丸紅のケーススタディ:AIデータセンター向けガスタービン発電市場の事業機会をAIで特定する
2011年から2015年にかけて「インフラ投資ジャーナリスト」の肩書きで、国内・海外の発電案件の組成に取り組んでいたことがあります。その時期に実は丸紅さんにも少し出入りして石炭発電案件の話をしていました。私の「発電案件組成」は上流の"とっかかり"の部分でありまして、内外に発電事業として成立する余地が見つかると、その詳細を調査して、事業会社に持ち込むことを業にしようと頑張っていました。今では良い思い出です。
めちゃめちゃ調査しまくったので知識としては日本でトップクラスの「インフラ投資ジャーナリスト」だったと思います。関連業界の方々に向けて有料のセミナーもやらせていただいていました。死に物狂いで頑張っていました。時間を売り買いするネットビジネス「ピーポーズ」が失敗した後の話です。
その頃発電案件に取り組んでいたことの"証拠"のような投稿多数が見つかりました。この頃の経験が、「AIデータセンター時代」の今、役立つとは思いもよりませんでした。人生長く生きてみるものです。
天然ガス主流の時代へ、インド・バーラト重電が日本へのガスタービン納入に意欲(2011/4/12)
インドネシア初のPPP案件(火力発電)をJパワー・伊藤忠コンソーシアムが落札(2011/6/3)
コンバインドサイクル発電は事業として成立しやすいか?川崎天然ガス発電所の採算性をエクセルで試算してみた(2011/8/16)
バイオマス発電が意外と好採算であることについて(2011/10/12)
PPPの基本: 海外PPP案件の受注には2〜3年かかる(2011/12/26)
スマートシティから発送電分離まで:拙著「電力供給が一番わかる」刊行のお知らせ(2012/1/4)
特報:インド・マハラシュトラ州電力公社が大型石炭発電2案件の公開入札を開始(2012/7/19)
続報:インド・マハラシュトラ州電力公社の大型石炭発電2案件(2012/7/20)
海外インフラ事業、EPC案件がいいのかPPP案件がいいのか?(2012/3/13)
木質バイオマス発電の採算性に大きく影響する「灰」の処理(2013/10/2)
東北における石炭火力発電所10万kW級の余地(2013/10/4)
木質バイオマス発電の現状 - 間伐材の調達に不可欠な高性能林業機械(2014/5/8)
上に抜き出した過去発電関連の投稿をプロの方がざっと見ると、当時今泉が行っていたことの中身をよく理解していただけると思います。一言で言えば「案件屋」です。発電事業機会を海外で、また再生可能エネルギー固定価格買取制度が施行されてから国内で特定し、それを企業様に持ち込んで「どうでしょうか?」という生業です。丸紅さんに少し出入りしていたのは石炭発電に多少顔を突っ込むようになった2013年から2014年だったと思います。(上の太字の投稿のあたりです)
その頃に丸紅が海外発電事業において国内ダントツの地位を持つ「発電事業者」であることを知りました。海外発電事業の事業規模では、発電案件開発専業の電源開発株式会社よりも上だったと記憶しています。
そういう前史があって、AIデータセンター時代の今、AIをフルに使いこなすと、以下のような事業機会の特定ができますよ...ということで、勝手ケーススタディとしてやらせていただいております。誠に恐縮でございます。
最近のAIデータセンター電力供給関連の投稿
アメリカの大型AIデータセンター20案件を日本の事業者向けに整理【AIで調査】(2025/10/30)
米国AIデータセンター業界で常識になりつつある「Power-First」戦略をビジネスパーソン向けに解説(2025/12/9)
Teslaの自動運転1プロジェクトで原発0.5基分。AIデータセンター電力消費爆発のリアリティを超記述!(2025/12/16)
米/中東/韓/欧州のAIデータセンター建設ブームは「電力争奪戦」の様相(2025/12/18)
AIデータセンター電力供給市場の米欧における事業機会を特定するケーススタディ:住友電工の場合(2026/1/6)
AIデータセンター向けGTCC発電事業の機会と戦略
はじめに
AI(人工知能)の爆発的な普及に伴い、その基盤となるハイパースケール・データセンター(以下、DC)の建設が世界各地で加速しています。特に高度なAIモデルの学習や推論を行う「AIデータセンター」は、従来のクラウドDCを凌駕する大規模設備となりつつあり、その電力需要は年々急増しています。米国ではDCの電力需要が前年比22%増となり、2030年までに現在の3倍近くに達すると予測されていますspglobal.com。欧州でも一部地域ではDCが電力網に占める割合が急拡大し、例えばアイルランドでは国内電力消費の22%がDC由来(EU平均は2~3%)に達していますtechxplore.com。中東においても政府主導でAI分野の投資が進み、サウジアラビアはAIデータセンター容量1.9GW計画、UAEは5GW規模のAIキャンパス構想を打ち出すなど、大規模プロジェクトが目白押しですmedia-publications.bcg.com。しかしこのようなDC需要の急拡大は、各地域の電力インフラに大きな負荷を与え、安定供給や脱炭素化との両立という課題を浮き彫りにしています。
丸紅株式会社は国内外で豊富な発電事業の実績を有し、特にガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電に強みを持っています。GTCC(天然ガス火力のコンバインドサイクル発電)は石炭火力に比べCO₂排出を65%削減可能でありspectra.mhi.com、高効率かつ出力調整が容易な電源として、再生可能エネルギーの弱点である不安定さを補完できる存在です。また、水素やアンモニアとの混焼・転用による将来的な脱炭素ポテンシャルも秘めています。こうした背景から、GTCC発電は**「エナジートランジション(エネルギー移行)の鍵の一つ」**と位置づけられspectra.mhi.com、データセンター増設による新たな需要に応える有力な選択肢となっています。
本報告書では、丸紅が米国、欧州、中東においてGTCC発電によるAIデータセンター向け電力供給事業を展開する際に、どのような事業機会と戦略が考えられるかを分析します。各地域の電力需給構造、規制環境、再生可能エネルギーとの競合、燃料調達・価格動向などを踏まえて、GTCCの適用可能性と競争優位性を評価します。また、丸紅の国内外における発電事業の実績(特にガス火力)を参照し、同社がどのようにAIデータセンター市場向け電源供給事業へ展開可能か、およびそれが経営戦略に如何に寄与し得るかを検討します。章立てとして、まずデータセンター電力需要の現状と課題を概観し、次に地域別の市場特性とGTCCの有望性を分析、丸紅の強みを活かした戦略オプションを提示した上で、経営層への提言をまとめます。
AIデータセンターの電力需要拡大と課題
世界的なデータセンター需要の急増
近年のAIブームにより、データセンターの電力需要は世界的に急拡大しています。世界全体のデータセンター電力需要は2025年に86GWと推定され、2030年には198GWへと倍以上に増加する見通しですmedia-publications.bcg.com。とりわけAI処理向けの需要が急伸しており、2030年時点ではこのうち半分以上がAI用途(推論に81%以上)を支える電力になるとの予測もあります。これは「AI時代の新たな電力需要層」の出現であり、電力業界に大きなインパクトを与えています。
米国ではハイパースケールDCの集積が進み、電力消費が総需要の約4%(2024年)に達しましたpewresearch.org。2025年にはDC向け電力が61.8GW(前年比+11.3GW、+22%)となり、2028年には108GW、2030年には134GWに達するという予測もありますspglobal.com。これは2020年代後半にかけて急激な発電設備の増強を要する水準であり、既存のグリッド(送配電網)容量では賄いきれない地域も出始めています。実際、データセンター密集地のバージニア州北部(通称「データセンター・アレー」)では前年からの電力需要が30%増加し、州全体の電力計画に影響を与えています。またオハイオ州やジョージア州、テキサス州、イリノイ州なども開発中DCが多く、これら5州で全米の開発中ハイパースケールDCの約70%を占めるとの報告がありますglobalenergymonitor.org。こうした地域では、新規DCの受け入れにあたり電力会社が系統増強計画を迫られ、電力不足や信頼性低下への懸念が高まっています。
欧州では平均するとDC由来の電力需要は総量に占める比率がまだ数%程度ですが、特定地域での集中が問題化しています。先述のアイルランドでは2024年時点で全国電力消費の22%をDCが占め、このままでは2030年に30%に達する見込みであるとされていますtechxplore.com。これは家庭200万世帯分に相当する負荷であり、再生エネ導入拡大や気候目標との整合性に大きな懸念を生んでいます。実際、アイルランド規制当局(CRU)はダブリン地域での新規DC接続に対し、同等の自前電源(オンサイト発電設備や蓄電池)設置を義務付ける政策に踏み切りましたarthurcox.com。具体的には10MVA超の大規模DCは、自身の最大需要(MIC)と同容量のディスパッチ可能な発電・蓄電設備をオンサイトもしくは近接地に確保し、系統に接続することが条件となっています。この発電所はデータセンターとは別契約でグリッドに接続され、単独または複数DCの共同設備として運用可能です。こうした規制は欧州でも異例ですが、既にDCが電力消費の一大セクターとなった地域では「自前電源による電力自給」を促す動きが出てきたと言えますcummins.com。他にもオランダ・アムステルダム近郊や英国・ロンドン近郊でDC集中によるグリッド逼迫が報じられ、自治体が新設抑制や条件付き許可(例えば再エネ活用や熱回収の義務化)を行うケースも散見されますtechxplore.com。欧州全域が厳しい気候目標(2030年CO₂半減等)を掲げる中、新規の化石燃料発電には社会的抵抗が強いものの、「既存インフラでは需要増を賄えない」という現実から政策当局も天然ガスの重要性を認めつつありますspectra.mhi.com。EUは天然ガスをカーボンニュートラル移行に「重要」なエネルギーと位置付け、一定の条件下でガス火力発電をタクソノミー(持続可能分類)に含める動きも見せています。つまり欧州においても電力の安定供給を優先する観点から、ガス火力をブリッジ(橋渡し)として活用する余地は残されているといえます。
中東では経済多角化とデジタル化戦略の一環として、各国がデータセンター誘致・建設に力を入れています。現在中東17か国で計283か所のDCが稼働しており、市場規模は2030年までに現在の2倍に成長すると予測されていますkearney.com。特に湾岸産油国ではAI開発への国家投資が活発で、サウジアラビアは「HUMAIN」という国家AIプロジェクトの下で1.9GW規模のAIデータセンター群を計画中media-publications.bcg.comです。またUAE(アラブ首長国連邦)も総計5GWに及ぶAI特化型データセンターキャンパスを発表しており、中東が「次世代AIインフラのハブ」として台頭しつつあります。これら中東地域のDCは、大規模かつ高可用性が要求される一方、しばしば公共電力網が脆弱または容量不足な場所への建設が検討されます。そのため各国政府は電力インフラ整備とセットでDC誘致を進めており、しばしば新規の発電所建設(多くはガス火力)を並行して計画しています。中東は天然ガス資源が豊富で、燃料価格も国際相場より低廉(産出国では1~3ドル/mmBtu程度の内販価格も)に抑えられていることから、ガスタービン発電を用意することがDC誘致の前提条件となるケースもあります。例として、マイクロソフト社が2025年にUAEアブダビで稼働予定の大型データセンター(投資額約152億ドル)では、信頼性確保のためガスタービンによる自家発電設備を併設しており、99.999%の無停止稼働を太陽光+蓄電池だけでは満たせない現状が指摘されていますlinkedin.com。中東各国も長期的には再生エネやグリーン水素への転換を掲げていますが、現時点で数百MW単位の安定電源を確保するにはGTCCのような従来型の大出力電源が不可欠であり、その供給は政府系事業者と海外IPPコンソーシアムとの協業によって進められる傾向にあります。
電力需給構造と規制環境のポイントまとめ
上記の地域別動向を踏まえ、AIデータセンター電力供給に関する需給構造・規制のポイントを整理します。
-
需要急増の確実性:AIによる電力需要増は各予測機関で幅があるものの(例:今後5年間で米国DC需要が8~12GW増加との試算globalenergymonitor.org)、複数のハイテク企業が数十億ドル規模でDC建設を表明している事実media-publications.bcg.comから、相当規模の新規発電能力が必要なのは間違いありません。米国では2028年までに33~91GWの追加容量が必要との推計もあります。一方で需要過剰予測に伴う「電力設備の過剰建設」リスクも指摘されており、需要の不確実性を契約面でどうカバーするかが課題です。
-
系統の制約とオンサイト発電:米欧の主要DC集積地域では送配電系統容量がボトルネックとなっており、新設DCに自家発電設備を求める動きが見られますarthurcox.com。米国バージニア州では電力会社AEPが燃料電池による100MW電源をDC向け「ブリッジソリューション」として導入する契約を結び、最大1GWへの拡張オプションも検討されていますspglobal.com。これは送電網増強が追いつくまでの繋ぎとしてオンサイト電源を供給する例であり、**「データセンターは自前の電源システムを持つ時代になる」**との指摘もあります。欧州アイルランドでは上述の通り法的義務化に踏み込んでおりarthurcox.com、他国でも大規模DCには系統接続費用負担や再エネ設置義務など何らかの形で自給策を促す可能性があります。
-
再生可能エネルギーとの相克:主要テック企業は「100%再生可能エネルギー利用」を掲げており、風力・太陽光発電の電力購入契約(PPA)を積極的に締結しています。しかし実際には再エネ電源のみで24時間連続稼働を賄うことは困難であり、多くのDCはグリッドからの商用電力と非常用のディーゼル発電機に依存していますtechxplore.com。これでは気候目標との整合性に課題があるため、「24時間カーボンフリー電力(CFE)供給」を目指す動きも出てきました。例えばGoogleは2030年までに全DCで時間毎にCFEを達成する目標を掲げています。この実現には、大規模蓄電池や水素燃料、SMR(小型原子炉)等の新技術が必要ですが、当面はガス火力と再エネのハイブリッドが実際解となる場合が多いでしょうspglobal.com。欧州でも再エネとガス火力を組み合わせた「ビハインド・ザ・メーター」(BTM)型発電所によってDCに低炭素電力を供給するモデルが注目されていますcummins.com。要は、安定供給(Reliability)とクリーン(Sustainability)のバランスを如何に取るかが各プロジェクトの要諦となります。
-
規制環境:米国では州ごとに事情が異なりますが、連邦レベルではデータセンター関連の規制よりもむしろ電力逼迫に対する緩和措置が議論されています。2023年末にはトランプ前大統領がAIデータセンターに併設する発電所開発を加速するため「国家エネルギー非常事態」を宣言すると表明し、化石燃料関連規制の緩和に言及しましたglobalenergymonitor.org。これは政権交代の可能性を睨んだ発言ではありますが、エネルギー安保と産業競争力の観点から電源増設を後押しする政策が今後出てくる可能性もあります。一方欧州では環境許認可が厳しく、新規ガス発電所の建設は地域住民や環境団体の反発を招きやすい状況ですtechxplore.com。許可を得るには高効率であることはもちろん、将来的なCO₂排出削減計画(例えば水素燃料への転換やCCS導入の計画)を提示することが求められるでしょう。中東では政府主導で進められる分、許認可上の制約は小さいですが、海外からの投資受入れに際しては**長期のオフテイク契約(電力購入契約)**や政府保証といった枠組みを整える必要があります。丸紅のような独立系発電事業者(IPP)にとっては、これら契約条件をいかに安定的かつ有利に確保するかが参入の鍵となります。
GTCC発電の適用可能性と競争優位性
GTCC(ガスタービン複合火力)の特性
ガスタービン・コンバインドサイクル発電(GTCC)は、ガスタービンで発電した排熱を回収して蒸気タービンでも発電する方式であり、天然ガスを燃料とする発電技術として**現行で最高水準の熱効率(60%以上)**を実現しています。主な特徴として以下が挙げられます。
-
高効率・低排出:上記の通り石炭火力に比べCO₂排出が約1/3と低く(同じ発電量あたり)spectra.mhi.com、大出力電源の中では比較的クリーンです。最新GTCCでは旧式石炭火力より65%のCO₂削減が可能であり、環境規制にも適合しやすい電源です。
-
出力の柔軟性:ガスタービンは起動・停止や負荷調整を比較的短時間で行え、出力調整幅も広いです。これは変動するデータセンター需要(昼夜や曜日で負荷変動あり)への追随や、再生可能エネ電源との連携運転に有利です。急な需要増にもタービン追加や増設で対応しやすく、モジュール増設による段階的拡張も可能ですcummins.com。
-
高信頼性:最新型ガスタービンは極めて信頼性が高く、例えば三菱重工の最新JAC型タービンでは99.5%の稼働信頼性を達成していますspectra.mhi.com。データセンターが求める"ファイブナイン"のアップタイム(99.999%稼働)にも、GTCC+バックアップ構成で十分応え得る水準です。実際、マイクロソフトが中東DCでガスタービンを選択した理由はこの信頼性であり、**「99.999%の高可用性を現状で満たせるのはガスタービンしかない」**と指摘されていますlinkedin.com。
-
将来の脱炭素対応:GTCCは将来的に水素やアンモニアなどCO₂フリー燃料への転換が技術的に可能とされています。既に一部タービンメーカーは水素30%混焼を実証し、2030年以降の100%水素燃焼の商用化を計画していますspectra.mhi.com。またGTCC排ガスへのCO₂回収装置(CCS)も実用化が進み、回収によりCO₂の大半を除去することが可能ですspectra.mhi.com。すなわち、現在天然ガスを燃料に導入しても、将来技術の発展により**「カーボンニュートラルなGTCC」**へ移行しうる柔軟性があります。これは石炭火力や単純燃焼のガスエンジンにはない強みです。
データセンター電源としての優位性
上述のGTCC特性を踏まえると、AIデータセンター向け電源として以下の競争優位が考えられます。
-
大量・安定供給能力:ハイパースケールDCの単体需要は数十~数百MWに及びます。例えばMicrosoftが建設中の米ウィスコンシン州AIデータセンター「Fairwater」は敷地面積315エーカー(約1.27 km²)、建屋延べ床面積11万㎡に及ぶ巨大施設であり、そのようなAIファクトリー(AI工場)の運転には数百MW規模の連続電力供給が不可欠ですblogs.microsoft.com。GTCCは1サイトあたり数百MWを一括供給可能で、24時間365日の連続運転にも適しています。再生エネのみでこれを賄うには膨大な蓄電コストや予備容量が必要となるため、GTCCの安定出力はデータセンターの基底電源(ベースロード)として極めて有効です。
-
データセンター需要とのマッチ:AIデータセンターは最大負荷時には非常に大きな電力を消費しますが、一方で需要プロファイルは比較的フラットです。サーバーは24/7稼働し夜間に需要が激減するわけではないため、GTCCを高い設備利用率(キャパシティファクタ)で運転できます。高負荷率運転に適したGTCCは経済性が高く、需要に応じ柔軟に出力を調整しつつ常時稼働させることで、投資回収もしやすくなります。ピークシフトが小さいという点で、むしろ一般産業向けよりDC向けの方がGTCCのメリットを享受できます。
-
既存技術による迅速導入:GTCCは発電プラントとして確立した技術であり、数年程度での計画・建設が可能です(例:2GW級GTCCでも3年程度で商業運転開始した例があるmarubeni.com)。対して、大規模蓄電プロジェクトやSMR開発はまだ初期段階で実用化に時間を要します。AI競争は今まさに進行中であり、電力インフラ整備がボトルネックとなればその地域は競争から取り残されかねません。GTCCなら2020年代後半の需要ピークに間に合わせる電源増設が十分可能であり、時間面で優位性があります。
-
バックアップ用途への応用:データセンターでは非常用にディーゼル発電機を多数設置するのが通例ですが、環境規制上ディーゼルの多用は問題があります。代替として、小型ガスタービンやガスエンジンを非常用電源とする動きも広がっていますcafe-dc.com。GTCCは大型常用電源ですが、これに加え小型ガスタービンでN+1冗長を組むなど多重の信頼性設計を行うことで、大規模DC全体の電源設計をガス燃料で一元化し、ディーゼル削減・整備効率化といった副次効果も期待できます。特に都市部のDCでは排ガス規制により非常用発電のテスト稼働さえ制限される事例があり、クリーンなガス燃料への転換は歓迎されるでしょう。
他方式との比較
もちろんGTCCにも課題はあり、他の発電方式との比較で考慮すべき点があります。
-
再生可能エネルギー:コスト競争力では近年太陽光・風力が極めて安価(LCOEベース)になっています。しかし再エネは出力が天候に左右されるため、単独ではDC負荷を担えません。蓄電池併設で擬似的にベースロード化する試みもありますが、大出力・長時間の蓄電には莫大な費用がかかります。一方GTCCは燃料費こそかかるものの、設備利用率が高ければ収支は安定します。カーボンプライシングが導入されている地域では発電時のCO₂コストも考慮が必要ですが、丸紅が関与する発電所の多くは長期売電契約下にありカーボンコスト上昇リスクは契約上ヘッジされていることも強みですmarubeni.disclosure.site。総じて、再エネ+蓄電 vs. GTCCの構図は、少なくとも2020年代は両者ハイブリッドによる相補関係で進むと考えられますspglobal.com。再エネは可能な限り導入しつつ、不足部分をGTCCで埋めることが現実解でしょう。
-
ディーゼルエンジン/ガスタービン(シンプルサイクル):中小規模DCや局所対策では、大型プラントではなく分散型のエンジン発電や小型ガスタービン(単純サイクル)の設置も選択肢となります。例えばアイルランドの新規制では10MVA未満のDCにはバックアップ用の自家発電機(オートプロデューサー)設置を義務付けていますarthurcox.com。小規模ではGTCCよりも初期費用の低いエンジン発電が有利です。しかしエンジンは効率が劣り(大型でも40%台)、燃料費やCO₂排出の面で長期運用コストが高くなります。多数の小エンジンを分散配置するより、一括してGTCCで発電し送電する方が効率的で環境負荷も低いケースが多いと考えられますcummins.com。特にハイパースケールDCではスケールメリットが働くため、**大規模IPによる集中発電+電力販売(PPA)**のモデルが合理的です。
-
燃料電池:固体酸化物型などの燃料電池は発電効率が高く(60%前後)静音であるため、AEPが導入したようにDCサイトへの設置が検討されていますspglobal.com。燃料電池はモジュール化された分散電源として需要に応じ追加設置しやすい利点があります。一方で初期コストが非常に高額で、大容量化にも限界があります。100MW規模を燃料電池で賄うには商用実績が乏しくリスクも大きいです。また結局燃料は天然ガス由来(水素転換して使用する場合も)でありCO₂フリーではありません。したがって燃料電池は局所的・中小規模の補完には有用でも、基幹電源としてはGTCCの経済性・規模優位には及ばないでしょう。
-
原子力(小型炉SMR等):将来的な選択肢としてSMRなどの活用も議論されています。米国では一部企業がDC近接地に超小型原子炉を設置する構想を持っています。しかし安全規制や社会的合意形成に長い年月を要し、技術的な商用化も2030年代半ば以降と見込まれます。少なくとも当面の10~15年スパンではGTCCが現実的な大規模電源の筆頭であり、SMRは長期的展望に留まります。
以上を総合すると、GTCC発電はAIデータセンターの巨大な電力需要を支える「現実解」として、経済性・信頼性・拡張性の点で優位性が高いと言えます。ただしカーボンニュートラル実現という大目標に逆行しないよう、GTCCによる供給であっても低炭素化策を組み合わせることが重要です。具体的には、併設する再生エネ発電(昼間は太陽光、夜間はGTCCなどのハイブリッド)、タービンの水素対応化、カーボンオフセットの活用、データセンターから発生する余剰熱の有効利用(近隣への熱供給)等の工夫が求められますtechxplore.com。これらを組み合わせることで、電力の安定供給と環境配慮の両立という付加価値を提供でき、競合との差別化や規制当局からの許可取得にも繋がるでしょう。
【世界のAI特需が生むビジネス機会】
AIデータセンター時代の
電力インフラ戦略
〜世界の事例から学ぶ発電・送電・電力供給の最新動向〜
AI特需の裏で進行する「電力争奪戦」。Grid Bypassやオンサイト発電など、米国テックジャイアントの動向から日本企業のビジネスチャンスを読み解きます。
講師:今泉 大輔(株式会社インフラコモンズ 代表)
主催:SSK 新社会システム総合研究所
丸紅の発電事業実績と強みの活用
丸紅の国内外における発電ポートフォリオ
丸紅グループは1994年から発電事業に参入し、現在では世界21か国で持分合計12GW以上の発電資産を運営する、グローバルな総合電力事業者ですmarubeni-solar.com。この中には石炭火力・ガス火力・再生可能エネルギーと多様な電源が含まれますが、近年は再生可能エネ比率を2023年までに20%へ高める目標を掲げる一方、LNG調達から発電まで一貫対応する「LNG-to-Power」事業にも注力しています。つまり、脱炭素化ニーズに応えつつもガス火力の新規開発可能性は追求しており、ガス火力発電についてはアンモニア混焼等の新技術を活用したCO₂削減にも取り組む方針ですmarubeni.disclosure.site。このスタンスはTCFD開示でも明言されており、**「低炭素移行に向け社会のニーズに応えるべく、ガス火力発電事業の新規開発は可能性を追求する」**との記載があります。さらに、発電事業におけるカーボンプライシング等のリスクも、同社の発電案件の大半が長期売電契約に基づいているため契約上ヘッジされていると述べています。これは電力ビジネスにおける丸紅の安定収益志向とリスク管理能力を示すものです。
丸紅の発電ポートフォリオ構成(2025年3月期末見通し)を見ると、ガス火力等が約7.1GW、石炭火力1.8GW、再エネ2.2GWとなっておりmarubeni.disclosure.site、ガス火力が最大のウェイトを占めています。日本国内では丸紅新電力を通じたPPS(新電力)事業も展開し、自社発電所や共同出資による発電所から調達した電力を大口需要家に販売する実績があります。例えば、東京・中部エリアで丸紅新電力が大規模工場やオフィスへの電力供給で採用されているケースも多く、電力小売・卸売のノウハウを蓄積していますmarubeni.com。このような**「発電+小売」の垂直統合ビジネスは、データセンター向けにも応用可能です。すなわち、丸紅が発電所を開発・所有し、その電力をデータセンター事業者へ長期契約で販売するモデルですcummins.com。同社は英国ではスマーテストエナジー社(SmartestEnergy)を通じて電力卸売・小売事業**を行っており、米国でも電力事業子会社(Marubeni Power International)を1986年から運営するなどmarubeni-power.com、自由化市場でのエネルギー事業経験があります。したがって、海外においてもIPPとして発電所を建設・運営しつつ、顧客(データセンター等)に直接売電するスキームへの理解・実績がある点は強みです。
ガス火力発電プロジェクトの実績
丸紅は過去数十年にわたり多数のガス火力発電プロジェクトを手掛けてきました。その一部を挙げると:
-
オマーン・スール(Sur)ガス複合火力 IPP: 発電容量2,000MWの大型GTCC発電所。2011年に丸紅がコンソーシアムリーダーとして受注し、2014年に商業運転を開始marubeni.com。同国の電力容量の約28%を占める国家基幹電源となっていますreuters.com。丸紅は出資・建設・運営に関与し、長期PPAで収益を上げています。
-
インドネシア・ジャワ1 ガス火力 IPP: 発電容量1,760MW(世界最大級の浮体式LNG受入設備付きGTCC)。国営Pertamina社との共同(丸紅持分40%)で開発し、2021年に商業運転開始。燃料のLNG調達から発電まで一貫したプロジェクトで、丸紅のLNGバリューチェーン活用事例です。
-
サウジアラビア・タナジブ(Tanajib)コージェネレーション: サウジAramco向けに蒸気と電力を供給する940MWガス火力+淡水化プラント。TAQA(UAE電力会社)と組んで受注し、2025年稼働予定。丸紅にとってサウジで4件目の発電・造水案件であり、Aramcoという高信頼オフテイカー相手に20年契約で運営されますmarubeni.com。熱電併給による高効率運転が特徴で、プロセススチーム供給も含めたインフラ複合事業です。
-
アラブ首長国連邦・スワイハン(Sweihan)太陽光: 1,177MWの世界最大級太陽光発電所(単一サイト容量)。ガス火力ではなく再エネですが、丸紅が60%出資し2019年運開。UAE政府と長期固定価格契約を結び、再エネ事業にも積極参画していますmarubeni.com。このように中東でのIPP運営経験・政府との協調実績は、ガス火力案件でも信頼に繋がります。
-
国内ガス火力: 丸紅は国内でもIPPや自家発電に参画しています。例えば青森ガス発電(220MW級GTCC)や、関西電力と組んだ神戸発電所、北陸電力と組んだ高岡ガス発電所など、電力会社とのJVで複数のガス火力発電設備を運営してきました。また100MW以下の小型ガスタービンを工場地帯に設置し、自家発電+余剰電力売電を行うケースもあり、分散型電源のノウハウも有しています。
以上の実績から、丸紅の強みとして次の点が挙げられます。
-
グローバルでのIPP開発運営力: 北米・欧州・中東・アジアにおいて、官民様々なパートナーと協働し発電所を構築してきた実績。特に中東では複数国での実績があり、政府系オフテイカーとの交渉やプロジェクトファイナンスにも精通しています。
-
燃料調達から発電までのバリューチェーン: エネルギー・化学品部門におけるLNGトレーディング事業と、電力・インフラ部門の発電事業が連携できる体制にありますmarubeni-solar.com。LNG価格は地域差がありますが、丸紅は米国(シェールガス)や中東でのLNG権益・調達ルートを持ち、燃料調達の優位性を発揮できます。これはAIデータセンター向けに長期安定価格で電力を供給する上で重要です。
-
長期契約による安定収益モデル: 前述の通り丸紅は契約に基づく収益確保を重視しており、発電事業ではPPA(電力購入契約)を通じて投資回収を図りますmarubeni.disclosure.site。データセンター向け供給も、需要家と長期PPAを結ぶモデルが想定され、収益の見通しを立てやすいです。丸紅の社内にはこうしたプロジェクトを精査・遂行する財務能力やリスク管理の知見が蓄積されています。
-
新技術への取り組み: 丸紅は気候変動対策としてアンモニア混焼や水素利用、蓄電池ビジネス(子会社の丸紅エネブルによる蓄電池販売)にも積極姿勢を示していますmarubeni.disclosure.site。このイノベーション受容性は、データセンター電源事業にもプラスに働きます。例えば将来的に水素タービンを導入する際も、三菱重工など技術パートナーとの連携により先行的にプロジェクト化できる可能性があります。
総じて、丸紅は「燃料調達力+発電ノウハウ+契約・金融力」を兼ね備えた総合エネルギー企業として、AIデータセンター向け電源供給事業に必要な要素を多く持っています。これは他の商社や発電専業社と比較しても強みと言え、後述する戦略を実行するベースとなります。
AIデータセンター電源供給事業への展開戦略
ビジネスモデルの検討
AIデータセンター向けの電力供給事業を展開するにあたり、主にIPPモデルを念頭に置きます。すなわち、丸紅が出資する事業会社が発電所(GTCCプラント等)を建設・運営し、その電力をデータセンター事業者(もしくは電力会社や政府機関)に長期契約で販売する形ですcummins.com。この基本モデルの下で、地域や案件に応じて以下のようなバリエーションが考えられます。
-
単独データセンター向け専用電源: 特定のハイパースケールDC事業者(例: Google, Microsoft, AWSなど)と個別に契約を結び、そのDC群に電力を供給する発電所を用意するケースです。例えばMicrosoftが建設中のウィスコンシン州DCについて、仮に将来そこで水素コージェネ設備を導入するとなれば、丸紅がそれを開発しMicrosoftに電力・熱を販売する、といった形が想定できます。大手テック企業は自社資金で再エネ発電所を建設する例もありますが、電力資産を自社バランスシートに乗せたくないという意向もあり、第三者所有モデル(Corporate PPA)は十分可能性があります。丸紅は北米で既に再エネのCorporate PPA事業(メキシコ・タイ・ベトナムでのオンサイト太陽光供給など)を手掛けておりmarubeni-solar.com、その延長で大規模DCへの供給契約を狙うことができます。
-
データセンター集積地向け共同電源: バージニア州やアイルランドなど、DCが集積するエリアでは複数のDCが共同で一つの発電所から電力供給を受けるスキームも有望ですarthurcox.com。丸紅が発電所を建設し、地元の系統接続会社や需要家グループとPPAを締結、複数DCに電力を融通します。アイルランド新政策では複数DCによる1つの近接発電所の共有も想定されています。この形なら各DCが個別に設備を持つより効率的で、丸紅のようなIPPに事業機会があります。地域の送電事業者と連携し、送電網の特定ノードに発電所を紐付けする形で実現できます。
-
ユーティリティ連携型モデル: 中東などではデータセンター事業者が電力会社から規定料金で電力を買うケースも多いです。この場合、丸紅は直接DCと契約するのではなく、国営電力会社とのIPP契約を結び、その発電所からDCへ優先供給するという形になります。例えば丸紅がサウジの電力市場(SPPC)向けにIPPを建て、その電力の大部分をNEOM等のテックプロジェクト向けに割り当てる、といったケースです。丸紅は既にサウジで風力IPP案件を受注するなど官民連携の実績がありますgulfbusiness.com。政府調達+用途指定という形であれば、信頼性・信用力の面で有利に交渉できます。
-
オンサイト小型電源サービス: データセンター敷地内または隣接地に、小型~中規模のガスタービン発電機群を設置し、需要家構内へ直接給電するサービスも考えられます。いわゆるEnergy as a Serviceモデルで、丸紅が設備を所有し運転、データセンター事業者は電力使用料を支払うものです。Aggreko社などは既にデータセンター新設時にガス発電機のハイブリッド電源を提供する例がありますaggreko.com。丸紅も国内外で分散電源サービス(非常用発電機リースやオンサイト太陽光)を展開しておりmarubeni-solar.com、そのメニューに大規模ガスタービンのオンサイト設置運営を加える形です。この場合は規模が限定されますが、グリッド接続の猶予期間など短期ニーズに応えることができます。先述のAEPによる燃料電池設置に似た動きで、**「グリッド増強までのブリッジ電源」**として売り込みができますspglobal.com。
-
ハイブリッド電源提案: 再生可能エネ発電所+GTCC発電所+蓄電池のセット提案も戦略となります。例えば中東では日中の太陽光(安価)と夜間のGTCCを組み合わせ、統合的にDCへ電力供給する契約形態が考えられます。丸紅はUAEでメガソーラーを運営しており、こうした資産とGTCCを組み合わせて**「低コストかつ24時間安定」の電源パッケージ**を提供できますspglobal.com。欧州向けには、例えば洋上風力+GTCC+水素燃料調達のセットで「2030年以降もCO₂フリーを実現可能な電源」として提案するなど、総合商社ならではの包括提案が有効でしょう。
地域別戦略の方向性
上記モデルをベースとして、米欧中東それぞれで丸紅が取るべき戦略の方向性を考察します。
1. 米国: 最大の市場機会が存在します。データセンター需要は世界最大で今後も伸長する見通しであり、新設されるGTCCの受け皿も大きいです。丸紅は北米で既存IPP資産を有し(Invenergy社とのJV等で天然ガス火力を保有wwww.invenergy.com)、市場の仕組みにも通じています。戦略としては、まずデータセンター集中エリア(バージニア州やオハイオ州など)に照準を当て、地元電力会社やインフラ投資家との連携を模索します。例えばバージニア州PJMエリアでは、2020年代後半に老朽火力の大量引退が予定されており、需要増との組み合わせで供給不足の懸念がありますglobalenergymonitor.org。Dominion Energyなど既存ユーティリティは自社でのガス火力新設に慎重ですが、需要家サイドからの要望が強まれば第三者による新設にも門戸が開く可能性があります。丸紅としては大手テック企業とのネットワーク(情報産業部門などを通じ)を活用し、需要動向を把握しつつ、共同でエネルギーソリューションを構築する提案を行います。実際、GE Vernova社がAIデータセンター向けガス発電所開発でパートナーシップを結んだとの情報もあり、競合も動き出しています。丸紅も米国部門に専門チームを置き、テック企業・機器メーカー・投資家を巻き込んだコンソーシアム形成を目指すべきです。また石油メジャーのエクソンモービルやシェブロンもDC向け直結ガス発電を検討していると報じられ、エネルギー業界全体で新市場として注視されています。これらプレイヤーに対しても、丸紅は共同投資や燃料供給面で協力可能なため、パートナーシップを模索します。地理的には、電力自由化されているテキサス州(ERCOT)なども、データセンター増加による需要拡大が見込まれるため、有望です。加えて、**トランプ前大統領の言及する政策(AI向け発電所推進)**が現実化すれば追い風となり得るため、政策動向にもアンテナを張ります。
2. 欧州: 欧州は環境制約が厳しい反面、「ソブリンAI」用途のデータセンター需要が今後政府主導で生まれる可能性があります。例えばEU各国で、機密性の高いデータを扱う政府系DCや、欧州独自のクラウド基盤(Gaia-Xなど)のためのデータセンター建設が計画されています。こうした案件では、安全保障面から外部からの安定電源確保が重視されるでしょう。丸紅は英国で電力小売事業を展開中であり、欧州の電力市場にも知見がありますmarubeni.com。戦略としては、まずアイルランドやオランダなどで進むオンサイト発電ニーズに応える形で、小~中規模のガスタービン設備提供を検討します。同時に、将来の大規模プロジェクトに備えて水素対応型GTCCの技術開発パートナー(三菱重工やGEなど)と協議し、「欧州向け次世代GTCCプラント(水素準備完了)」を提案できる体制作りをします。現時点では欧州で商用ガス発電所を新設するハードルは高いですが、電力逼迫リスクが表面化すれば規制も緩和される可能性があります。その兆候はすでにアイルランドで見られますし、北欧でもマイクロソフトの大規模DC建設(ノルウェー)に際し地元の水力電源を超える需要が懸念されていますblogs.microsoft.com。丸紅は欧州での再エネ開発(英洋上風力、ポルトガル風力等)実績も豊富でmarubeni-solar.com、これらと組み合わせたハイブリッド提案で「環境目標と整合するガス発電」のイメージを作ることが重要です。またWaste-to-Energyや小型分散電源との組み合わせなど、欧州が得意とする分野にも参入し、データセンター向けの多様な電源オプションを揃えることが望ましいでしょう。
3. 中東: 最も具体的案件が期待できる地域です。丸紅は中東で長年にわたり電力・水事業を手掛けており、各国政府やユーティリティとの太いパイプがあります。特にサウジアラビアやUAEでは、国家プロジェクトとしてのAIデータセンター計画に絡めて電力インフラ需要が発生します。戦略としては、現地政府・政府系企業との合弁を積極的に模索します。例えばサウジのPIF(公共投資基金)やNEOM社、UAEのMubadalaなどが出資者となる形で、丸紅が技術・運営ノウハウを提供するスキームが考えられます。長期オフテイク保証が得られる分、やや利幅は低くとも確実な収益が見込めます。燃料面では、例えばカタール産LNGを活用するなら丸紅のLNGトレード部門が貢献できますし、UAEでは国営ADNOCとの協業余地もあります。また中東は水素やアンモニアといった次世代燃料の一大供給地となるポテンシャルがあるため、丸紅としてグリーン燃料の調達・活用モデルケースをここで作ることも意義があります。具体的には、丸紅がGTCC発電所を建設し、運転開始当初は天然ガスを燃料としつつ、2030年代に地元で製造されるグリーン水素またはアンモニアに段階的に転換する計画を組み込むものですspectra.mhi.com。これを契約ベースで明示しておけば、たとえ当初は化石燃料でもプロジェクトが国家の脱炭素戦略に資するとの位置づけを得られ、承認も得やすくなるでしょう。丸紅の中東現地法人や在ドバイ事務所などをハブに、早期から政府関係者との対話を始め、データセンター誘致=丸紅による電源提供セットというイメージを売り込むことが大切です。
提言: 丸紅経営層が講ずべき具体策
以上の分析を踏まえ、丸紅がAIデータセンター向け電源供給事業を成功させるための提言を経営層向けにまとめます。
-
専任タスクフォースの設置: エネルギー部門と情報ソリューション部門の横断で「AIインフラ電力タスクフォース(仮称)」を立ち上げ、最新のデータセンター需要情報と各国の政策動向を収集させます。変化の速い分野であり、社内外の知見を集約する組織的対応が必要です。
-
戦略的投資と提携: 北米・欧州の新興エネルギー企業や、水素タービン技術を持つメーカー、さらにはデータセンター運営事業者への戦略出資・業務提携を検討します。例えば、クラウド大手が進める再エネ投資に共同参画したり、GEや三菱重工と「データセンター電源コンソーシアム」を組成するなど、プレイヤー同士の協業でマーケットを創出します。
-
モデルケース創出: 最初の成功事例をいち早く作ることが肝要です。中東や北米のプロジェクトで、丸紅主導のGTCC供給案件を一件成立させましょう。例えば「○○国AIハブ向け500MW GTCC+太陽光ハイブリッド電源プロジェクト」に参画し、その成果を持って他地域へ横展開する形です。モデルケースのROIや技術的成果を実証することで、社内外の理解を得やすくなります。
-
低炭素ブランディング: 事業展開にあたっては「丸紅はデータセンターのクリーン&安定電力パートナーである」というブランドイメージを確立しましょう。再生エネ推進やアンモニア燃料実証など既存の丸紅の取組みと結び付け、AI時代の持続可能な電力ソリューション提供者との評価を獲得します。具体的には、案件ごとにCO₂排出削減量や再エネ比率を指標化し、公表していくといった施策が考えられます。
-
リスクマネジメント: 長期契約と言えど技術変化や需要変動のリスクは存在します。契約条項には需要家側の設備合理化やAI効率向上で電力需要が減少した場合の救済策(最低オフテイク義務など)を盛り込み、燃料価格ヘッジ策も講じます。また将来的に発電資産が不要化(ストランデッド)しないよう、第三者への売電余地(グリッド連系オプション)を確保しておくと安全です。
-
経営戦略への位置付け: この新事業を丸紅の中長期戦略に明確に位置付けます。例えば2030年ビジョンに「デジタルインフラ支援の電力ビジネスで世界トップクラスになる」等の目標を掲げ、人材・資金を重点配分します。丸紅は2031年3月期までに時価総額10兆円超を目指すとの長期方針を発表していますmarubeni.com。その達成には新たな収益源が不可欠であり、AIインフラ分野で早期にポジションを築くことは株主価値向上にも資するでしょう。
おわりに
AIデータセンター向け電力供給事業は、電力ビジネスとデジタル産業の交点に位置するフロンティア領域です。丸紅が長年培ってきた発電事業のケイパビリティは、この新領域で大いに活用可能であり、同時に気候変動対応やエネルギー転換への貢献も求められる高度なチャレンジでもあります。本分析で見たように、米国・欧州・中東それぞれで電力需給や規制の状況は異なるものの、GTCCを中心とした電源確保ニーズは確実に存在しています。丸紅は**「世界21か国・持分12GW」**の発電事業展開力marubeni-solar.comと、ガス火力新規開発を追求しつつ脱炭素技術を取り入れるという柔軟な戦略marubeni.disclosure.siteによって、この分野でも優位に立てるはずです。
経営層におかれては、本報告書で提示した戦略オプションを踏まえ、ぜひ次なる成長ドライバーとしてAIデータセンター電源供給事業にコミットしていただきたいと思います。AI時代の電力インフラを支えることは、単なる収益機会に留まらず、丸紅が社会課題の解決に寄与し企業価値を高める絶好の機会です。発電事業者としての誇りと革新者としての精神を持って、この新領域への挑戦を進めていくことを強く提言いたします。
参考資料(出典)
-
【6】丸紅ソーラー公式サイト「電力事業の実績とノウハウ」marubeni-solar.commarubeni-solar.com
-
【8】丸紅株式会社 TCFD情報開示「気候変動対策への貢献」marubeni.disclosure.sitemarubeni.disclosure.site
-
【10】S&P Global, Data center grid-power demand to rise 22% in 2025, nearly triple by 2030spglobal.comspglobal.com
-
【12】S&P Global, 同上spglobal.comspglobal.com
-
【14】Arthur Cox LLP, New connection policy for data centres in Irelandarthurcox.comarthurcox.com
-
【15】AFP (Tech Xplore), Ireland's data centers... drain the gridtechxplore.comtechxplore.com
-
【17】BCG, AI Data Centers: An Opportunity in the Middle Eastmedia-publications.bcg.commedia-publications.bcg.com
-
【20】Forbes (LinkedIn引用), Gas Turbines Power UAE Data Centers...linkedin.com
-
【29】丸紅ニュースリリース「オマーン・アミン太陽光IPP契約」marubeni.commarubeni.com
-
【27】丸紅ニュースリリース「サウジ・タナジブCogeneration契約」marubeni.commarubeni.com
-
【36】Cummins社 データセンターのサステナビリティ新トレンドcummins.com
-
【37】三菱重工 Spectra 寄稿「先進的ガスタービンでエナジートランジション」spectra.mhi.comspectra.mhi.com
-
【39】Global Energy Monitor, 米国AI需要とガス火力建設計画globalenergymonitor.orgglobalenergymonitor.org
-
【46】Microsoft 公式ブログ「世界最強のAIデータセンター内部」blogs.microsoft.comblogs.microsoft.com