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リサーチのプロとして長いこと歩んできた今泉大輔です。ChatGPT出現以降、Facebookで「ChatGPTとMidjourneyのビジネス活用を探って行く勉強会」を立ち上げ、「ビジネスパーソンにとってのAI」の観点で米国情報を収集して来ました。知的アウトプットの質と量を向上させるプロンプトの開発にも取り組んでいます。

トランプ自動車関税の影響を知る報告書を1時間で。1本一千万円【経営者のChatGPTディープリサーチ】

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経営者の情報ニーズは戦時に参謀に求めるものと同じ

経営者目線では、トランプ大統領が4月2日から発動する自動車関税の影響をいち早く知って、正しい経営判断をしたいと考えるはずです。しかし、こうした大型の調査案件を受注できる調査会社はごく限られており、最短でも5週間、通常で8週間の時間がかかります。対応できる調査会社は三菱総研、野村総研、日本総研の3社程度ではないでしょうか?

優れた知見を数多持っているChatGPTに、上記3社に発注する報告書にかかる期間と費用を見積らせた所、以下のようになりました。かなりリアリティのある内容です。

作業プロセス 所要期間
・企画・リサーチ設計 1週間
・データ収集と基礎分析 2~3週間
・分析とシナリオ作成 1~2週間
・報告書執筆 2週間
・レビュー・仕上げ 1週間
・合計 4~8週間

費用は​500万円から1,000万円程度

費用には人件費が多く関わってきます。これらの総合研究所の年収は主席研究員クラスで1,300万円程度、主任研究員クラスで1,000万円程度、研究員クラスで800万円程度です。日米貿易/米加貿易/米墨貿易、および自動車業界の双方をカバーできる主席研究員はいないはずですから、少なくとも主席研究員を2名動かさなければなりません。調査の手足になる研究員が2名。計4名チームで当たるとして、最低で1,000万円は行ってしまいます。

しかしここでの問題は費用ではありません。仮にグローバルに展開する自動車メーカーの経営者の視点で見るならば、この報告書はすぐにでも欲しい。できれば発注から1週間でファーストインプレッション的な報告書が欲しい。
こういう情報ニーズは、太平洋戦争における日本軍トップが参謀に求めた情報ニーズと全く同じです。とにかく早く優秀な参謀に情報を集めさせたい。

そういう場合に優れた威力を発揮するのがChatGPTのディープリサーチ機能です。1ヶ月20ドルのChatGPT Plusなら1ヶ月に10回、1ヶ月200ドルのChatGPT Proなら1ヶ月に100回の調査をやらせることができます。筆者は今ガンガン使っている所なのでProコースを使っています。上場企業の経営者が持っている多種多様な調査ニーズに対応するためには、当然Proコースでないと話になりません。

ChatGPTのディープリサーチ機能は、調査指示のプロンプトを入れてからすぐに始まる「推論」機能の「アクティビティ」で、中にいる人がどのように調べているかを逐一見ることができます。やりとりを見ていると少なくとも2名、多ければ4名の調査委員がああでもない、こうでもないと議論をしながら調査を進めています。人間の調査員が調査案件を進める過程と全く同じことをしています。

簡単に言うと、

1)仮説を立て、

2)最適と思われる情報源に情報を取得しに行き、

3)情報が得られれば次の情報取得に進む、

4)情報が得られなければどの情報源に求めるべきか議論をする...

というプロセスを繰り返して、調査を進めて行きます。同じことを業務としてやっていた私の目から見ると、ジオラマの中の小さな調査員が素早く働いているのを見るかのような思いがします。

ChatGPTディープリサーチの能力を最大限に引き出す「ストラクチャード・プロンプト」

グローバルに展開するタイヤメーカーの経営者が、トランプ関税の影響を端的に知るために、トヨタ、日産、ホンダ、マツダの4社の生産台数が、日米加墨の合算で増えるのか減るのか。増減があるとすれば何台なのかを知りたいとします。

それをChatGPTディープリサーチにやらせるためのプロンプトが以下です。これは彼と議論をする中で生まれます。彼の知力を知り、何を要求すればどういうレベルのものが仕上がってくるかをわかった上で、彼の知力を最大限に引き出すように水をむけて、最後にプロンプトを得ます。単純に「なになにを調査せよ」と指示するだけではまともな調査報告書になりません。

プロンプトは英語ですが、報告書は日本語になります。英語にしてあるのは、英語のプロンプトでないと米国の情報源に探しに行かず、日本語の資料だけで論じる中身が薄いものになることがあるからです。深い情報から成る報告書は英語で書くべきです。特に国際関係が関わるものは。

プロンプト

Act as an expert economic analyst at a top-tier Japanese think tank. Your task is to create a professional **Japanese-language report** analyzing the impact of potential US auto tariffs under former President Donald Trump's trade policy on the production volumes of four major Japanese automakers: **Toyota, Nissan, Honda, and Mazda**.

**Report Objective**:
The report is intended for **executives of a global Japanese tire manufacturer**, who need to quickly understand how these tariffs might **increase or decrease vehicle production** in four key regions:
1. **United States**
2. **Canada**
3. **Mexico**
4. **Japan**

**Key Deliverables**:
- **A concise Executive Summary** (エグゼクティブサマリー) at the beginning, summarizing key findings in **a few bullet points**.
- **Quantitative analysis**: Show **how production volumes will change** in **absolute numbers** under different tariff scenarios (e.g., 10%, 20%, 30%).
- **Supply chain impact**: Explain how auto part tariffs affect overall production.
- **Competitive response**: Discuss whether automakers are likely to **shift production locations** (e.g., increase Mexican production, reduce US production).
- **Final assessment**: Clearly indicate **if total production across the four regions will increase or decrease**, and by how many vehicles.

**Report Format** (Japanese):
1. **エグゼクティブサマリー** (Executive Summary, 1 page)
2. **はじめに** (Introduction, 1 page)
3. **トランプ関税の概要** (Overview of Trump's Auto Tariff Policy, 2 pages)
4. **主要4社の生産台数の変化** (Impact on Production Volumes by Automaker, 6 pages)
5. **地域別の影響分析(米・加・墨・日)** (Regional Impact Analysis: US, Canada, Mexico, Japan, 6 pages)
6. **供給網への影響と戦略的対応** (Supply Chain and Strategic Responses, 5 pages)
7. **結論と推奨アクション** (Conclusion & Strategic Recommendations, 2 pages)

**Data & Visualization**:
- Include **tables and graphs** where necessary.
- Present **clear numerical estimates** for production volume changes.
- Indicate **confidence levels or key assumptions** behind estimates.

**Language Requirements**:
- **Write the report in professional Japanese**.
- **Use precise, executive-friendly language** so that busy decision-makers can grasp the key takeaways quickly.

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Deliver the full report in **Japanese**, with a focus on clear, actionable insights.

このプロンプトは多段階で調査を進める設計になっています。これを私は「ストラクチャード・プロンプト」と呼んでいます。

LLM(AI)の世界で、回答の性能を上げる原理に"Chain of Thought"があります。思考を複数のステップで進めることにより回答の正確さが向上するという原理です。このストラクチャード・プロンプトで動いている論理ステップは、それにかなり近いものがあると言えます。またそれよりも人間の調査機関が進める調査ステップにかなり近いのではないか?と言うこともできます。ChatGPT Deep Researchを組み上げたエンジニア達が、精度の高い調査アウトプットができるように、そのような多段階の調査ステップという方法論を埋め込んだのかも知れません。

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トランプ関税25%が自動車大手4社に及ぼす影響が鳥瞰できる報告書が得られた

出来上がった報告書の一部が以下の画像です。報告書の本体にアクセスしていただけるようにURLを示します。ぜひともChatGPTディープリサーチが生む、極めて付加価値の高い報告書の現物をご覧下さい。目を見張るような出来です。1時間で仕上げるファーストインプレッション的な報告書としては、十分に満足できるクオリティの高さです。

米国25%関税導入による日本車メーカーへの影響分析とタイヤ業界への提言 のURL

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特に、トヨタ、日産、ホンダ、マツダの4社において、トランプ関税の影響で生産体制がどう動くかを鳥瞰的に見られるという意味では、非常に価値が高い報告書だと思います。すべて論拠はインターネットで公開されている資料や報告書です。中には数字が間違っていることもありますが(引用元の数字が間違っていることによる)、この報告書が1時間以内でできることを考えると、本当に十分すぎるぐらい詳細な報告書になっています。

プロンプトの設定がグローバル展開するタイヤメーカーの経営者向けであるため、末尾の提言には相応の説得力があります。

これをご覧になって、やはり本式の調査報告書が欲しいとなれば、三菱総研、野村総研、日本総研のいずれかに正式発注すれば良いのです。グローバルに展開するタイヤメーカーのサプライチェーン再構築に不可欠な詳細な報告書が上がってくると思います。報告書の精度の高さ、緻密な論理構成、説得力のある推計は、やはり経験を積んだ主席研究員クラスでないと出せません。

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