NVIDIA CEOジェンセン・フアンの"7500兆円規模"「フィジカルAI市場」が日本の製造業に与えるインパクト
日本ではほとんど報道されていないですが、今年の3月にカリフォルニア州サンノゼで開催されたNVIDIAの年次開発者会議GTC 2025で同社CEOのジェンセン・フアン氏が言及した『50兆ドル市場』、日本円で約7500兆円という途方もない規模の市場。これが持つインパクトはめちゃめちゃ大きい訳です。しかもそれが広がっている領域は日本が最大の強みとしてきた自動車産業などが存する製造業です。
フィジカルAI市場に関する調査報告書
これについて先頃、調査報告書を作成してnoteで公開しました。今までで一番多くの方々に読まれています。
NVIDIA CEOジェンセン・フアンの50兆ドル規模「フィジカルAI市場」が製造業に与えるインパクト【サンプル調査報告書】
目次
1. 「フィジカルAI」という50兆ドル市場の衝撃
2. GTC 2025現地レポート:ヒューマノイドと"小さな相棒"Blueが舞うステージ
3. Foxconnの仮想工場:デジタルツインが生む"30%省エネ"の衝撃
4. BMWの完全バーチャル工場:2年先行するものづくり革命
5. トヨタのロボット鍛造ライン:シミュレーションで安全と効率を両立
6. NVIDIAのAIファクトリーBlueprint:データセンターと物流を変える設計図
7. 日本製造業への示唆:「ものづくり」の伝統を新たな成長領域へ
いくつかハイライトを引用します。
まずはイントロダクション部分。
2025年3月、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏は年次イベント「GTC 2025」の基調講演で、産業向けAIとロボット分野、いわゆる「フィジカルAI」が今後 50兆ドル規模 に達する巨大市場になると強調しました。blogs.nvidia.com
製造業や物流、ヘルスケアなどリアルの「物」が動く産業全体が、AIによって変革されるという展望です。フアン氏は「あらゆる動くもの――車やトラックから工場や倉庫に至るまで――がロボットになり、AIが宿る時代が来る」と語り、この物理世界の産業デジタル化(フィジカルAI)の潜在力を示しました。
背景には、AI需要の爆発的拡大と人手不足があります。2030年までに世界で5000万人の人手が不足するとの予測もあり、ロボットによる自動化が避けられない状況です。日本の製造業にとっても、この新市場は自動車産業に続く 「次の成長エンジン」 となり得るでしょう。
続いて、Foxconn(鴻海精密)がすでに実現している工場のデジタルツインについて。
フィジカルAIの波はすでに世界最大級の製造企業にも押し寄せています。その一つが Foxconn(鴻海精密工業) です。Foxconnは世界に170以上の工場を持つ電子機器受託生産の巨人ですが、最新の工場では実際の稼働前から 完全な仮想工場(デジタルツイン) を構築し、自動化の最適化を進めています。blogs.nvidia.com
例えばメキシコ・グアダラハラに建設中の新工場では、NVIDIAの次世代GPU「Blackwell」を搭載したサーバー製造ラインを、現実と同じレイアウトで仮想空間に再現しました。
実機を動かす前に、何百kgもある産業ロボットの配置最適化や、数千台に及ぶセンサー・カメラの監視ネットワーク設計を Omniverse上でシミュレーション するのです。
Foxconnの劉揚偉(Young Liu)会長は「このデジタルツインが我々を新次元の自動化と効率に導いてくれる。時間・コスト・エネルギーの節約につながる」と述べています。事実、試算ではこの仮想工場を活用することで 製造効率が向上 し、大幅なコスト削減と年間30%以上の電力消費削減が可能になるといいます。製造ライン全体をデジタルで最適化することでこれだけの省エネ効果が出るのは驚きです。
BMWもトヨタもNVIDIAのフィジカルAIに取り組んでいる
続いて、BMWも最先端の工場をNVIDIAのOmniverseでデジタルツイン化し、超効率的なライン設計を行なった事例について。
ドイツの自動車メーカーBMWもまた、フィジカルAIの可能性を先取りしています。同社はハンガリーに建設中の次世代EV工場(デブレツェン工場)について、着工から稼働開始前の段階で工場全体を完全にバーチャル化 しました。press.bmwgroup.com
実際の量産開始より 2年以上も前 から、仮想空間上で車両生産のシミュレーションが進行しているのです。このデブレツェン工場は2025年の稼働開始を予定しており、年間15万台のEV生産能力を持つ計画ですが、
その精密なデジタル双生児(バーチャルファクトリー) が既に完成しています。
NVIDIA Omniverse Enterpriseを活用し、工場内のレイアウト、ロボット動作、物流フローまでリアルタイムにシミュレーションできる環境を整備しました。例えば生産ラインのどの位置に何台のロボットを配置すれば最も効率的か、どのルートで部品を搬送すれば滞りなく流れるか、といった高度な計画を世界中のプランナーが同時に共有・検証できます。
従来は経験と勘に頼っていたライン設計も、デジタルツイン上で科学的に詰められるのです。
また、トヨタもフィジカルAIの活用に積極的であるということについて、引用します。
日本企業ではトヨタ自動車がフィジカルAIの活用に動き出しています。同社は自動車生産だけでなく、その素材加工プロセスへのAIロボット導入に注目しています。例えばトヨタは2024年、アルミホイールなどの部品を製造する 熱間鍛造ライン へのロボット導入計画を発表しましたが、その際に鍵となったのが シミュレーション環境でのロボット訓練 です。ready-robotics.com 鍛造工程では金属を高温に熱してプレス成形しますが、ロボットのプログラミング調整中も材料を熱したままにする必要があり、従来は人にもロボットにも 大きな安全リスク が伴っていました。
そこでトヨタは、米スタートアップのReady Robotics社とNVIDIAの技術を組み合わせ、ForgeOS(様々なロボットを統一操作できるOS)と Isaac Sim(Omniverse上で動作するロボットシミュレーター)を連携させた仮想環境を構築しました。
この環境上であれば、ロボットアームのプログラミングを 仮想のホットメタル 相手に行えるため、現実の工場では一切材料を加熱せずにすべての調整が完了します。人手による危険な実験はゼロになり、ロボットも安全な条件で何度でも練習可能です。プレス精度の微調整や、万一エラーが起きた際の復旧手順なども全て事前に検証でき、シミュレーションから実機へスムーズに移行 できます。
フィジカルAIは製造業がAIによって飛躍的成長を遂げるための「解」
このようにジェンセン・フアンが提唱した「フィジカルAI」市場は、単なる理念に留まるものではなく、すでに先行する製造業大手数社は現実的な「解」として取り組み始めているのです。
個人的には、トランプ関税で先行きの見通しが不確実になっている現在、日本の製造業が総力を挙げて取り組むべきはこの「フィジカルAI」しかないと考えています。何せ7500兆円もの規模があるのですから。
これからこの関連の調査報告書やAmazon Kindle書籍を順次刊行していく予定です。よろしくお願い申し上げます。