iPhoneインド製造移管の背景:インド政府の生産連動型優遇策(PLI)政策が巧妙にインド進出を促している
iPhoneの製造が全量、中国からインドへと移管される動きが始まっています。以下の調査報告書でその全体像をご報告しました。
Apple iPhoneインド生産移管のキープレイヤー 台湾・インドのEMS。インド政府の戦略的支援。日本各社の動き【1万2千字調査報告書】
これで判明したのは、インド政府が運用している政策、いわゆる「PLI政策」が非常にうまく機能しているということです。Foxconn(鴻海精密工業)やPegatron(台湾系)などのiPhone製造EMSが、みなこぞって(とは言っても総数3社ですが)インドに嬉々として大規模なiPhone製造工場を作ってきた背景には、インド政府が巧妙に策定したインセンティブの制度があったのです。
ということで急遽、この制度に絞って調査をしてみました。それで出来上がったのが以下の調査報告書です。どうぞご活用下さい!
iPhoneインド製造移管の背景:インド政府の生産連動型優遇策(PLI)政策とEMS各社の対応【調査報告書】
本報告書から抜粋
対象産業とインセンティブの仕組み
PLI政策の枠組みは、経済成長、技術進歩、輸出拡大の潜在性が高いと判断された14の主要産業を対象としている 。これには、大規模エレクトロニクス製造(LSEM)、医薬品、自動車部品、通信機器、先端化学電池などが含まれる。これらの政策に対する政府の総支出予定額は約1兆9700億ルピー(240億~260億米ドル超)に上る 。
基本的なインセンティブの仕組みは成果主義であり、主に基準年からの国内製造品売上高の増加分に連動して支給される 。奨励金の比率は対象分野によって異なり、通常4%から20%の範囲で設定され、政策期間は5年から7年が一般的である 。企業は、最低投資額や生産目標の達成といった適格基準を満たす必要がある 。
携帯電話を含む大規模エレクトロニクス製造(LSEM)分野のPLI政策では、対象企業に対し、基準年からの売上増加分に対して4%から6%のインセンティブが5年間提供される 。第1ラウンドの基準年は2019-20年度で、インセンティブは2020年8月1日から適用された 。その後、LSEM分野では第2ラウンドも導入され、こちらは2021年4月1日から適用される4年間で3%から5%のインセンティブが提供される 。この第2ラウンドの導入は、初期の申請状況、業界からのフィードバック、あるいは変化する世界情勢に対応した、政策の適応的なアプローチを示唆している可能性がある。
スマートフォン製造分野への適用
LSEM向けPLI政策は、インドを携帯電話の純輸入国から純輸出国へと転換させることを明確な目標として設計された 。世界規模の製造事業を誘致し、携帯電話およびその部品の国内エコシステムを育成することを目指している 。
この政策は、携帯電話の組み立てだけでなく、組立・検査・マーキング・包装(ATMP)ユニットを含む特定の電子部品も対象としている 。この二重の焦点は、国内の付加価値を長期的に高めることを意図している。
2019年の国家電子政策(NPE 2019)で示されたビジョンは、インドを電子システム設計製造(ESDM)の世界的ハブとして位置づけることであり 、PLI政策は、基幹部品開発能力の奨励と競争環境の創出を通じてこのビジョンを実現するための主要な手段となっている。
政府は、この政策によりLSEM分野で大幅な生産(承認企業で5年間で10兆5000億ルピー超)、輸出(生産の約60%)、投資(約1兆1000億ルピー)、雇用(20万人超の直接雇用)が創出されると見込んでいた 。PLI政策のタイミングと目的は、米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症によるサプライチェーンの混乱といった世界的な地政学的・経済的変化をインドの利益に繋げ、信頼できる代替製造拠点としての地位を確立しようとする明確な試みを示している 。