ロボティクスの開発とAIの開発が高速でシンクロしているシリコンバレーの1週間をFigure社CEOブレット・アドコックがXでまとめてくれている
本ブログをお読みの方で、ふだんからX (Twitter)で米国の最新情報を入手している方は、あまりいらっしゃらないと思います。
世界最大のヒト型ロボット/ヒューマノイドの会社になろうとしているFigure社のCEO Brett Adcockが数時間前に非常に興味深い投稿をしていました。彼がCEOとして常時ウォッチしているロボティクス業界動向及びAI業界動向で非常に重要な出来事が過去1週間に起こったというので、1つひとつを1投稿にまとめ、それをスレッド化して(X投稿が連なる形)流していたのです。日経新聞で例えれば「今週1週間の重要ニュース10本のまとめ」という感じです。
米国でロボティクス業界にいれば、Brett Adcockの発言はある意味、最も先読み力のある経営者の発言として重視されます(例、彼が言及したスタートアップは成長性がある企業としてVCからも注目される、等)。
翻訳すれば、
今週のAI・ロボティクス領域はゲームチェンジ級のアップデートが続出。
xAI、Perplexity、Hugging Face、Figure、OpenAI、Microsoft、Google、Daxo Robotics、UC Berkeleyまで網羅してまとめた。
このスレで全体像を掴んで、次の一手を考えよう。
となります。
Brett Adcockによれば今週はAI分野とロボティクス分野において「ゲームチェンジ級」の出来事が連続して起こったとのこと。そのシリコンバレーのリアルタイム感を感じていただくために、これに続くスレッドを翻訳してみましょう。
Brett Adcockがまとめた「今週のAI & ロボティクスの重要ニュース16本」
✔︎ xAI
Grok 4と、そのマルチエージェント版「Grok 4 Heavy」をリリース。
AIME 2025、Humanity's Last Exam、Arc-AgiといったベンチマークでSOTA(最先端)性能を発揮し、Gemini 2.5 ProやOpenAIのo3を上回る結果を達成。
API経由でも利用可能で、256kトークンのコンテキストウィンドウをサポート。
✔︎ Perplexity
「Comet」を発表。
エージェント機能を搭載したAIファーストのブラウザで、同社の回答エンジンと常時オンのアシスタントを組み込み。
タブ内で質問対応、メール管理などのタスクも手伝ってくれる。
月額$200のプランで利用可能。
✔︎ Hugging Face (ロボティクス関連、動画あり)
「Reachy Mini」の予約を開始。
表情豊かなオープンソースの卓上ロボットで、価格は$299から。
人間とのインタラクション、クリエイティブコーディング、AI実験向けに設計されており、Pythonでフルにプログラム可能。
✔︎ Figure(自社アップデート)(ロボティクス関連、Figure社告知)
7〜9月でヒューマノイドの製造台数を約3倍に拡大予定。
製造、サプライチェーン、フリート運用を支える293名のチーム体制で、10万体規模の汎用ロボットを見据えたラインオブサイトを確保しています。
素晴らしいディスカッションをLoganとできました。
✔︎ OpenAI
Jony Iveのio Products, Inc.の買収を正式に完了。
IveとLoveFromのデザインチームは、今後OpenAIのデザインとクリエイティブディレクションを指揮しつつ、独立性も維持する形。
✔︎ Microsoft Research
BioEmu 1.1をオープンソース化。
タンパク質が実験や細胞内でとる構造の集合状態を予測し、動きや機能を高精度で再現するAIツール。
✔︎ Google
今週複数のアップデートを発表:
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Watch OS 4+でGeminiを提供開始
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Androidの「Circle to Search」にAIモード追加
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Veo 3がオーディオ付きのファーストフレーム画像→動画生成をサポート
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MedGemma 27B マルチモーダルモデル、MedSigLIPなど医療AIモデルをリリース
✔︎ Daxo Robotics (ロボティクス関連、動画あり)
「Muscle v0」を発表。
無限自由度を持つソフトロボットハンドで、人間の筋肉制御の基本原理(コンプライアンス、冗長性、固有感覚)を再現。
✔︎ UC Berkeley (ロボティクス関連、動画あり)
「ViTacFormer」を紹介。
高解像度の視覚データと触覚データをクロスアテンションで融合する、ロボット操作向けの統合パイプライン。
多指ハンドによる精密で長期的なタスクを可能に。
✔︎ Moonvalley
「Marey」というAI動画モデルをリリース。
ライセンス取得済みの映像で学習し、著作権問題を回避。
監督がカメラワーク、キャラクター、背景、ライティングを制御可能で、VFXワークフローに統合。
月額$14.99から。
✔︎ Mistral
新モデル「Devstral Small」と「Medium 2507」をリリース。
エージェントタスクやソフトウェアエンジニアリング向け性能を向上させ、コスト効率も重視。
API経由で利用可能で、SmallモデルはHugging Faceでも提供。
✔︎ Proactor
v1をリリース。
コンテキスト認識・メモリ強化型の「自律的AIチームメイト」で、プロンプト不要で自ら認識・思考・行動し、ユーザーの作業に適切な情報やガイダンスを提供。
✔︎ 中国・MagicLab (ロボティクス関連、動画あり)
「MagicBot Z1」を発表。
身長約140cm、11自由度の「MagicHand S01」、360度認識、約2時間稼働。
起伏のある地形でも歩行・走行し、転倒から素早く復帰可能。
✔︎ 中国スタートアップ・Robot Era (ロボティクス関連、動画あり)
シリーズAで約7,000万ドルを調達。
既に200台以上の主力製品を出荷済みで、STAR1ヒューマノイドやXHAND1ロボットハンドを展開中。
今回の資金で研究開発と量産を加速。
✔︎ Weave Robotics (ロボティクス関連、動画あり)
ステルス状態を脱し「Issac」を発表。
家庭向けの車輪型ヒューマノイドで、音声、アプリ、テキストで操作可能。
片付け、整理、給餌、水やり、写真撮影まで多彩な家事を自律でこなす。
✔︎ Figure(採用情報) (ロボティクス関連、Figure社告知)
新しい製造部門「BotQ」で採用中:
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倉庫リード
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ソフトウェアテストエンジニア
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エンドオブラインリード
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設備エンジニア
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テクニシャン
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製造エンジニア
応募はこちら: figure.ai/careers
今週のAIとロボティクスのまとめは以上です。
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非常にクレバーな広告費節約&自社PR拡散戦略
この一連のニュースまとめでBrett Adcockが何をやっているかと言うと、
◉ AIとロボティクスの最大手や最有力スタートアップのニュースに混ぜて、ちゃっかりと自社のニュースを流し、人材採用の告知も行っている。これはPR戦術として極めて有効。しかも「人に役立つと思ったらぜひシェアしてくれたまえ」と拡散を奨励。結果として数十万インプレッションを獲得している。(これをX広告でやろうと思ったら対象を絞り込んだ場合、2,000ドル〜4,000ドルの費用になるそうです。これを節約している訳です。)
◉ 自分がいるシリコンバレーのロボティクス状況は、世界中の注目を集めているAI開発最前線とシンクロしていることを、啓蒙的に告げている。事実彼は、"Digital AI"という用語と"Physical AI"という用語を並列させて、前者と後者がリンクしていることを理解させている。(生成AIとフィジカルAIは同期しているよ、と教えている。フィジカルAI = AI搭載のロボティクス)
非常にクレバーなやり方だと言うことができます。イーロン・マスクのTesla社Optimusを追い越して、また中国のUnitreeやHBTECHを軽く凌駕して、世界最大のヒト型ロボット/ヒューマノイド会社になろうとしているCEOだけあります。
彼がYouTube動画化されるシンポジウムやインタビューによく応じているのも、簡単に言えば、VCの目に止まって資金集めがしやすくなるためです。シリコンバレーだけでなくサウジアラビアや欧州のファンドにもFigure社の存在をアピールするためです。
ちなみに小職が先週告知した「シリコンバレー最先端ヒューマノイド視察ツアー」(10月27日東京出発、11月2日東京帰着)では、このFigure社も視察予定です。
また、上の投稿で取り上げられているUC Berkeley (UC Berkeley Hybrid Robotics Lab)も視察予定です。
Brett Adcockも中国の先端的ヒューマノイドを注視している
また、米国シリコンバレーでヒューマノイド開発(商用販売も間近いようです)をする彼の視野には、競合である中国の先端的なヒューマノイド企業の動向もしっかりと入っていることがわかります。やはり日進月歩で新型が続々と登場する中国の動向は、ヒューマノイドの世界全体状況を把握するために不可欠なのでしょう。本ブログでも中国の動向を再び報じなければいけないと思いました。
(ヒューマノイドはいわゆるデュアルユース技術=軍民両用技術であるため、潜在的な敵国との交流は経産省により規制されている。弊ブログ 日本の大学/研究機関が中国企業と連携してロボット開発を行う際に「安全保障貿易管理」面の配慮が求められる をご覧下さい。このことがあるため、弊ブログではこのことを知って以来、中国ロボティクスの状況を報じることは控えていました)
中国のMagicLabが発表した新型ヒューマノイド「MagicBot Z1」について、彼が書いている内容を端折らないで訳します。
中国のMagicLabが身長4フィート7インチ(約140cm)のヒューマノイド「MagicBot Z1」を発表。
11自由度の「MagicHand S01」、360度の認識機能、約2時間の稼働時間を備え、さまざまな地形に適応しながら歩行・走行が可能で、転倒からの素早い復帰も実現している。
日本のロボティクス関係者の方々には、ぜひとも添付されている動画を見ていただきたいです。
明らかに軍用を想定している敏捷性、バランス性、攻撃性(最後の方のキック)です。中国のヒューマノイドを紹介する動画では、格闘技をやったりサッカーをやったり、蹴られてもバランスを保つなど、アクロバティックな身体性能を強調するものが多く、これは、NVIDIAの最先端のエッジコンピュータが禁輸により搭載できないので、またNVIDIAの最先端AI半導体による高度なトレーニング/シミュレーションができないので「脳」が弱く、必然的に、(資金を集めるために)アクロバティックなデモンストレーションが好まれるためだと考えてきました。
中国政府は先端的なヒューマノイド開発に多額の出資もしていますし、ロボットの"智能化"の産業育成政策を過去数年続けてきています。この中には、容易に推測されることですが、ヒューマノイドの軍事利用も目標として入っていることが確実です。死傷することのない軍隊が想定されています。
Brett Adcockが「MagicBot Z1」を紹介した意図には、「中国の軍事利用を想定したヒューマノイド開発はここまで来ている」と注目させる意味もあったでしょう。
YouTubeにも動画が上がっていたので(公開から1週間しか経っていません)以下で共有します。英語の説明をよく見て下さい。明らかに軍用を意図しています。中のソフトウェアは書き換えが可能だそうです。
家庭用途の洗練されたWeave Robotics社「Isaac」にも要注目
Brett Adcockが紹介していた新手のヒューマノイド企業Weave Roboticsによる「Isaac」も要注目です。動画を見ると、なかなか洗練されたデザインであり、人間とのコミュニケーションも非常に"知的で洗練されている感じ"がします。アイザックという名称ですから、それなりに脳の訓練は受けているものと思われます。
今年の秋に最初の30体が顧客の元に届けられると告知しています。限定的な最初期ユーザーに配って、家庭内の実証実験を行うのでしょう。まだスタートアップですので、日本からの出資などの可能性もかなりあると思われます。本社がサンフランシスコですので、10月27日出発のヒューマノイド視察ツアーの訪問先に含めたいところです。
このように、ニョキニョキと新型ヒューマノイドが市場に現れる背景には、NVIDIAのロボット開発用技術スタック活用による、高速な開発とトライ&エラー(デジタルツイン仮想空間にて行われる)があることは、容易に推察できます。
別な言い方をすれば、NVIDIAの技術スタックがなければ、こんなに早くAI搭載ロボットが開発できる...ということはないでしょう。NVIDIAのロボット開発技術スタックの百貨店的な総覧記事はこちら→ NVIDIAがGTC2025でお披露目した茶目っ気のあるAI搭載ロボット「Blue」の技術詳細とフィジカルAI
【告知】2025年10月27日東京出発・11月2日東京帰着。製造業経営層、ロボティクス新規事業責任者、VC投資担当者向け
「シリコンバレー ヒューマノイド視察ツアー」!詳細はこちら
日本最大手旅行会社JTBの協力で、製造業経営層・新規事業責任者、VC投資担当者向けにシリコンバレー集中型・最短動線設計のヒューマノイド(ヒト型ロボット)視察ツアーを実施します。
✔︎ 出発日:2025年10月27日(月)確定(羽田/成田発・帰着)。東京帰着は11月2日。
✔︎ 最小催行人数:10名(最大20名、20名になり次第締め切ります)
✔︎ 申込開始:8月上旬予定/締切:9月下旬予定
✔︎ 申込:JTB専用申し込みページからのみ
✔︎ 旅行代金:120万〜130万円(燃油サーチャージ・空港使用料別)
※円安・米国物価高騰を反映した価格設定です。
【ツアーの見どころと訪問予定先(予定・代替の可能性あり)】
- NVIDIA本社(Santa Clara)
- 世界最大時価総額企業が展開する「Newton」など物理AIスタックを学ぶ。製造業DXの核を現場で体感。
- Figure AI(Sunnyvale)
- 「ヒューマノイドのTesla」を目指す次世代ロボット量産企業。設計思想と量産戦略を直撃取材。
- Toyota Research Institute(Los Altos)
- トヨタ系研究機関で、人間理解に基づくLarge Behavior Models開発を学ぶ。
- 1X Technologies(Palo Alto)
- 「人に優しいヒューマノイド」を理念に、AI・人間工学設計を深堀り。
- Boston Dynamics(Mountain View支社)
- Atlas/Spotなど世界最先端のダイナミクス制御と商業化戦略を視察。
- UC Berkeley Hybrid Robotics Lab
- 学術的アプローチでのヒューマノイド動作学習、Sim2Real研究を体験。
【視察監修・同行】
早稲田大学 尾形哲也教授
深層学習、生成AI、神経回路モデルとロボットシステムを用いた認知ロボティクス研究の第一人者。
【視察企画・後方支援】
株式会社インフラコモンズ 今泉大輔(本ブログの運営者/投稿者です)
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