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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

米/中東/韓/欧州のAIデータセンター建設ブームは「電力争奪戦」の様相

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以下のYouTube動画は先日見つけたIEA(国際エネルギー機関)が作成した、世界のAIデータセンターの電力需給状況をマクロ観点で見たレポートです。IEAは原油などの化石燃料の需給、再生可能エネルギーの需給、二酸化炭素動向、原子力動向など、エネルギーに関わる主要なテーマについて常時ウォッチ、報告を出しています。AIデータセンター向けの電力需要が世界的に見ても大きく膨れ上がっており、無視できない存在になってきたので、このトピックだけを括り出して動画を作成したのでしょう。なかなか刺激的な内容になっています。以下に要約を掲げます。

How much electricity will AI need? | IEA (2025/7/25)

要約:

AI革命の裏側にある「電力危機」とビジネスチャンスーIEA最新レポートの要点

生成AIの急速な普及に伴い、その計算処理を支えるデータセンターの電力消費量が世界的な課題となっています。IEA(国際エネルギー機関)の最新レポートによると、テクノロジーセクターとエネルギー産業はかつてないほど密接な関係になりつつあります。ビジネスパーソンが押さえておくべき主要なポイントは以下の通りです。

1. 投資と需要の爆発的な拡大

AIインフラへの投資熱は凄まじく、世界のデータセンターへの投資額は2022年からほぼ倍増し、2024年には5,000億ドル(約半兆ドル)に達しました(今泉注:他の出展も確かめてみると2024年におおむね5,000億ドル規模であることには間違いはない。
現状の規模: 大手テック企業が運営するハイパースケールデータセンター1棟だけで、約10万世帯分の電力を消費します
2030年の予測: データセンターによる電力消費は、現在の世界全体の消費量の1.5%から、2030年には約3%(年間約945テラワット時)へと倍増する見込みです
規模感の比較: この2030年の予測消費量は、現在の日本全体の年間電力消費量に匹敵する莫大な規模です
2. 米国・日本における驚くべき市場変化
データセンターの立地は世界中に点在していますが、現在は米国(45%)、中国(25%)、欧州(15%)が主要なマーケットです
米国の産業構造の変化: 米国では、データセンターが2030年までの電力需要増加分のほぼ半分を占めると予測されています。衝撃的なことに、2030年の米国経済においては、アルミニウム、鉄鋼、セメント、化学製品の全製造業を合わせた電力消費量よりも、データ処理のための電力消費の方が多くなる見通しです
日本市場への影響: 日本においても、今後の電力需要増加分の半分以上をデータセンターが占める可能性があります
3. インフラの「ボトルネック」リスク
ビジネスにおける最大のリスクは、電力網(グリッド)の逼迫です。
プロジェクト遅延のリスク: 多くの地域で電力網がすでに限界に近づいており、計画中のデータセンタープロジェクトの約20%が、電力供給の制約により遅延するリスクがあります(今泉注:そのため電力網を経由しない形、すなわち、発電所を併設する、あるいは発電所に隣接する立地などが一般化しつつある。発電燃料としては天然ガスが最も手っ取り早い。結果、設置しやすいガスタービン発電機が売れる。)
クラスター化の問題: 米国で開発中のデータセンターの50%は、すでにデータセンターが集中している地域に建設されており、局所的な電力網への負荷をさらに高めています
4. エネルギー源の今後
この巨大な需要を賄うために、以下のエネルギー源が鍵となります。
天然ガスと再生可能エネルギー: コスト効率と建設スピードの観点から、これらが主役となります

次世代技術への期待: テック業界主導で、小型モジュール炉(SMR)などの新しい原子力技術や地熱技術への投資が進むと予想されています

米/中東/韓/欧州のAIデータセンター建設ブームは「電力争奪戦」の様相

生成AIの普及により、世界中でAIデータセンターの建設が加速しています。
しかし最近、各国のプロジェクトを俯瞰して見えてきたのは、競争の本質が「AI半導体」から「電力」へと移行しているという現実です。

本稿では、世界で進むAIデータセンタープロジェクトを、電力という視点からスナップショット的に整理します。
技術の細部ではなく、「今、どこで、何が起きているのか」を把握することを目的としています。

そもそも何が変わったのか

「データセンター」から「AIファクトリー」へ

従来のデータセンターは、データを保存し、Webや業務システムを動かすための施設でした。
しかし生成AIの登場により、その役割は大きく変わっています。

現在のAIデータセンターは、

  • GPUを大量に並べ

  • 電力を消費し

  • 「知能(トークン)」を生産する

巨大な計算工場(AIファクトリー)になりました。(今泉注:NVIDIAが戦略的に規模の大きなAIデータセンターをフィジカルAIや産業デジタルツインなども動かす「AIファクトリー」と呼び始めている。)

その結果、1ラックあたり数kWだった電力密度は、100kW級へと跳ね上がり、
データセンター建設の成否は「電力が確保できるかどうか」で決まる時代に入っています。

【米国】AI先進国が最初に直面した「電力の壁」

米国はAI技術の中心地ですが、同時に電力制約に最初に直面した国でもあります。

バージニア州北部:世界最大の集積地

  • 世界最大のデータセンター集積地

  • 電力需要が年率20〜30%で増加

  • 新規データセンターが「送電網に接続できない」事態が発生

その結果、

  • オハイオ州、テキサス州などへの分散

  • 天然ガス火力の再評価

  • 原子力発電所の隣にAIデータセンターを建てる構想

といった、「電力ありき」の立地戦略が進んでいます

【中東】エネルギーを「計算力」に変える国々

中東諸国は、AIデータセンター時代において圧倒的に有利な立場にあります。

理由は明快です。

  • 産業用電力が世界最安水準

  • ガス・原子力・太陽光を組み合わせた安定供給

  • 国家資本(ソブリンウェルスファンド)による巨額投資

UAE・サウジアラビアの動き

  • OpenAI、Microsoft、NVIDIAが関与する巨大AI拠点構想

  • 数百MW〜数GW規模の電力を前提とした設計

  • 「石油 → 電力 → AI」という国家戦略

中東では、AIデータセンターそのものが国家インフラとして扱われています 。

【韓国】製造業とAIの「垂直統合モデル」

韓国の特徴は、AIデータセンターを製造業の延長線で捉えている点です。

  • NVIDIA(AI半導体)

  • Samsung/SK hynix(HBMメモリ)

  • 現代自動車(ロボット・自動車)

これらが一体となり、

  • AIを作る

  • AIを使って工場を動かす

  • そのための電力とデータセンターを自前で持つ

という垂直統合モデルを構築しています。

2025年に話題になったNVIDIA・Samsung・現代自トップ会談は、
この構造を象徴する出来事でした 。

関連投稿:韓国政府主導の、日本人が驚愕する規模のAIデータセンター/AIファクトリープロジェクトの内容を述べています。

驚愕すべき韓国の国家AIファクトリープロジェクト!NVIDIAフアンCEO、サムスン会長、現代自会長が韓国でフライドチキンとビールで合意したもの(2025/11/4)(改題しました)

【欧州】規制を逆手に取る「ソブリンAI」

欧州では事情が異なります。

  • GDPRなどの厳しい規制

  • 電力価格の高騰

  • 送電網の混雑

これを背景に、

  • 「自国の法律下でAIを使えるクラウド」

  • 「再エネ×寒冷地×高効率」

を組み合わせたソブリンAIデータセンターが増えています。

特徴的な動き

  • 北欧:水力発電+寒冷気候で冷却コスト削減

  • フランス:廃止された発電所跡地をAIデータセンターに転用

  • 英独:米国クラウドと距離を保つ"管理付きAI基盤"

欧州では、電力制約を前提にした現実的な最適化が進んでいます

世界を俯瞰して見える「3つの共通点」

各国の事例を並べると、共通点がはっきりします。

  1. AIのボトルネックは半導体ではなく電力

  2. 送電網はAIの成長スピードに追いつかない

  3. 発電・送電・データセンターが一体で設計され始めている

つまり、AIデータセンターは
「IT投資」ではなく
「エネルギー投資+産業インフラ投資」になっています。

日本のビジネスパーソンにとっての意味

この世界的な動きは、日本企業にとっても無関係ではありません。

  • 電力設備

  • 変圧器・遮断器

  • 冷却・空調

  • エネルギーマネジメント

といった分野は、まさに日本企業の得意領域です。

AIデータセンターは、
「21世紀の発電所」とも言える存在です。

AIを理解するとは、
アルゴリズムだけでなく、
電力とインフラの現実を理解することでもあります。

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