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なぜNaaSは次世代インフラの主導権を握るのか?

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調査会社Mordor Intelligence社は2026年1月19日、「Network As A Service(NaaS)市場の規模とシェア分析」に関する最新レポートを発表しました。同レポートによると、NaaS市場は2026年の399億ドルから2031年には1071億ドルへと急拡大し、年平均成長率(CAGR)は21.81%に達すると予測されています。

Network As A Service Market Size & Share Analysis - Growth Trends and Forecast (2026 - 2031)

企業インフラがクラウド中心へと移行する中、固定的なネットワーク設備は俊敏なビジネス展開の足枷となっており、見直しが急務な状況です。さらに、リース会計基準の改定に端を発する資産のオフバランス化への圧力や、サイバー脅威に対するゼロトラストセキュリティの要請が、ネットワークのサービス化を後押ししています。

今回は、インフラの利用モデル移行、APIを通じたエコシステムの再構築やデータ主権がもたらす市場の摩擦、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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財務圧力が促すインフラの利用モデル移行

NaaS市場拡大の背景には、技術的な利便性だけでなく、企業の財務戦略に根ざした構造的な動機が存在しています。改定された国際財務報告基準(IFRS 16)や米国会計基準(ASC 842)の適用に伴い、所有するハードウェアは減価償却を伴う使用権資産として貸借対照表に計上されることになりました。その結果、多額の初期投資を伴う固定的なネットワーク設備の保有は、資本効率の観点から敬遠される傾向にあります。

企業は資本的支出(CapEx)を圧縮し、需要に応じて増減可能な営業費用(OpEx)としてのサブスクリプションモデルへ移行することを求めています。この動きは、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の最適化を図る投資ファンドのポートフォリオ企業などで顕著に表れており、業績変動に合わせてネットワーク容量を調整できるNaaSの利点と合致しています。ゼロベース予算の導入が進む企業環境において、利用実績に基づく従量課金型のネットワーク調達は、財務部門の厳しい審査を通過するための合理的な選択肢といえます。

クラウドファーストとセキュリティの融合

ハイブリッドクラウド環境の普及に伴い、アプリケーションの稼働場所は企業のデータセンターからメガクラウド事業者の基盤へと移譲されています。このようなアーキテクチャの移行は、従来のMPLS(マルチプロトコルラベルスイッチング)回線による静的なネットワーク接続を非効率なものにしました。

クラウドへの直接接続を最適化するため、SD-WAN(ソフトウェア定義型広域網)とSASE(セキュアアクセスサービスエッジ)の統合が急速に進んでいます。企業は本社を経由する非効率なトラフィック処理を廃止し、クラウドゲートウェイでの直接的なトラフィック検査を実装しています。

これにより、広域網の帯域幅コストを大幅に削減しつつ、リモート環境で働く従業員のアプリケーション応答速度を向上させることが可能となります。通信事業者やインテグレーターは、ゼロトラストセキュリティとアプリケーションに最適化されたルーティングを単一の月額サービスとして提供することで、多様な業界に向けた付加価値の創出を図っています。

ネットワークのAPI化と通信事業者の戦略

NaaS市場の進化において、ネットワークインフラのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)化は新たな競争軸を形成しています。GSMAの「CAMARA」プロジェクトをはじめとするオープンAPIの取り組みは、ネットワーク機能の制御をソフトウェア開発のパイプラインに直接組み込むことを可能にします。

開発チームは、インフラストラクチャ・アズ・コード(IaC)の手法を用いて、アプリケーションのデプロイと同時に必要な帯域幅やセキュリティポリシーを自動的に割り当てることができます。この変化は、通信事業者にとって従来の土管(ダンプパイプ)のような存在からの脱却を意味しています。

5Gのネットワークスライシングや低遅延ルーティングといった高度な通信機能をAPI経由で開発者に提供することで、物理的な回線接続の枠を超えた新しい収益源の開拓が期待されます。テクノロジーの重心が物理レイヤーからソフトウェアレイヤーへと移行する中、APIエコシステムを掌握するプラットフォーマーが次世代インフラの主導権を握ると想定されます。

AI主導の運用保守とLANインフラの再定義

運用保守の現場では、AI(人工知能)を活用したネットワーク保証(アシュアランス)が不可欠な基盤となりつつあります。膨大なテレメトリデータをリアルタイムで解析するAIOpsプラットフォームは、障害の予兆を検知し、ユーザーに影響が及ぶ前に通信経路を自動的に切り替える能力を備えています。

ベンダー各社は、機械学習による平均修復時間(MTTR)の大幅な短縮を背景に、最高水準の可用性をサービスレベル契約(SLA)として保証しています。こうした高度な運用体制は、遠隔医療や産業用IoTなど、微小な通信遅延が重大なインシデントに直結する分野において重要となります。

また、企業の拠点内ネットワーク(LAN)においても、電力消費の大きいWi-Fi 7アクセスポイントの導入が進む中、スイッチや無線機器を包括的に提供するLAN-as-a-Serviceの需要が拡大しています。大学や医療機関など、大規模な設備投資が困難な組織にとって、最新の無線環境を運用保守付きの月額費用で調達できるモデルは合理的な解決策となります。

データ主権とコンプライアンスの壁

技術的な利便性が高まる反面、NaaSのグローバル展開には各国の法規制に基づく高い障壁が存在します。欧州のGDPR(一般データ保護規則)をはじめ、各国のデータ保護法制は、自国内でのデータ処理と保存を義務付けるローカライゼーションを求めています。

このデータ主権の要請に応えるため、サービス提供者は地域ごとに独立したコントロールプレーン(制御基盤)を構築する必要に迫られています。分散型のインフラ構築は規模の経済を相殺し、拠点あたりの運用コストを押し上げる要因となります。

さらに、金融機関などには厳格なレジリエンス(回復力)テストが義務付けられており、複数地域にまたがるインフラの統合管理は困難な状況です。一元的なクラウド管理というNaaS本来の価値提案は、各国の規制という現実と摩擦を起こしており、企業はグローバルな統一ポリシーとローカルな法令遵守のバランスを取る高度なガバナンス設計が必要となります。

ベンダーロックインのリスクと市場の限界条件

NaaS導入における最大の懸念材料として、特定ベンダーの技術体系への過度な依存、いわゆるロックインのリスクが挙げられます。主要なネットワークベンダーは、設定メタデータや運用管理ツールを独自のフォーマットで提供しており、他社システムへの移行には多大な工数とコストを伴います。

オープン標準化の取り組みは一部で進んでいるものの、市場全体を牽引するほどの普及には至っていません。企業は、自動化スクリプトやAPI連携が特定のプラットフォームに縛られることを警戒し、複数のベンダーを組み合わせるマルチベンダー戦略や、段階的な導入といった防衛策を採用しています。

このような企業の慎重な姿勢は、市場の爆発的な全面移行を抑制する制約条件となっています。大規模な買収を通じて製品ポートフォリオを拡充する大手ベンダーと、アジリティを武器にするクラウドネイティブな新興企業との間で競争が激化する中、利用企業にはプラットフォームの透過性とデータの可搬性を維持するための戦略的な調達手腕が求められています。

今後の展望

NaaS市場は、固定資産の保有からサービス利用への移行という不可逆的なトレンドに乗り、今後も力強い成長を続けると考えられます。技術的には、エッジコンピューティングとAIの融合により、ネットワークはデータを運ぶだけのインフラにとどまらず、データが発生する場所で高度な処理を行う自律分散型のシステムへと進化するでしょう。

ビジネスや政策の側面から見ると、企業は単一のプロバイダーへの依存を避け、複数のサービスを抽象化して管理するマルチクラウド型のネットワーク運用体制を構築することが重要となります。

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