米/中東/韓/欧州のAIデータセンター建設ブームは「電力争奪戦」の様相
以下のYouTube動画は先日見つけたIEA(国際エネルギー機関)が作成した、世界のAIデータセンターの電力需給状況をマクロ観点で見たレポートです。IEAは原油などの化石燃料の需給、再生可能エネルギーの需給、二酸化炭素動向、原子力動向など、エネルギーに関わる主要なテーマについて常時ウォッチ、報告を出しています。AIデータセンター向けの電力需要が世界的に見ても大きく膨れ上がっており、無視できない存在になってきたので、このトピックだけを括り出して動画を作成したのでしょう。なかなか刺激的な内容になっています。以下に要約を掲げます。
How much electricity will AI need? | IEA (2025/7/25)
要約:
米/中東/韓/欧州のAIデータセンター建設ブームは「電力争奪戦」の様相
生成AIの普及により、世界中でAIデータセンターの建設が加速しています。
しかし最近、各国のプロジェクトを俯瞰して見えてきたのは、競争の本質が「AI半導体」から「電力」へと移行しているという現実です。
本稿では、世界で進むAIデータセンタープロジェクトを、電力という視点からスナップショット的に整理します。
技術の細部ではなく、「今、どこで、何が起きているのか」を把握することを目的としています。
そもそも何が変わったのか
「データセンター」から「AIファクトリー」へ
従来のデータセンターは、データを保存し、Webや業務システムを動かすための施設でした。
しかし生成AIの登場により、その役割は大きく変わっています。
現在のAIデータセンターは、
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GPUを大量に並べ
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電力を消費し
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「知能(トークン)」を生産する
巨大な計算工場(AIファクトリー)になりました。(今泉注:NVIDIAが戦略的に規模の大きなAIデータセンターをフィジカルAIや産業デジタルツインなども動かす「AIファクトリー」と呼び始めている。)
その結果、1ラックあたり数kWだった電力密度は、100kW級へと跳ね上がり、
データセンター建設の成否は「電力が確保できるかどうか」で決まる時代に入っています。
【米国】AI先進国が最初に直面した「電力の壁」
米国はAI技術の中心地ですが、同時に電力制約に最初に直面した国でもあります。
バージニア州北部:世界最大の集積地
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世界最大のデータセンター集積地
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電力需要が年率20〜30%で増加
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新規データセンターが「送電網に接続できない」事態が発生
その結果、
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オハイオ州、テキサス州などへの分散
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天然ガス火力の再評価
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原子力発電所の隣にAIデータセンターを建てる構想
といった、「電力ありき」の立地戦略が進んでいます
【中東】エネルギーを「計算力」に変える国々
中東諸国は、AIデータセンター時代において圧倒的に有利な立場にあります。
理由は明快です。
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産業用電力が世界最安水準
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ガス・原子力・太陽光を組み合わせた安定供給
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国家資本(ソブリンウェルスファンド)による巨額投資
UAE・サウジアラビアの動き
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OpenAI、Microsoft、NVIDIAが関与する巨大AI拠点構想
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数百MW〜数GW規模の電力を前提とした設計
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「石油 → 電力 → AI」という国家戦略
中東では、AIデータセンターそのものが国家インフラとして扱われています 。
【韓国】製造業とAIの「垂直統合モデル」
韓国の特徴は、AIデータセンターを製造業の延長線で捉えている点です。
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NVIDIA(AI半導体)
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Samsung/SK hynix(HBMメモリ)
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現代自動車(ロボット・自動車)
これらが一体となり、
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AIを作る
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AIを使って工場を動かす
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そのための電力とデータセンターを自前で持つ
という垂直統合モデルを構築しています。
2025年に話題になったNVIDIA・Samsung・現代自トップ会談は、
この構造を象徴する出来事でした 。
関連投稿:韓国政府主導の、日本人が驚愕する規模のAIデータセンター/AIファクトリープロジェクトの内容を述べています。
驚愕すべき韓国の国家AIファクトリープロジェクト!NVIDIAフアンCEO、サムスン会長、現代自会長が韓国でフライドチキンとビールで合意したもの(2025/11/4)(改題しました)
【欧州】規制を逆手に取る「ソブリンAI」
欧州では事情が異なります。
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GDPRなどの厳しい規制
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電力価格の高騰
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送電網の混雑
これを背景に、
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「自国の法律下でAIを使えるクラウド」
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「再エネ×寒冷地×高効率」
を組み合わせたソブリンAIデータセンターが増えています。
特徴的な動き
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北欧:水力発電+寒冷気候で冷却コスト削減
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フランス:廃止された発電所跡地をAIデータセンターに転用
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英独:米国クラウドと距離を保つ"管理付きAI基盤"
欧州では、電力制約を前提にした現実的な最適化が進んでいます
世界を俯瞰して見える「3つの共通点」
各国の事例を並べると、共通点がはっきりします。
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AIのボトルネックは半導体ではなく電力
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送電網はAIの成長スピードに追いつかない
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発電・送電・データセンターが一体で設計され始めている
つまり、AIデータセンターは
「IT投資」ではなく
「エネルギー投資+産業インフラ投資」になっています。
日本のビジネスパーソンにとっての意味
この世界的な動きは、日本企業にとっても無関係ではありません。
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電力設備
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変圧器・遮断器
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冷却・空調
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エネルギーマネジメント
といった分野は、まさに日本企業の得意領域です。
AIデータセンターは、
「21世紀の発電所」とも言える存在です。
AIを理解するとは、
アルゴリズムだけでなく、
電力とインフラの現実を理解することでもあります。