[メモ] 「インフラ輸出」は結局のところは「投資事業」なので、意識を改める必要がある
9月11日〜9月16日にかけて、インドネシアの本視察ということで、重電メーカーや銀行系シンクタンクの方々などと、インフラPPPに関連した以下の訪問先を回ってきました。
- SMEC(オーストラリア系のインフラコンサルティング会社)
- アジア開発銀行(インドネシア国内のPPP案件の担当の方)
- Widyawan and Partners(インドネシア系法律事務所、政府のインフラ法整備にも助言)
- Ministry of Transportation(港湾、空港、鉄道案件などを管掌)
- National Development Planning Agency(同国のPPPプロジェクトの総監督的位置づけ)
- JICA(日本企業によるインフラ事業進出を支援)
- Bandung City(同市が計画するPPPプロジェクトの管理部門)
- JETRO(日本企業のインドネシア展開を支援)
- 伊藤忠(先般落札した中部ジャワ石炭火力1,000MW×2の案件について)
お客様に対する商品として視察を設計した関係で、得られた知見をここですべて書き出すことはできないのですが、一般論に近い部分を記すことは、関係の方々のご参考にもなるかと思うので、何回かに分けてかいつまんで記してみたいと思います。
日本では「インフラ輸出」という言葉が定着しています。この言葉が与えるイメージは、日本を代表するメーカーが新興国や先進国の公的な性格を持ったインフラ事業に対して「モノを納める」商行為です。
けれども、その頭でもって、海外のインフラPPPを管掌している政府機関の官僚の方々と話をすると、論点がずれて「あれ?」ということになりかねません。
今回、インドネシアの政府系の方々とやりとりしてみて、彼らがごく普通に"Investor"という言葉を使っていることに、改めて気づきました。外国からインドネシアのインフラPPPに参入する企業は、本質的に「投資家」なのです。
同国の「PPP Book 2011」で公開されている80件弱のインフラPPP案件は、小さいものであれば、数億円規模ですが、大きなもの、例えば高速道路や港湾などは、数千億円規模の総事業費を必要とします。PPPとは、本来が、民間による資金調達を当て込んだ官の調達スキームなので、その総事業費は民間側が手当する必要があります。すなわち、自己資金で投資をする必要があります。
現実的には、どのようなインフラPPP案件でも、総事業費全額を受注企業側が自己資金でまかなうことはなく、その6〜8割は銀行団によるプロジェクトファイナンスによってまかなわれることになります。
とはいえ、総事業費の2〜4割は、受注企業側が自己資金で拠出するのが大前提です。
数十億円〜数千億円の総事業費の2〜4割を自己資金で拠出するとなれば、これは、中小型のM&Aと同等の資金規模ということになりますね。企業内のお財布の勘定で言えば、輸出を担当する事業部門の予算から出る類の資金ではなく、財務部が管理するM&Aなどを想定した資金の枠組みから出す必要がある資金です。
インフラPPPを計画している政府は、そうした資金を拠出できる「投資家」を求めているのです。
従って、機器や設備の納入機会のみを探して、政府の官僚と話をしていると、どこかで食い違いが出てくるということになります。
「インフラ輸出」に取り組む企業はすべて、どこかで、マインドセットを改める必要があると思います。インフラPPPとは、「機器納入案件」ではなく、比較的大きな金額の投下を必要とする「投資案件」なのだと。(投資案件の内部に機器納入機会が包含される図式です。)
商社はそうした意識ができています。今回訪問させていただいた伊藤忠さんでお話を伺って、そのことが実感できました。言葉の端々に、「資本を投下して新規事業を行っているのだ」という認識がにじみ出ていました。そうした言わば戦闘的な姿勢が、複数のコンソーシアムと競り合って勝ち得た落札につながっているのでしょう。
一般的に、どのようなインフラPPP案件であっても、コンソーシアムを組んで受注を狙います。その中で、主たる投資家としての役割を果たす企業、エンジニアリングを担当する企業、設備・機器の製造販売を請け負う企業などの役割分担があります。「インフラ輸出」において、いまのところは「投資家」としては振る舞えないというメーカーは、コンソーシアムを組む面子として「主たる投資家」に相当する企業を見つけることができればよい、と言うこともできます。
現状日本では、商社以外に、海外のインフラPPP事業において主たる投資家の役割を担う意識ができている企業はないように思えます。ここにおいて、新しいタイプの投資家企業が登場すれば、きわめて広大な展開余地が開けていると言うことができるでしょう。