続報:インド・マハラシュトラ州電力公社の大型石炭発電2案件
■日本企業の応募は現実的に不可能
昨日お知らせした1,890MWのドパーヴェ石炭火力発電所、3,300MWのドンダイチャ石炭火力発電所の2案件は、インドに確認したところ、応募はやはりインド国内に登録してある社歴3年以上の法人に限られるということでした。応募者は単一の企業でなければならず、コンソーシアムでの応募は想定されていません。
そのほか、short-listに残るためには以下のような基準のいずれかを満たして評価ポイントを獲得しなければならなず、インドに支社がある日本企業であっても、高いポイントを獲得するのは無理なのではないかと思われます。というより、外国企業には門戸を開いていない仕立てですね。
○EOI提出企業がshort-listing企業として選定されるための条件(主なもの)
・500MW以上の沿岸部ないし内陸部の石炭発電IPP事業をゼロから立ち上げた経験がある。総出力が多くなるほど高評価ポイント。
・500MW以上の沿岸部ないし内陸部の石炭発電IPP事業の運営に携わった経験がある。同上。
・石炭を年間1,000万トン以上取り扱うことのできるドライバルク船が利用可能な港湾ないし桟橋をゼロから建設した経験がある。
・今回プロジェクトが想定されている用地において、環境行政等の認可が下りなかった場合に、代替の用地を提供することができる。(これが可能であればポイントがもらえる)
・海外に5億トン以上の埋蔵量を持つ燃料炭の権益を持っている。
実はドパーヴェ(Dhopave)石炭火力発電所案件については、インドの情報元から、かなりよい案件なので準備を進めてみませんかとのお声がけをいただいていたのですが、公開された情報を見ると上の通りですから、やや肩すかしをくらったかなというところです。こちらでも独自に周辺を調べていました。
昨日の投稿の末尾で「用地の手当が付いている」と書きましたが、EOIドキュメントを見ると(こちらのページで入手できます)、用地の手当から何からまだまだこれからなんですね。
■この案件から学べること
今回の2案件のEOIドキュメントをしっかり読み込むと、実に興味深いことがわかります。
ドパーヴェのEOIドキュメントに絞って見ていきましょう。
Dhopave Coastal Power LimitedというSPVがすでに設立されており、そこの株式保有比率が最終的にマハラシュトラ州電力公社(マハジェンコ)側が26%、落札企業が側が74%にならなければならない、という意味の記述が数カ所あります。
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Whereas, Mahagenco intends to retain equity share of 26% in the Special Purpose Vehicle (SPV) formed for this purpose viz. M/s. Dhopave Coastal Power Limited.
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In the said SPV, Mahagenco intends to introduce a Joint Venture Partner who shall be allowed to subscribe and hold equity upto 74% and Mahagenco retaining 26% equity.
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Bidders shortlisted through this EoI process are required to submit its bid to acquire equity and offer free equity to Mahagenco out of the 26% equity retained by it in the SPV, for implementation of Dhopave Coastal Thermal Power Project 3x660 MW.
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最後のパラグラフには、「マハジェンコがSPVに持っている26%から無料の株式を提供しなければならない」(offer free equity to Mahagenco out of the 26% equity retained by it in the SPV)という、一見わけのわからないことが書かれています。
これは末尾の注釈なども併せ読むと、落札した民間企業は、いったんSPVの株式の74%以上をマハジェンコから買い取り、総事業費の2〜3割の資本金を持つSPVに増資した上で、最終的にマハジェンコの持分が26%になるように何%分かをマハジェンコに無償譲渡するように、という意味でしょうね。まぁ政府系公社なんだからコンセッションフィー相当のものをエクイティでくれということでしょう。無償譲渡する株式が多いほど、入札者の獲得ポイントが高まる仕組みも同時並行で走っています。
■環境行政の許認可が下りなかった場合には代替用地を民間が手当
その他、衝撃的なのは、この案件は州政府系電力公社が長らく準備してきたにもかかわらず、環境系の中央官庁(Ministry of Environment and Forest)からの許認可が下りておらず、落札した民間企業側の責任において折衝をやらなければならないということです。インドの政治・行政環境の複雑さを思うなら、大変な道のりになりそうですね。
火力発電では欠かせない水(ボイラー用)の調達についても、細かな調査はこれから。燃料の調達先(炭田)はすでに手当が付いているものの、どのように採掘してどのように運んでくるかという調査もこれから。などなど、石炭発電案件としては成熟度がきわめて低いステージにあるということが、EOIドキュメントを読むとわかってきます。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、このドパーヴェ(Dhopave)石炭発電案件は2000年代前半に一度公開入札にかけられ、short-listing企業が決まり、落札企業が決まった後で、落札の権利をマハジェンコがキャンセルしたという経緯があります。案件準備はそれに先立つ数年前からやっていたでしょうから、過去10年以上はリードタイムのある案件です。その間、環境系の許認可も取得しておらず、水や燃料の調査も行っていないということなんですね。
さらに衝撃的なのは、後半にある次の但し書き。
If project implementation is delayed by more than 6 months, after issuance of LoA to the Successful Bidder due to delay or denial of environment clearance and/or CRZ clearance or due to any other reason, Successful Bidder shall be responsible to develop alternate coastal site, details of which shall be submitted in its bid proposal, on west coast of India for setting up of at least 1980 MW coal base power project with environment clearance obtained, required land in possession and long term tie-up for port facilities to handle at least 10 MTPA of coal.
環境行政系の許認可が下りないなどして、プロジェクトの進捗に6ヶ月以上の遅延が発生した時には、落札企業は自らの責任において、インド西岸に1,980MW以上の石炭火力発電所が建設できる代替の用地を用意し、環境行政系の許認可を得、年間1,000万トンの石炭取扱が可能な港湾設備の用意をすること、と書かれています。環境系中央官庁とマハラシュトラ州政府との「近さ」を考えれば、同州政府が交渉すればスムーズになるはずであるのに、交渉を民間にやらせて、もし許可が下りないなら代替の用地を用意せよという…そういう内容になっています。
とまぁインドの公共系のインフラ・発電案件には、日本人一般の理解を超えることが多々書かれてある可能性があるわけで、色んな案件書類を読み込んで勉強しておくことが必要です。
このドパーヴェ石炭発電案件に関連して、小規模な「案件研究会」のようなものを開催しようと考えています。
2000年代のドパーヴェ石炭発電がキャンセルになった経緯、応募した顔ぶれ(インド国内のIPP企業等)、マハジェンコの案件設計の発想法などなどを1時間程度、シェアさせていただきます。
日時と場所が決まりましたら、お知らせします。
インドは大きいです。あるリストには計画中の火力発電案件だけで200ぐらいリストアップされています。
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後記。
マハジェンコがここまで環境系中央官庁(Ministry of Environment and Forest)による許認可が「得られない可能性」にこだわるということは、MoEFとの対話がよほど難しいということを示唆していると思います。「インドの民間系火力発電案件におけるMoEF関連課題の乗り越え方」に関するレポートがあったら喜ばれるでしょうね。