ビジネス方法特許の代わりに著作権法を使う-その4
やっと「コモンズ」を読み終わりました。全体として良書であることに間違いはありません。
未読の方のためにごく大胆に要約すると、
① イノベーションはコモンズ(みんなのもの)が自由に使える状態で活性化する、
② インターネットはコモンズだ。だからこれだけ浸透したし、その上でたくさんのイノベーションが起こった、
③ このコモンズで私権を確立しようとする動きがある。特にデジタルコンテンツ関連の著作権、ソフトウェア特許、ビジネスモデル特許(ビジネス方法特許)がよくない。イノベーションの将来を考えると看過できない、
という内容になっています。
否定的に読もうと思えば、コモンズ礼賛の陰でコモンズの維持にかかるコスト、特にトラフィックが爆発した時のコストを誰が負担すべきかを熟考していない、あるいは、コモンズ上の悪意を持った利用者が跋扈する可能性とその防御のためのセキュリティコストについて意識がない、といった点は挙げられるのですが、執筆が2000年頃だったことを考えると、それはそれで仕方ないと思います。当時は、日本で顕在化したP2Pのファイルシェアリングによるトラフィックの爆発のような問題や、ウィルス、マルウェア、スパムなどの問題がいまほど深刻でなかったですから。
それよりも、本書を読むことによって、過去十数年にわたってインターネット上で起こってきた技術発展や企業同士の闘争の背後にあるメカニズムをしっかりと確認できるメリットが非常に大きいと思います。
このメカニズムを平たく言えば、
① ネットワークは本来的に累積的なイノベーションが生じやすい空間であり(というのも様々な能力を持ったたくさんの人が接続されているから)、
② その空間において、GNU General Public Licenseに典型を見る「知的有用物を他者が活用することに対して目くじらを立てないという姿勢」を取ることによって、
③ 他者の知的有用物を採り入れて新規の改変を施すイノベーションが起こりやすくなり(イノベーションの本質は過去の事物の結合、シュンペーターのノイエ・コンビナチオン)、
④ 結果的に、累積的なイノベーションが促進される、
となります。
MicrosoftのInternet Explorerの土台にはイリノイ大学のMosaicがあり、Mosaicの土台にはもう少しプリミティブなHTML表示ソフトウェアがあった、その種の累積的イノベーションがこのインターネットには充満しているわけですね。こうしたメカニズムを、多種多様なエピソードを克明に紹介してくれるなかで、これでもかというぐらいよくわからせてくれます。
ただ、優れた書き手にありがちの傾向として、どうしても“予言者”のように論を進めてしまうところがレッシグにもあります。末尾は、「これからインターネット空間はMicrosoftの.NETとAOLに牛耳られてしまう。憂慮せずにおられようか」というトーンで終わっているのですが、現実は、.NETに牛耳られるどころか、GoogleがOS的な位置づけを獲得しつつあったり、AOLは見る影もない状況だったりするので、その点ははずしたかなと。(技術トレンドの予想はコワいですね)
ということで、大変に興味深かったです。
この本を読んでかなり自分の頭の中が整理できました。
結論から言うと、私が考案し、本ブログで公開した3つの事業案については、GNU General Public LicenseかLesser GPLを適用して、ネット上でオープンにします。
GNU General Public Licenseの本文をよく読むと、ここで言う「フリーソフトウェア」に私の事業案を含めてしまえるのではないかと、ちらと思いました。
これらの事業案は、一般的なソフトウェア開発における要求概要(非常に粗い要件記述)として位置づけることができ、その上でGPLの言う「フリーソフトウェア」に従属すると考えることができます。
前回、GPLでは「事業化権」が守られないと書きましたが、事業の全体がソフトウェア的に実現されるものでもあるということを考慮すると、GPLが適用できます。
また、自分の事業案が決して完全なものだとは思っておらず、さまざまな主体によって改良を施されることで、非常におもしろいものになっていくのではないかという期待もかなりあります。気持ちの上でもしっくりくるGPLは、まぁよい選択肢なのではないかと思います。
いましばらく現実的な適用方法を研究して、改めて、GPLないしLesser GPL付きのフリーソフトウェア(の要求概要)という位置づけで公開します。
これにて本トピックは終了。