加熱するクラウド事業への先行投資
クラウドビジネスの成長に伴い、各事業者のクラウド事業への先行投資が顕著になっており、その投資金額の規模も大きくなっています。
HPは2014年5月7日、新たな新クラウド戦略を発表し「HP Helion」のブランドのもと、世界20のデータセンターにOpenStackとCloud Foundryを中心としたクラウドサービスの提供にあたって、10億ドル(約1000億円)を超える投資を計画していることを明らかにしています(関連記事)。日本においても記者会見を行う予定となっており、国内においてのサービス提供時期やサービス内容などが注目されるところです。
IBMは2014年1月に12億ドル(約1200億円)を投じ、年内に日本をはじめ世界15ヵ所にデータセンターを新規開設すると発表(関連記事)。2014年2月には、クラウドサービス(PaaS)の開発者向けの機能拡充に向けて、2015年までに10億ドル(約1000億円)を追加投資することを発表しています(関連記事)。
オラクルも投資金額は明らかにしていませんが、2013年11月12日にクラウド・インフラストラクチャへの投資を拡大4カ所の「Oracle Cloud」データセンターを新設することを発表しています(関連記事)。
シスコシステムズは2014年3月24日、OpenStackベースとした企業向けのクラウド基盤「InterCloud」を発表し、クラウド基盤をパートナー企業へ展開し、パブリッククラウドやプライベートクラウドとの柔軟な連携を実現するハイブリッドクラウドを推進していくことを明らかにしています。シスコシステムズは、本事業への展開にあたって今後2年間で10億ドル(約1000億円)の投資をする予定です(関連記事)。
グーグルもクラウドサービス強化のための積極的な投資を進めています。ITProの記事で米本社でクラウド・グローバルビジネス本部長を務めるシャイレッシ・ラオ氏への取材記事でラオ氏は、
年間7000億円を超える設備投資こそが、グーグルのクラウドに対する「本気度」を示すのだと強調
とコメントし、台湾や香港、シンガポールのデータセンターに大規模なデータセンターを建築するなど、特にアジア地域への事業強化が顕著になっています。
日本のデータセンターでのサービス展開にあたっては、日本マイクロソフトは2014年2月26日から東京と大阪の2カ所のデータセンターでMicrosoft Azureを提供しています(関連記事)。SAPも2014年4月1日よりHANA基盤のクラウドデータセンターをアジア地域初の東京・大阪に開設し、「SAP HANA Enterprise Cloud」(クラウド版HANA)を展開しています(関連記事)。
ブログ「データセンターは企業内からクラウド事業者向けにシフト」でもご紹介をさせていただきましたが、クラウド事業者などのITベンダーの事業者データセンターは年率3.5%で増加すると予測しており、企業内でのデータセンター利用から、クラウド事業者がクラウドサービスを提供するためのデータセンターの利用へのシフトが顕著となっています。
クラウド事業への出資も動きが加速しています。
インテルは2014年3月27日、クラウデラ(Cloudera)への出資と戦略提携を発表し筆頭戦略株主となっています(関連記事)。レッドハットのCephベースのオープンソースベースのストレージサービスを展開するInktankを1億7500万ドルで買収も注目される動きの一つでしょう(関連記事)。
クラウド事業者は規模の経済が有利に
AWSはクラウド事業に関する詳しい業績や投資については一切明らかにしていませんが、上記事業者を超える投資を進めていることが予想されます。
クラウドビジネスは、クラウド事業者による規模の経済(スケールメリット)を生かし、投資分を数年以上のスパンで回収していくモデルで、投資する事業者はリターンが期待されるものの、リスクの高いビジネスといえるのかもしれません。
投資している事業者と連携しそのエコシステムの枠組みに入り事業を展開するクラウドインテグレーターやクラウドブローカーのような選択肢もあるでしょう。
すべての事業者がクラウドビジネスにおいて、勝ち組になるのは難しく、クラウド事業への先行投資が、各社にとってプラスになるのか否か、今後の動向が注目されるところです。