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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

インフラ輸出を後押しするインフラファンドを

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3年前は言葉だけが一人歩きしていた「インフラファンド」が最近、形を持ち始めています。日本の年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年度から、海外の公共インフラへの投資を始める検討に入ったと7月末の日経で報じられました。(2013年7月30日付 海外インフラへの投資拡大 GPIF、公的年金で数兆円)

東証には、REITに近い仕組みを持つインフラファンドが2015年度の早い時期に上場されることが報じられています。(2013年9月19日付 「インフラファンド上場市場、15年度の早い時期に」東証執行役員に聞く)

インフラファンドとは、キャッシュフローを生むことができる発電、高速道路、空港、港湾、水事業、鉄道などのインフラ事業に投資を行い、比較的長期にわたって投資を続けて、マイルドなリターンを狙うファンドです。資金の出し手は、長期にわたる安定的な投資によって将来の大きなキャッシュアウトに対処する必要がある年金、保険が一般的です。ただ、Infrastructure Investorなどの専門サイトで欧米のインフラ投資動向を覗くと、もう少しアグレッシブな投資家もこの分野にはいて、IRRで15〜30%といった高いリターンを当然のように要求し、安いタイミングで買って、高いタイミングで売り抜けるという、株式投資に近い形のトレードを好む人たちがいます。こういう人たちは、大きな金額をある程度の期間置いておくことができて、しかもリターンは株式投資と比べてもさほど悪くなく、株式投資のように資産価格のボラティリティが大きくないアセットクラスということで好むわけです。海外では、インフラは、立派にリターンをもたらす投資分野として確立しています。

日本のインフラファンドの最近の動きは、そういう認識が日本でも広まってきたということを示しており、まことに好ましいことだと思います。

■なぜブラウンフィールドを好むのか?

ナイジェリアとタンザニアでガス火力発電案件やその他の天然ガスを活用したプラント事業などの最初期の案件形成に関わった経験から、また、日本での火力発電事業の案件形成に関わっている経験から、インフラファンドに何が求めているかを簡単にまとめてみたいと思います。

一般的に言って、長期投資を好む投資家は、あまりリスクを引き受けたがりません。これは投資家心理として至極妥当なことだと思います。従って、インフラファンド一般が好むのは、いわゆるブラウンフィールドの案件です。すなわち、発電所でも港湾でも、建設が完了して営業が行われて、少なくとも1年程度は過ぎ、きちんと操業できることがわかっている案件です。
どういうインフラ案件でも、建設が完工に至るまでの時期のリスクがもっとも大きく、いわゆる「完工リスク」として、特別扱いされています。工事が遅れる、突発事故が起こる、時の政権の姿勢が変わってすでに出ていた認可等が取り消される、等々。完工まで2〜5年かかるインフラゆえ、その間には様々な出来事が出来する可能性があり、それが「できあがらないリスク」として顕在化することがないわけではありません。これが完工リスクです。
ブラウンフィールド案件を好む投資家は、この完工リスクをテイクしません。完工リスクがなくなった段階で、きちんと動くようになったインフラに対して投資をします。
なお、ブラウンフィールド案件には、減価償却が終わるぐらいの時期になって、いわば「枯れた」状態になったインフラ案件で、多少のてこ入れをすればまだまだキャッシュが生める…というタイプもあります。

■ブラウンフィールド狙いのファンドだけではインフラができあがらない

こういう投資行動は、これはこれで合理的なものだと納得が行きます。しかし、資金の出し手がすべてブラウンフィールド狙いだけであると、インフラは形になっていきません。

インフラはどれも100億円〜数千億円という巨額の資金を必要とするものだけに、総投資額の2〜4割はエクイティで、残りはプロジェクトファイナンスなどのデットで調達します。デットを組成するする仕組みは確立されていますから、デューデリ等の時間がかかるとしても、順々とプロセスを踏んで行けば融資実行へと至ります。問題はエクイティです。

総投資の2〜4割とは言え、エクイティ部分も巨額ですので、通常は複数の投資家がお金を出します。この時の顔ぶれは、おおむね以下のようになります。
A. そのインフラ事業のオーナーとして振る舞いたい投資家(リターンのできるだけ多くの割合を取りたいと考えている)
B. プラント建設や発電機器納入などでプロジェクトに関わりたい建設会社・メーカー
C. できあがった電力やLNGなどを長期安定的に買い取りたいオフテイカー
D. アジア開発銀行、アフリカ開発銀行など開発銀行
E. 日本の国際協力銀行のような個別の政府系の輸出入銀行
F. 当該国政府ないし政府系機関

一般的に言って、エクイティ総額の5割前後を拠出することが求められるのはAの人です。Aの人が1社ということはなく、2社、3社の場合もあります。
それ以外のBの人は、いわばプロジェクトへの参加料として少しを拠出するだけですので、シェアとしてはあまり多くありません。Cも同様。
DとEについては、デットの拠出の方で多くを期待されていますから、エクイティで噛むというのはある意味で利益相反となり、あまり多くのシェアは出しようがありません。Fには、資金力がないのが通例です。
すなわち、Aの人が、エクイティ部分をしっかりと出さなければならない。

これが往々にしてできにくいのがインフラ案件です。

例えば、2,000億円の大型プラント建設案件では、3割エクイティとして600億円。このうち、4割をAの人が出さなければならないとすれば240億円。240億円の投資と言うと、決して小さな額ではありません。多くの企業では、1つの案件だけへの関与というわけにはいかないでしょうから、投資も分散させなければなりません。そのなかで、1件だけ240億円を出すというわけにはいかないでしょう。別なAの人を2〜3者見つけてこなければなりません。

ここで大きな役割を期待されているのがインフラファンドです。それも、グリーンフィールドのリスクをあえて取るインフラファンドです。

■リスクテイクするインフラファンドがあれば

日本政府は自民党へと政権交代がなされた後も、インフラ輸出には依然として力を入れています。安倍首相の成長戦略の中には、海外へのインフラ輸出が1つの柱として入っています。また、それを促進するための施策も、例えば、国際協力銀行が新興国の外貨建ての融資を柔軟化するなど、拡充が進んでいます。

それでもなお、日本のインフラ輸出が加速化するには足りないものがある。方々から聞こえてくるのは、インフラ受注に欠かせない、というより、インフラが事業として成立するのに欠かせない、グリーンフィールドの案件へ、上記のAの人としてエクイティを拠出する投資家です。言い換えれば、完工までの大事な時期を、投資家として下支えする存在です。

これまではこの部分の投資は、大手商社によって行われてきました。重電等のメーカーはこのタイプの投資には慣れておらず、まず投資家にはなりません。本業の内容を考えてみれば、それも納得できます。

完工前の案件に対する投資家が実質的には大手商社しかいないため、日本のメーカー等が関与したいと考えるインフラ案件は、現実的に数が絞り込まれてきます。
日本のメーカーやプラントエンジニアリング会社の高い技術をもってすれば、その案件で力を発揮できる余地があるにもかかわらず、完工前の案件のリスクを取る投資家が限られているために受注の数に限りがあるのです。

ここにこそ、政府系の資金によって、あえてリスクを取るインフラファンドとして関与すべきだと考えるのですが…。もちろん、長期安定運用を心がける年金資金の多くの割合に、こうしたリスクテイクを求めるものではありません。資金の一部なりとも取り分けて、長期安定運用を心がける普通のインフラファンドと、戦略的に完工前リスクを取って、日本企業のインフラ案件受注を後押しするインフラファンドと。2種類のインフラファンドがあってもよいように思います。
もちろん、より大きなリスクを取るからにはより大きなリターンを期待してよいわけで、そこは、資金調達の仕立てによって何とでもなるでしょう。

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