インドネシア初のPPP案件(火力発電)をJパワー・伊藤忠コンソーシアムが落札
インドネシア初となるPPP案件の中央ジャワ石炭火力(総事業費32億ドル)をJパワー、伊藤忠、インドネシア石炭大手Adaroのコンソーシアムが落札しました。これは日本のインフラ輸出にとっても大きな意味のあるニュースです。
ロイター:Jパワーと伊藤忠の企業連合、インドネシアの火力発電所を落札
Reuters Africa: J-Power, Adaro, Itochu win $3.2 bln Indonesia power plant
■100件以上の発電所建設計画
インドネシアでは慢性的な電力不足が続いており、発電容量の拡大を急いでいます。現在インドネシアの電化率は70%弱に留まりますが、家電製品の普及などで年平均9.5%の需要増が見込まれます。2029年までに電化率を99%にする計画があり、そのためには発電容量をあと156GW(標準的な原子力で156基分)増やなければなりません。毎年7〜8GW分の発電所建設が必要です。
発電所の新設計画では、いわゆるEPC案件(政府ないし国営電力会社側の資金負担で行うもの)が33件、IPP案件(独立系電力事業として民間が行うもの)が71件、PPP案件(コンセッション型の官民連携)が5件予定されています。
PPPについては過去1〜2年のうちに急速に制度が整備されてきたもので、有料道路などの他分野を含めて、今回の中央ジャワ石炭火力がインドネシアにとって初めての案件となります。
中央ジャワの新発電所では1,000MWの発電容量を持つ超臨界圧ないし超々臨界圧の石炭火力が2基建設されます。計2,000MW、標準的な原子力で言うと2基分であり、石炭火力としてはかなり大規模なものです。コンセッション(営業権)は25年。総事業費32億ドル。PPPのスキームはBOOT(Build, Own, Operate, Transfer)。25年のコンセッション終了後は1万ドルでプラント施設が国営電力会社PLNに譲渡されます。
PPP案件として特徴的なのは、発注者が政府やエネルギー関連省ではなく、国営電力会社のPLNであるということです。
同社は国営電力会社として国内で発電所の建設、運営も行っていますが、それを補うものとして、外国企業を招くPPP案件の競争入札を行っている格好です。落札したコンソーシアムは発電した電力をPLNに売電します。いわゆる「サービス購入型」の案件です。
■落札までの経緯
案件の公開は2009年11月、事前資格審査が2010年3月に始まり、PLN側資料によると以下の6コンソーシアムが入札資格を得ました。
- 三菱商事
- China Yudean consortium (affiliate of the Huaneng Group)
- Consortium of GDF Suez & Jパワー
- Consortium of International Power & 三井物産
- 丸紅
- KEPCO
- 条件付資格付与: Guohua Electric Power Company (subsidiary of Shenhua)
「Consortium of GDF Suez & Jパワー」とあるのが今回落札したコンソーシアムですね。GDFスエズは途中で撤退したものと思われます。インフラ案件では落札決定までの長い期間中に、コンソーシアムメンバーが入れ替わるケースがまれに見られます。このうち最終入札まで残ったのが以下の4コンソーシアム
- China Yudean consortium
- Jパワー、伊藤忠、Adaro
- 丸紅
- Guohua Electric Power Company
落札の理由は、いくつかの報道によると、Jパワー・伊藤忠のコンソーシアムが提出した技術提案書のみが技術評価基準をクリア、かつ、提示した売電価格ももっとも安かったとのことです。
売電価格が安いことの背景には、計画に組み込まれている超臨界圧石炭焚きボイラーおよび蒸気タービンが、発電効率がよく、長期で稼働させた場合に財務上のメリットが出る製品だという特徴があるのではないでしょうか。燃料を焚いて発電するプラントでは製品の優劣が提示価格に反映されます。
なお、事前資格審査や提案書審査がどのような基準で行われるのかということについては、以下の投稿をご覧ください。
インフラPPPプロジェクト公開入札における「事前資格審査」(Prequalification)の審査基準
インフラPPPプロジェクト公開入札におけるプロポーザルの審査基準
■インドネシア政府が作った保証の枠組み
インドネシアでは外国企業がPPP案件の競争入札に参加するインセンティブを高めるために、保証の枠組みを作っています。
今回の案件では、PLNが発注者となり、Jパワー・伊藤忠コンソーシアムが資金調達を行って発電所を作り、PLNに売電を行います。受注側としては、PLNが期間終了まで必ず、取り決めた条件に基づいて電力を買い取ってくれることが必要です。すなわち、PLNの長期にわたる代金支払能力がカギになります。
この部分において、インドネシア政府が最近作ったPPP支援機関であるIndonesia Infrastrcture Guarantee Fund(IIGF)が保証を加えます。(以下の図で"Contracting Agency"とあるのが発注者、本案件では国営電力会社のPLN。"Investor"が受注者。)
PLNの支払をIIGFが保証することにより、本案件の大きな初期投資の資金を融資する銀行団にとっては、リスクが緩和された案件ということで、貸出審査がスムーズになる上、貸出利率も低くなる可能性があります。
その他、インドネシア政府側から受注した民間企業に対する「この案件はGuaranteeされている」という趣旨のレターを発行する枠組みも制度化されました。この種のレターが政府筋からオフィシャルに発行されるということは、新興国の案件では非常に大きな意味を持ちます。
インドネシア政府では今回の競争入札が成功したことで、ますますインフラPPPを加速させていくものと思われます。日本企業にとっても参画の機会が増えるでしょう。