非常に的を得た紹介がしてあって、イノベーションへの取組み姿勢に関する本だということがわかったので、すぐに買って読み始めた。その後でOutlogicのsugimotoさんがもっと前に取り上げていたことに気づいた(^^;。

この本はクリステンセンの「イノベーションのジレンマ」へのトリビュートである。クリステンセンが打ち出した主要な考え方のうち、特に、「破壊的(突発的)イノベーションにおいて先駆者であることは決定的な意味を持つ」という点に関して、実際に先駆する側の視点で書いている。
クリステンセンの方は、組織全体を見て、組織の1つの機関として経営者を位置づけ、機能としての資源配分を論じていた。
こちらはイノベーションを起こす側の人の物語的展開である。だから楽しく読める。
また、破壊的(突発的)イノベーションを起こすにはどうすればいいかを記したノウハウ本のような性格も持っている。誰もが真似できる内容ではないと思うが、本気で取り組もうという人には参考になるだろう。

書名の「メディチ・インパクト」は、筆者の造語である「メディチ・エフェクト」に由来する。メディチ・エフェクトとは、15世紀に財を成したメディチ家に世界中から彫刻家、画家、詩人、哲学者、科学者、金融業者、建築家などが集まり、これら異分野の人たちの活発な交流によって、今で言うイノベーションが爆発的な勢いでもって起こり、歴史的にルネッサンスと認められる一大潮流がもたらされた、その異分野交流の効果のことを言う。イノベーションを単発の打ち上げ花火のようなもので終わらせないためには、異分野がどしどしせめぎあう場に踏み込んで、わーわー元気に声を掛け合いながらやるのがよろしい、という考えがベースにある。

その異分野がせめぎあう場は「交差点」と呼ばれる。才能のあるイノベーターは交差点を探してやってくる。遠くから見つける。あるいは嗅覚で見つけ出す。本書で取り上げられている例では、建築家がシロアリの造巣活動を研究して、真夏でも冷房なしで常時23~25度に保たれるビルを建築したケース、サルの思考内容を読み取るプロジェクトに数学者、意思、神経科学者、コンピュータ科学者が関わったケース、ジョロウグモの遺伝子をヤギに組み込んでクモの糸のタンパク質を含んだ乳を得、それを製糸して産業用の繊維を開発したケース、などがある(短縮して書くとまったくつまらないので現物にあたっていただきたい)。
要は、交差点とは、前例のない、あるものとあるものを結びつけることであり、1人の専門家が別の分野の専門家と丁々発止やることであり、時には1人の人間が複数の専門分野をカバーして何か有意義なことを実現しようとすることである。
交差点は、基本的には未開の地である。だから競争相手がいない。そこでイノベーションを行うと、はるかに効率よく競争に勝てる。また、交差点は、ある専門と別な専門のハイブリッドであるから、多種多様な可能性を内包している。1つの専門分野の中で完結するイノベーションは線形になりがちだが、複数分野にまたがるイノベーションは順列組み合わせでバリエーションが自ずと豊かであり、かつ、はなから破壊的(突発的)イノベーションである。従って、「イノベーションのジレンマ」で繰り広げられている知見がものすごく役に立つ。

そしてさらに!交差点は、傍からはリスクが大ありだと思われるが、ひとつ前のエントリで記したように、そのリスクは、「その価値を理解できない人がリスクだと思い込む、そういう種類のリスク」であり、実際はリスクでない可能性が高い。従って、競争相手もいない状況で、リスクもさほど大きくないことから、口笛吹きながら前に進むと、自然と成功が得られる、そんな展開が待ち受けていそうである。本書によれば。

ただし、才能があってそういう交差点を見つけたとしても、途中でやめてしまっては事は成らない。交差点を見つけることができた才能は、しつこくそれに固執し続けて、実を結ぶまでやり遂げることで本来の価値を生む。それは当然と言えば当然だが、そうしたこともきちんと述べられている。

ということで、若者よ、交差点を目指せ。人がリスクだというものを恐れるな。ただしどの分野でも世界一になるぐらい勉強はしろ。スポンサーは見つけとけ。失敗3回ぐらいはへでもない。けれども資源が尽きるまで無理するな。諦めなければ成功する確率は高いぞ。ということを言っている本なのである。

書いている人が実にユニーク。基本的にはハーバードビジネススクールのきちんとしたモノの考え方を踏まえている本なので、きわもの本というのはあたらない。

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