なぜ日本企業が「クリスタル」に興味を持つのか?ソフトバンクと米OpenAI合弁によるAI新サービス
ソフトバンクと米国OpenAIの50%対等出資合弁会社として昨日発表されたSB OpenAI Japan。同社が提供するAIサービスである「クリスタル」について、メモ書き的に記します。
○理解の前提としてのAzure OpenAI Service
OpenAIのChatGPTが日本社会で騒がれ始めて、企業ユースが論じられるようになったのが2023年の前半。この時、企業ユーザーの目線で課題となっていたのが、プロンプトに自社固有の情報や顧客に関する情報を入れて行った時に、その情報をChatGPTの「学習」に使われてしまうと、自社情報及び顧客情報の流出になってしまう。それを何とかしたいというもの。
これに対してはChatGPTがプロンプトの内容を「ChatGPTの学習には用いない」というオプションボタンを設けることで対処したという記憶があります。しかし、依然としてChatGPTのサーバーは米国のOpenAIのサーバーであり、これが信頼できるかどうか?という疑問が残っていました。
そこでマイクロソフトが出てきて、Azure OpenAI Serviceを発表しました。ChatGPTのAIエンジンをAzure上で動かして日本企業も利用できるようにしたサービスです。Azureだと日本企業も多数すでに使っているクラウドであるため、信頼度が全然違います。自社データなどセンシティブな情報をプロンプトに入れても、自社の管理できない領域へ流出する恐れがありません。
Geminiで確かめたところ、Azure OpenAI Serviceの日本での導入企業数は2023年10月時点で560社以上(マイクロソフト公式発表による)。現在は1,000社前後になっているのではないでしょうか?つまり、多くの企業に導入されているマイクロソフトのクラウド基盤がChatGPTを使う際の「安全のお墨付き」になっている訳です。これは大いに納得できます。私自身も少しAzure OpenAI Serviceまわりでビジネスにできないかと思って、SIができる会社を訪問したことがありました...。
○AIエージェントを日本企業が使う時に何が起こる?
2025年は「AIエージェント元年」だと言われています。オフィスの中の優秀な人達がChatGPTやGeminiなどのAIに様々に工夫されたプロンプトを入力して、知的生産性を大きく向上させている現在の姿は、AI利活用の第一段階と呼ぶことができます。
第二段階が今あるAIを基盤として、それに具体的な仕事を処理してもらう「AIエージェント」です。AIエージェントは、たとえて言えば、AIの優秀な頭脳に社内の様々なリソースを使わせて成果物を得る、「理想的な社内ITユーザー」です。昨日発表されたOpenAIのDeep Research(このファーストインプレッションが実際に使ってみた結果を記していて優れています)も、大企業のマーケティング部にいるリサーチャーが行う仕事を自動化するAIエージェントの1つです。
様々なIT実務をこなすAIエージェントを企業が本格的に使うためには、社内にある様々な情報やデータをふんだんに参照したり処理したりする必要があります。これにはセキュリティ基盤が不可欠。企業がAIエージェントを実現する際にAIエンジンとして使えるのは、今のところOpenAIのChatGPT一択と言って良いでしょう。マイクロソフトのクラウドの上にあるAzure OpenAI Serviceを使えば、良いAIエージェントができるのかどうか?
○孫さんが出した答え
孫さんは昨日の発表で「クリスタルは、全ての仕様書、プログラミングコード、会議といったその企業のあらゆるデータを読み、AIエージェントとして自律的に事業やサービスを変革する」と説明していました。2年先、3年先に本格化しているであろうAIエージェントの姿を、そのように思い描いている訳です。これがAzure OpenAI Serivceでできない訳ではないと思います。しかしそこに勝機を見出して、「ウチでやろう!」と乗り出したのが孫さんです。サム・アルトマン(OpenAI CEO)と組もう!と。
孫さんがうまいのは、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラが「日本市場固有の課題」の解決に乗り出す前に、さっと動いて体制を固めたところです。おまけに数千億円という資金を動かします(上記リンクのITmedia記事を参照)。
○AIに特化したデータセンターの新規事業としての側面
日本企業が本格的にAIエージェントを使っていくためには、社内にある情報、データ、ノウハウなどをふんだんにAIに学習させて、その上で適切なプロンプトによってAIエージェントに「仕事をさせる」必要があります。そのためには、AIをブンブン回せるデータセンターも不可欠になってきます。つまり、NVIDIAのGPUを大量に備えたデータセンターが必要になります。
今Geminiで確認したところ、マイクロソフトのAzureでもNVIDIAのGPUを活用したデータセンターを仮想的に使うことができるそうで、これはこれですばらしいと思います。
しかし日本企業の細かいニーズにきめ細かく対応できるのは日本企業でしょう...。ということでSB OpenAI Japanのクリスタルの出番となる訳です。昨日の発表によると日本でも1,000人の雇用が発生するそうで、かなりの人材が動きそうですね。要はAIに特化した新しいデータセンターのビジネスが立ち上がるということです。