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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

オープンデータもビッグデータもつまるところは3つの分析手法で咀嚼する

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データを使って企業活動に役立てる…。こういう観点で見た場合、オープンデータもビッグデータも、存在平面は異なるものの、同じ「データ」として括ることができます。

いったいこのデータを使って、企業活動に意味のある何ができるのか?

こういう観点で「データを使った企業活動のあり方」を研究している人たちが英国にはいます。従来からサービスサイエンスの研究で名高かったケンブリッジ大学の研究所ケンブリッジ・サービス・アライアンス(Cambridge Service Alliance)の研究者たちです。

ものすごく新しいことや、まだ本格的な事例が存在しない領域について物事を考える際には、非常に抽象的な考え方を緻密に積み上げていくタイプの米英の先生方の論考を参考にすると、うまく突破口が見える時があります。なにせそうした先生方は、年柄年中そのことばかりを考えているわけですから、抽象的な考えの組み立て方が堂に入ってます。

以下のマッキンゼーのオープンデータ報告書(Open data: Unlocking innovation and performance with liquid information)の図は、オープンデータの位置づけをうまく言い表している印象を受ける一方で、その実よく見てみると、何もわかった感じがしません。で、結局なんなの?という印象が抜け切りません。

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ケンブリッジ・サービス・アライアンスが2014年3月に公開したワーキングペーパー"Big Data for Big Business? A Taxonomy of Data-driven Business Models used by Start-up Firms"(Philipp Max Hartmann, Mohamed Zaki, Niels Feldmann and Andy Neely)、および説明スライド"Capturing Value from Big Data through Data-Driven Business Models Patterns from the Start-up world"にある以下の図では、オープンデータの存在領域がかなりはっきと理解できます。

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この図では、企業が活用するデータを大きく「データソース」として括り、それを「内部由来のもの」、「外部由来のもの」と二分した上で、外部由来のものを「購入・調達してきたデータ」(Acquired Data)、「自社顧客由来のもの」、「無料で入手できるもの」と三部類します。うち、「無料で入手できるもの」の中に「オープンデータ」が収まるという分類法です。ここでは、オープンデータが、「ソーシャルメディアデータ」(一部購入というケースもあるでしょうが)、「ウェブでボットが集めてきたデータ」(先日のスクレイピングによるデータ)と同一平面にあります。

個人的にはこの分類法がひどくしっくりきます。企業がデータを使って営業、マーケティング、生産などに役立てる場合、普通は、自社にある顧客データも使いますし、外部で公開されているウェブの情報も使うでしょう。オープンデータは、その中で、大変に価値があるとしても、やはり使うデータの中の一部なわけです。それがこの図ではスッキリと説明されています。

これは、データを使った経営(Data Driven Company)、データを使ったビジネスモデル(Data Driven Business Model)に軸足があるから、こういうわかりやすい分類ができてくるのだと思います。

■データ分析の3区分

では、そうしたデータを使った経営、データを使ったビジネスモデルのキモは何なのか?

データはかみ砕かないことには何がなんだかわかりません。すなわち、データ分析を行います。(一部の論者は、このデータ分析を"データをreduceする"という言い方で言っていて興味深いと思いました。すなわちデータ分析とは、膨大なデータを人間にわかりやすいように有意に減じて示すことである、というとらえ方です)

上記ワーキングペーパー"Big Data for Big Business? A Taxonomy of Data-driven Business Models used by Start-up Firms"によると、データ分析には、

  • 「Descriptive Analysis」(現象分析的な分析)
  • 「Predictive Analysis」(未来予測的な分析)
  • 「Prescriptive analysis」

の3区分があるそうです。最後のPrescriptive analysisはうまい訳語がないようで、「あるべき行動規範を示す分析」とでもなるでしょうか(Prescriptiveの訳の難しさについては、こちらの翻訳家の方のブログが参考になります)。

同ワーキングペーパーが以上の3種類の分析をわかりやすく説明しています。

  • Descriptive Analysisとは、「何が起こったのか?」「何が起こりつつあるのか?」の問いに答えるもの。
  • Descriptive Analysisとは、マシンラーニングと数学的モデルを使って、所期のデータを与えた時に起こる未来の事象を予測するもの。
  • Prescriptive analysisとは、全体的な業績を向上させる目的で、複数の事業目標、必要条件、制約条件を勘案しながら、最適な意思決定を行うことを支援するもの。

となっています。Prescriptive analysisがもっとも高度な分析ということになります。

Prescriptive analysisが使われる場面は、経営トップがかなり重要な意思決定に際して、採りうる選択肢には何があるか、特定の選択肢を採った場合に何が起こりえるか、もっとも合理的な意思決定はどれであるか、といった指針を得るためのものということでしょう。以前、僭越ながらローカライズに関わらせていただいたデロイトの意思決定方法論Strategic Flexibilityを彷彿とさせます(Strategic Flexibilityにおける複数の選択肢を提供するのがPrescriptive Analysisという位置づけ)。

3つのデータ分析手法を紹介しているInformationWeek記事でインタビューに答えているLithium TechnologiesチーフサイエンティストDr. Michael Wuによると、ビジネス分析の80%はDescriptive Analysisだそうです("Big Data Analytics: Descriptive Vs. Predictive Vs. Prescriptive")。

昨日の投稿で挙げた非専門家向けのデータ分析ツールについても、上記の3つの分析手法のうち、ほとんどがDescriptive Analysis用だと思います。いずれ吟味したいところ。

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