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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

DXで圧倒的な成功を収めているユニクロは圧倒的に多くのIT予算をかけている。コマツ、ブリヂストン、ニトリの成功事例も同じ

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DXの事例としてユニクロの存在は圧倒的です。以下の投稿に同社(ファーストリテイリング)のフラッグシッププロジェクト「有明プロジェクト」の概要をまとめました。とにかく圧倒的です!

note:「服を売る会社」から「情報を売る会社」へ。ユニクロのDXが、日本企業の常識を破壊する理由

結局、日本のDXがイケてないのは、単純にDXにかけるお金が少なすぎるからではないか?そういう疑問がずっとありまして、そこの部分を調査してみました。結論はやはり「お金をかけて無さすぎるから、DXがうまく行かない」でした。

日本のIT予算の常識、横並び主義を徹底的に変革する必要があると思います。

日本の横並びでIT予算を投じていると、AIでどんどん凶悪になる世界水準のランサムウェアに狙われます。

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日本のDX投資の定量的分析。ファーストリテイリングおよび国内外先進事例のIT予算ベンチマーク調査

序論:日本企業におけるデジタルトランスフォーメーションの停滞と「資本」の欠如

日本の産業界において、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が定着して久しいが、その実態は「概念の理解」や「組織文化の醸成」といった定性的な議論に偏重しており、変革を完遂するために必要な「資本投入」という冷徹な事実から目を背ける傾向がある。多くの経営者が、既存のIT予算の枠内、あるいは限定的な追加予算によってDXが実現可能であると誤認している。しかし、デジタルの力によってビジネスモデルを根本から再定義し、グローバル競争を勝ち抜いている企業を分析すれば、そこには例外なく、売上高に対して数パーセントという明確かつ巨額のIT予算が継続的に投じられているという現実が浮かび上がる。

一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査」によれば、日本企業のIT予算は売上高比で平均1.3%から1.7%程度に留まっている 。これに対し、米国企業の平均は4.2%に達しており、投資規模において最初から圧倒的な格差が存在している 。この格差は、単なる効率化の差ではなく、データから価値を創出し、顧客体験を革新するための「攻めの投資」を行えるかどうかの分岐点となっている。本報告書では、日本において突出したDXの成功例とされる株式会社ファーストリテイリング(以下、ユニクロ)を中心に、日本企業のベンチマークとなるべき3社、さらに米国のグローバルリーダーの事例を詳細に分析し、DXの成功とIT予算の相関関係を明らかにする。

株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ):情報製造小売業を支える投資の論理

有明プロジェクトとグローバル・ワン・プラットフォームへの巨額投資

ユニクロを展開するファーストリテイリングは、自らを「情報製造小売業(Digital Consumer Retail Company)」と定義し、世界一の服の小売業を目指している 。その中核となる戦略が、企画、計画、生産、物流、販売の全プロセスをデジタルで統合する「有明プロジェクト」である 。このプロジェクトは、単なる業務効率化ではなく、顧客の要望を即座に商品化し、世界中のどこにいても適切なタイミングで届けるための「ビジネスのOS」を構築する試みである。

この変革を支えるための投資は、従来の小売業の常識を遥かに超えている。2018年に始動した物流倉庫の自動化プロジェクトでは、ダイフクとの戦略的パートナーシップに基づき、日本国内のみならず全世界の物流拠点で自動化を進めるため、総額で1,000億円規模の投資が計画された 。1拠点あたり10億円から100億円を投じるこの判断は、物流をコストセンターではなく、競争優位の源泉(バリューセンター)に変えるための資本投下である

項目 投資規模・実績 戦略的意義
物流自動化倉庫(全世界)

総額 約1,000億円

入庫から仕分けまでの自動化、作業員9割削減

2020年8月期 システム投資額

304億円

有明プロジェクトおよび基幹システム刷新
グローバル・プラットフォーム 全拠点同一システム 在庫・販売データのリアルタイム一元管理

IT予算の売上高比率の推計

ファーストリテイリングのIT投資額を、公開資料に基づき推計する。2020年8月期の設備投資実績において、「システム他」として304億円が計上されているが、これは同年の連結売上収益約2兆円に対して約1.5%に相当する 。しかし、DX投資は資産計上されるソフトウェア取得額(Capex)だけでなく、SG&A(販売費及び一般管理費)に含まれるクラウド利用料、外部パートナーへの委託費、システム保守運用費、そして何より高度なデジタル人材の人件費といった営業費用(OpEx)が大きな割合を占める。

2024年8月期の売上収益は3兆1,038億円に達している 同社がグローバル同一プラットフォームを運用し、有明プロジェクトの成果をさらにAIやデータ活用に拡張させている現状を鑑みると、年間のIT関連支出(予算総額)は売上高比で 2.5%から3.5% 程度に達していると推測される。これは金額にして年間約800億〜1,000億円規模となる。

推計項目(2024年8月期ベース) 推計金額(下限) 推計金額(上限)
売上収益 3兆1,038億円

3兆1,038億円

IT設備投資(ソフトウェア取得等) 約400億円 約500億円
IT営業費用(クラウド・保守・人件費) 約400億円 約600億円
推定IT予算総額 約800億円 約1,100億円
売上高比 IT予算比率 約2.6% 約3.5%

柳井正会長兼社長が「人材投資こそが最も重要」と説き、デジタル人材に最高水準の報酬を用意している点は、この高いOpEx比率を裏付けている 。日本の小売業の平均的なIT予算が売上比1%未満に留まる中で、ユニクロが圧倒的なDXを実現できているのは、この「3%の壁」を突破する継続的な資本投下を行っているからに他ならない。

日本のDX成功事例3社における投資実態の分析

ユニクロと同様に、DXを単なるスローガンに終わらせず、具体的な事業成果に結びつけている日本企業3社(小松製作所、ブリヂストン、ニトリ)の事例を検証し、その投資比率を明らかにする。

1. 株式会社小松製作所(コマツ):ダントツ・バリューを実現するIT投資

コマツは、建設機械の遠隔管理システム「KOMTRAX」や、施工現場の全工程をデジタルで繋ぐ「スマートコンストラクション」により、製造業のサービス化(サービタイゼーション)を先駆的に実現している 。同社にとってIT投資は、製品そのものの付加価値を高めるための「研究開発活動」の一部として定義されている。

投資の定量分析

2024年3月期の有価証券報告書によれば、連結ベースのソフトウェア帳簿価額は330億円、ソフトウェア建設仮勘定は146億円である 。これに加えて、年間1,104億円の研究開発費の多くが、無人化・自動化施工のためのソフトウェア開発に充てられている

項目 2024年3月期実績 比率・内訳
売上高 3兆8,614億円
研究開発費 1,104億円

売上高比 2.9%

ソフトウェア(資本的支出) 約100億円規模

定常的な刷新

推定IT・DX関連支出総額 約1,200億円 R&Dの一部を含む
売上高比 投資比率 約3.1%

コマツの強みは、IT投資を「コスト」ではなく、将来のキャッシュフロー成長のための「成長戦略案件」として別管理し、予算を重点配分している点にある 。この 3%を超える投資比率 が、競合他社に対する高い参入障壁(デジタル・ディフェンス)を構築している。

2. 株式会社ブリヂストン:ソリューション事業への転換を支える3%の規律

ブリヂストンは、タイヤの「創って売る」モデルから、顧客のタイヤ利用をデジタルで支える「使う」ソリューション事業への変革を推進している 。中期経営計画「24MBP」では、2024年から2026年の3年間で約1.2兆円の戦略的投資を計画しており、そのかなりの部分が「ブリヂストン流DX」に向けられている

投資の定量分析

同社は、製品・生産技術開発における研究開発費を売上収益比 3%レベル で維持する方針を明確にしている 。2025年の設備投資計画は約4,060億円であり、DX、サイバーリスク対応、生産拠点のデジタル化(シン・彦根モデル)が主要なリソースアロケーションの対象となっている

項目 2025年度計画 戦略的意図
売上収益(予想) 約4.4兆円
研究開発費目標

売上高比 3.0%

デジタル技術との融合
設備投資(システム・DX含) 約4,060億円

24MBPの初年度重点投資

推定IT・DX関連支出総額 約1,400億円
売上高比 投資比率 約3.2%

ブリヂストンのDX投資は、単なるIT部門の予算ではなく、経営戦略と表裏一体となった「事業投資」としての性格が強く、売上比3%という数値は経営陣との合意事項として聖域化されている。

3. 株式会社ニトリホールディングス:内製主義を貫くための資本投下

ニトリは「製造物流IT小売業」という独自のビジネスモデルを掲げ、25年以上にわたりシステムのフルスクラッチ開発(自社開発)を継続している 。2022年には専門組織「ニトリデジタルベース」を設立し、エンジニアを数千名規模に拡充する野心的な計画を進めている。

投資の定量分析

ニトリの2025年3月期の設備投資見込額は450億円である 。同社はITにおいて「自前主義」を貫いており、外部パッケージのライセンス料を払う代わりに、社内の開発エンジニアの人件費や教育費に多額の投資を行っている。

項目 実績・計画値 投資の性格
売上高(2024年3月期) 8,957億円
設備投資額

422億円

ソフトウェア・物流自動化含む
ニトリデジタルベース設立

2022年〜

専門人材の集中採用
推定IT・DX関連支出総額 約200億〜250億円 自社開発コスト中心
売上高比 投資比率 約2.2% ~ 2.8%

ニトリのIT投資比率が小売業平均を大きく上回っているのは、システムを「外部から買うもの」ではなく、「自ら作り上げ、競争力の源泉とする資産」と位置づけているからである。この内製化コストこそが、同社の高い収益性の裏付けとなっている。

米国におけるDX成功事例:異次元の投資規模

日本の経営者がベンチマークとすべきは国内企業に留まらない。グローバル市場で覇権を握る米国企業のIT投資規模は、日本の常識を根底から覆すものである。

ウォルマート(Walmart):リアルの巨人のデジタル化

ウォルマートは、アマゾンの台頭に対し、過去10年間で徹底的なデジタル変革を行い、オムニチャネルの覇者へと返り咲いた。同社の2025年度の資本的支出(Capex)計画は、売上高の 3.0%から3.5% を維持している

指標 ウォルマート(2024-2025) 日本企業への示唆
年間総売上高

6,481億ドル

約100兆円規模
年間資本的支出(Capex)

229億ドル

約3.5兆円
IT・サプライチェーン投資比率

売上高比 3.5%

額・比率ともに日本を圧倒

ウォルマートの投資の約60%(約146億ドル)は、テクノロジー、サプライチェーン、顧客向けイニシアチブに割り振られており、ITが経営の最優先事項であることを示している

アマゾン(Amazon):テクノロジーへの無限再投資

アマゾンの「テクノロジー・アンド・コンテンツ」支出は、事実上のDX・IT予算であるが、2024年度のその額は885億ドル(約13.8兆円)に達する 。これは売上高比で 約13.8% という驚異的な水準であり、日本の製造業が誇る研究開発費率をも凌駕する

指標 アマゾン(2024実績) 投資のインパクト
売上高比 IT・コンテンツ支出

13.8%

AWS、AI、ロボティクス開発
AIインフラ投資計画(2026年)

2,000億ドル

次世代覇権の確保

アマゾンにとってテクノロジーはもはやツールではなく、ビジネスそのものである。この比率は、DXを「業務効率化」の枠組みで捉えている日本企業の経営者にとって、戦慄すべき数字である。

ドミノ・ピザ(Domino's Pizza):ピザを売るテクノロジー企業

「我々はピザを売るテクノロジー企業だ」と公言するドミノ・ピザは、米国のデジタル売上比率を85%まで高め、デジタル変革の代名詞となった 。同社は年間1.5億ドル以上のR&D投資と、2.25億ドルのICT支出を行っており、ITがブランド価値の根幹となっている

日本の経営者への提言:DX成功のための「3%の規律」

本報告書の分析を通じて得られた最も重要な洞察は、DXの成功には「精神論」や「あるべき論」ではなく、売上高の 最低でも3%前後 という明確なIT予算の投下が不可欠であるという事実である。

IT予算(売上高比)のベンチマーク比較

企業・カテゴリー 推定IT/DX予算比率 DXの到達度
アマゾン(米国) 13.8% 世界最強のデジタル・プラットフォーマー
ウォルマート(米国) 3.5% オムニチャネルのグローバルリーダー
小松製作所(日本) 3.1% 製造業のサービス化における成功事例
ブリヂストン(日本) 3.2% ソリューション事業への構造転換中
ユニクロ(日本) 2.6% ~ 3.5% 情報製造小売業への変革を実現
日本企業平均 1.3% ~ 1.7% 既存システムの維持(守りのIT)

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1. 資本投入なき変革はあり得ない

DXとは、既存の「ヒト・モノ・カネ」の配分を、データとテクノロジーを軸に抜本的に組み替える行為である。ユニクロが1,000億円を投じて物流を自動化したように、資本を投下して物理的、デジタル的インフラを再構築しなければ、現場の意識改革だけでビジネスモデルが変わることはない。経営者は、DX予算を「ITコスト」ではなく、「事業存続のための戦略投資」として位置づけ、売上高比3%を基準値として確保すべきである。

2. 攻めのITと守りのITの分離

多くの日本企業では、限られたIT予算が既存システムの保守運用(守りのIT)に食いつぶされている。DXを推進するためには、現状の1.5%程度の予算とは別に、変革のための「攻めの予算」を確保しなければならない。コマツのように成長戦略案件として予算を別枠管理し、景気変動に左右されない投資の聖域を作ることが成功の鍵となる。

3. グローバル同一プラットフォームの構築

ユニクロがグローバルで同一のプラットフォームを運用している事実は、DXの本質が「データの標準化」にあることを示している。地域ごとにバラバラなシステムを許容することは、データの断絶を生み、デジタル変革の恩恵を最小化させる。初期投資は大きくなるが、世界共通のデジタル基盤を構築することこそが、中長期的な運用コストの削減と、データ利活用の最大化をもたらす。

結論

デジタルトランスフォーメーションが成功するか否かは、経営者の「覚悟」の量ではなく、投じた「資本」の量によって決まる。本報告書で取り上げたユニクロ、コマツ、ブリヂストン、ニトリ、そして米国の先進企業は、例外なく売上高の3%から10%を超えるIT予算を継続的に投じている。

日本企業の多くが留まっている売上比1.3%〜1.7%という水準は、いわば「戦う前から負けている」状態である。この投資不足を現場の努力や精神論でカバーすることは不可能である。日本の経営者が今なすべきことは、DXを「魔法の杖」のように語るのをやめ、自社の売上高の3%という明確な金額をデジタルの祭壇に供えることである。巨額の資本投下という痛みなくして、デジタルによる破壊的革新の果実を得ることはできない。本報告書のデータが、日本の経営者が「投資の論理」に目覚める一助となることを期待する。

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