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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

PKSの代替燃料について

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2015年の後半から、大型木質バイオマス発電所(20MW以上)の建設に不可欠なプロジェクトファイナンスにおいて、PKSを主燃料として使う設定にしていると、融資が下りないというケースが出始めました。私が直接話をしたものだけでも、2件あります。同じレンダーが関わっているプロファイ案件はすべて、PKSを燃料として使う想定である限り、プロファイが下りなかったと思われます。他のところでも、同様の話を聞きました。

なるほど、PKSは、2014年頃から価格が高騰してきましたし(2013年あたりではFOB 50ドルだったという話を聞いたことがあります)、また、出荷可能量の上限がすぐにやってくるのではないかと懸念する声が聞かれるようになりました。

■PKSはどの程度の出荷可能量があるか?また日本の需要は?

PKSの産出量は、パーム原油(CPO)の1/4。パーム原油の生産量はインドネシア3,000万トン年、マレーシア2,000万トン/年。計5,000万トンの1/4%で1,250万トン/年。このうち、輸出に回せるものがどの程度あるかの見積が、PKSは近い将来において逼迫するのか、それとも日本の需要程度はカバーできるのかを判断する上で、大変に重要になります。

そもそも日本の需要をどの程度で見積もるか。PKSの低位発熱量は4,000kcal/kg。これを発電効率35%のプラントで焚くとします(大型発電所を想定)。稼働率85%、発電出力10MWで年間約4万5,000トンのPKSを焚きます(少なめ推計)。

上記1,250万トンのPKS生産量の全量が日本に来たとして、日本で成立しうる木質バイオマス発電所の総出力はおおよそ3,000MWとなります。PKSを使う大型発電所の平均出力を30MWと想定すると100基分になりますね。

現実にはもちろん、稼働中はもとより、計画中、建設中のものを含めても最大40基分(1基30MW)という当たりではないでしょうか?計1,200MW。PKS想定総需要は年間540万トン。2016年暦年の輸入量実績が70万トン程度ですね。この7〜8倍の量が、PKSを燃料とするすべての発電所が運開する2022年頃には必要になる可能性があります。

なお、ある調査会社の推計では、PKS全産出量のうち、入手可能なものは7割(奥地にあり物流コストが高すぎる場合などが入手不可能区分)。うち85%はすでに現地で消費されているので、入手可能なもののうちの15%しか輸出に回らないとしています。すなわち、年間1,250万トンの全産出量のうち、輸出に回るのは約190万トン。

これは控えめすぎる推計かなと思います。インドネシアで1社で年間60万トン出荷可能な会社があったりしますから、インドネシア、マレーシア両国合わせて...少なくとも300万トンは出荷可能だと考えます。現在でもまだまだ、異物除去装置等が未導入のため日本に輸出できていないストックパイルは相当ありますから、それらがアクティベートされると、年間500万トン程度まで行くのではないか、というのが肌感覚としてあります。とはいえ、韓国や中国もPKS調達を始めているので、買付競走が激しくなっていくのでしょうね。

スケール感として、年間500万トン程度が最大出荷可能量。これを韓国、中国などと奪い合う構図にあると考えれておけば、ほぼ間違いないでしょう。日本の需要は、現在建設中、計画中のものがすべて運開する2022年になると、年間500万トン程度。韓国、中国が買った分は、日本で調達不能となるでしょうね。これをどの程度と見るか。200万トン程度でしょうか?だとすれば、日本に輸出できるのは300万トン程度となります。

いずれにしても、現在計画中のものがすべて運開する段階では、PKSの絶対量は確実に不足するということは言えると思います。あと5年あるため、順々とやっていけば手当ては可能です。

■PKS代替燃料の2区分

2020年頃からは、PKSの代替燃料が確実に必要となってくるでしょう。

代替燃料の考え方にも、1)PKSと似た燃料であり、文字通り入れ替えが可能なもの、2)PKSとは似て非なる燃料であり、別物として取り扱う必要があるもの、という具合に2通りあります。

前者の一例が、PKSと同等の熱量を持つ、カシューナッツの加工過程で出てくるカシューの殻(現在成分分析中です)。この殻からカシュー油を絞った後に残るカシュー搾油殻。これの低位発熱量がほぼ4,000kcal/kgであり、PKSの代替燃料になり得ます。PKSと同等、油糧作物の残渣なので油を含んでおり、木質チップと比較すると熱量が高いです。

また、後者の一例が、木質ペレット全般。木質ペレットはおが粉などを原料とする工業製品であるということと、雨に濡れると燃料としての体をなさなくなるため、独特の保管方法が必要ということで、PKSとは似て非なる燃料です。また、価格も、PKSよりは20ドル/トン程度高いです。

木質ペレットは、色々な国のサンプルを見たり、インドネシアやベトナムのサプライヤーを回ったりして、かなりの理解が進みました。また、PKSの逼迫時に当てられるカウンターの燃料として、次回投稿で記すキャリアンドラ・ペレットの生産拠点を新規に作る事業計画を練っていたこともあり、立体的な理解ができていると思います。これもまた、PKSとほぼ同等の重量当たり熱量を持っています。

■カシュー搾油殻がニューフェースとして出現

2013年頃から木質バイオマス発電の燃料に関わってきていますが、おおむね、3年〜4年経つと、燃料のニューフェースが出現します。上記カシュー搾油殻がその一例です。

また、木質ペレットの生産国が実質的に増加していきます。木質ペレットの生産国はこれまで、東南アジアではベトナムが主、インドネシア、タイが副。太平洋の向こうの米国、カナダも主要産出国です。これが従来の話。そこに、ウラジオストク港から出荷できるロシア、東欧産が加わろうとしています。これが加わると潜在出荷可能量がぐっと増えるため(月間5万トン程度、年間60万トン程度)、日本の木質バイオマス発電燃料市場という狭い市場において価格の下げ要因となります。

総じて、日本のFIT制度下で行われる木質バイオマス発電事業はサヤが取りやすいため、結果として調達燃料価格が高止まりする傾向にあり、その高止まりした燃料よりも安い燃料が参入する余地があって、3〜4年でその新顔が出てきます。あるいはこれまで出荷していなかった国からの出荷が始まります。これにより、高止まりしていた燃料価格の修正が促されます。これは、まことに市場メカニズムの賜物であり、健全な市場の姿と言えるでしょう。

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