米国AIデータセンター業界で常識になりつつある「Power-First」戦略をビジネスパーソン向けに解説
米国のAIデータセンターの電力供給・発電周りで、"Power-First"というキーワードが聞かれるようになりました。めぼしい記事をざっと拾ってみても、Financial Timesなどの以下があります。
Financial Times: The power crunch threatening America's AI ambitions(2025/12/8)
Datacenter Knowledge: From MW to GW: How AI Is Forcing a Complete Rethink of Data Center Power(2025/11/17)
PV Case: The "power-first" era: a new playbook for data center projects
Power Magazine: Why Data Center Developers Should Think 'Power First'(2024/10/30)
従来であればNVIDIAの最新AI半導体Blackwellをどれだけ数を集めるかが勝負でした。しかしAIデータセンターが米国だけでなく、日本でも、またその他の国でも多数建設されるようになると、今度は電力が制約条件になります。まず、電力を押さえてからでないと、AIデータセンター建設を論じられない状況になりつつあります。
生成AI競争の勝者は「GPU」ではなく「電力」で決まる?ーー『Power First』戦略とは何か
ここ数年、AIビジネスの最前線では「いかにNVIDIAのGPUを確保するか」が最大の関心事でした。しかし今、シリコンバレーを中心としたトッププレイヤーたちの常識は、全く別のフェーズへと激変しています。
これからのAI競争の勝敗を決めるのは、チップの数ではなく、「電力(Power)」の確保です。
今回は、最新のリサーチで明らかになった巨大プロジェクトの裏側から、AIインフラの新しい常識「Power First(電力第一)」戦略について解説します。
GPUがあっても、動かす電気がない
生成AIモデルは巨大化の一途をたどっています。次世代のAIを学習・稼働させるには、これまでとは桁違いの電力が必要です。既存の送電網に空きが出るのを待っていては、数年待ちということも珍しくありません。
そこで生まれたのが、「データセンターの場所に合わせて電気を引く」のではなく、「電力が確保できる場所に、発電所込みでデータセンターを作る」という逆転の発想、すなわち『Power First』戦略です。
国家予算レベルのプロジェクト「Stargate」の衝撃
この戦略を象徴するのが、現在進行中の巨大プロジェクト「Stargate(スターゲート)」です。
これはOpenAIやMicrosoftに加え、孫正義氏率いるSoftBankグループ、Oracle、そして投資会社のMGXなどが参画する共同事業体による構想です。最新の情報では、その総投資額は最大5,000億ドル(約75兆円)、目指す電力規模は「10GW(ギガワット)」に達するとされています。
10GWという数字は、標準的な原子力発電所およそ10基分に相当します。一企業のデータセンター群のために、原発10基分の電力を新たに用意するーー。これが、世界のトップが描いている「AIインフラ」のリアルな規模感です。
ここでは、SoftBankが金融とエネルギーの専門知識を提供し、Oracleが実働部隊として建設を指揮するなど、各社が役割分担をして「国家インフラ級」の構築を急いでいます。
待てないなら自分で作る。「ガス・トゥ・ニュークリア」という荒技
「Power First」戦略の凄みは、そのスピード感と手段を選ばない実行力にあります。
米国のCrusoe Energy(クルーソー・エナジー)という企業の事例が非常に象徴的です。彼らはテキサス州で1.5GW級のAIデータセンターキャンパスを計画していますが、送電網の増強を待つことはしません。
彼らが採用したのは「Gas to Nuclear(ガスから原子力へ)」という戦略です。
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まずはガスで動かす: すぐに利用可能な天然ガス発電所を自前で用意し、2028年にはデータセンターを稼働させる。
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将来は原子力へ: 並行してSMR(小型モジュール炉)などの次世代原子力の開発を進め、2031年までにクリーンな原子力エネルギーへ切り替える。
「電気が来るのを待つ」のではなく、「とりあえずガス発電所を作って動かし、後で原子力に変える」。このなりふり構わぬスピード感こそが、AI覇権争いの現実なのです。
AIビジネスは「ソフトウエア」から「重厚長大」へ
これまでAIビジネスといえば、スマートなオフィスでコードを書く「ソフトウエア産業」のイメージでした。しかし、「Power First」の時代において、AIは発電所建設や巨大な送電網整備を伴う「重厚長大産業」へと進化しています。
AmazonやGoogle、Microsoftといった巨大テック企業(ハイパースケーラー)たちが、こぞって電力会社や原子力スタートアップと手を組む理由はここにあります。
日本のビジネスパーソンも、「AIの話」を「ITの話」として狭く捉えず、エネルギーや建設インフラを巻き込んだ巨大な産業変革として捉え直す必要があります。この桁違いのスケール感の中で、日本企業がどこに勝機を見出すか。それが今、問われています。
【補足資料】巨大AIインフラ「Stargate」関連相関図
OpenAIとMicrosoftの提携から始まったこの構想は、現在では複数の巨大企業が参画する共同事業体(Joint Venture)の様相を呈しています。各社の主な役割は以下の通りです。
1. プロジェクトの核(発注・利用)
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OpenAI
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役割: AIモデル開発、エンドユーザー
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狙い: 次世代AGI(汎用人工知能)開発のための、圧倒的な計算リソースの確保。
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Microsoft
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役割: クラウド基盤(Azure)提供、主要パートナー
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狙い: OpenAIへの独占的なインフラ提供と、自社AIサービスの強化。
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2. 金融・投資(資金供給)
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SoftBank Group(孫正義氏)
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役割: 財務支援、エネルギー戦略アドバイザー
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動き: 巨額の資金調達を担うほか、アーム(Arm)の省電力チップ技術や、再エネ・発電インフラへの投資経験を活かした「エネルギー専門知識」を提供しているとされる。
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MGX(アラブ首長国連邦の投資会社)
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役割: 資金供給(オイルマネー)
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背景: AIインフラに特化した投資会社。G42(UAEのAI企業)やMubadala(政府系ファンド)がバックにおり、潤沢な資金力を提供。
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3. 建設・インフラ実務(実行部隊)
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Oracle
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役割: データセンター建設・運営、クラウドインフラ補助
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動き: 米国(テキサス州アビリーンなど)での大規模データセンター建設を主導。Microsoftと提携し、Azure上でのOracle Database利用などを通じてインフラの一部を担う。物理的な建設スピードに定評がある。
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4. 電力・エネルギー(血液の供給)
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Helion Energy(核融合スタートアップ)など
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役割: 将来的な電力供給
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関係: OpenAIのサム・アルトマンCEOが個人的に投資しており、Microsoftも電力購入契約(PPA)を締結。Stargateの「夢の電源」候補の一つ。
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Constellation Energy(米原子力大手)など
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役割: 現実的なベースロード電源(原子力)の供給
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関係: Microsoftはスリーマイル島原発の再稼働による電力独占購入契約を結ぶなど、既存原発との連携を強化中。
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(今泉注:ここにAIデータセンターに再生可能エネルギーによる電力供給を行う新しいタイプのプレイヤー、Crusoeが加わります。同社ウェブサイトはこちら。Softbank/OpenAI/OracleのStargateに<何社かのうちの1社として>Crusoeが電力供給を行うことを指摘した弊投稿がこちら。)
【構造のまとめ】
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頭脳(AI): OpenAI
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基盤(Cloud): Microsoft
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財布(Finance): SoftBank, MGX, Microsoft
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建設(Build): Oracle
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燃料(Power): 原子力産業、核融合ベンチャー
このように、Stargateは単なる「Microsoftのデータセンター」ではなく、得意分野を持つ巨人が集結した「AIインフラ連合軍」として動いています。