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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

環境省は太陽光発電がペイするとは見ていない

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少し気になったということで記します。

今年4月下旬に環境省が再生可能エネルギーの導入ポテンシャルについて調査した結果を発表しました。その時のプレスリリースがこちら調査報告書がこちらにあります。

報告書本体にざっと目を通すと、しっかりとした方法論に基づく、かなりの工数を投入した労作であることがわかります。各再生エネルギー源が持つポテンシャルの推計にしても、事業性の試算についても、非常に綿密な作業が行われています。
仮にこれに妥当性がないとするならば、かなりの時間をかけて反証を挙げていかないと、この報告書の論拠は崩せないという印象を持ちました。よい報告書だと思います。

この報告書では、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まるという前提で、太陽光、風力、中小水力(3万kW以下)、地熱の4エネルギー源について、日本にどれだけの導入ポテンシャルがあるのか、そしてそのポテンシャルのうち発電事業として成立する量はどれだけあるのかを割り出しています。制度開始を先取りして、日本の再生可能エネルギーのうねりを把握しようとした大変に意欲的な中身だと言えるでしょう。

報告書概要を見てすぐに気づくのは、太陽光発電については採算に乗りにくい結論になっているということです。

以下の表をご覧ください。

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上の表では仮定条件を記しています。太陽電池設備費はkW当たり39万円。これが高いのか低いのか、今の私には判断基準がありませんが、本報告書が周到な準備により作成されたことから推測すると、現実的ではない数字が使われているとは思えません。その他、太陽光発電所を作るのに不可欠な費用として、付随機器設備費、設置工事費が挙げられています。

事業性の試算にあたっては複数のシナリオが設定されており、買取価格はそれぞれにおいて、kWh当たり24円、36円、48円が適用される前提で算出されています。

算出結果を要約した下の表で「FIT対応シナリオ」とあるところをご覧ください。ここが「公共用建築物」から「耕作放棄地」に至るまで「0」という数字が並んでいます。
これは、太陽光発電所施設が設置される場所が公共用建築物であれ、耕作放棄地であれ、固定価格制度で設定される買取価格が24円、36円、48円のいずれであっても、事業としては成立しないということを意味しています。

「FIT対応シナリオ」の右にある「FIT+技術革新シナリオ」は、固定価格買取制度に加えて太陽光発電の技術革新=発電パネルの低コスト化が実現した場合のシナリオということです。
また、その右の「FIT+補助金」というのは、固定価格買取制度に加えて、事業費の1/3を国・自治体が補助するというシナリオです。

これらのシナリオでやっと数字が出てきます(そのシナリオ下において太陽光発電が実現する容量が出ています)。

簡単に言うと、環境省の調査報告書では、固定価格買取制度がスタートしても、よほどの太陽光発電パネルの価格低下がない限り、あるいは国・自治体の補助金が付かない限り、採算が取れないということを述べているわけです。なかなか刺激的な内容だと思いました。

閑話休題。

一方、事業を行う側の視点で言うと、この種の収支予測は、いかに周到に準備をして予測を行ったとしても、それはある仮定下における予測であり、その仮定のまったく外で、ウルトラCのような方策が可能になれば、別な収支予測が成立するということもあるわけです。それによると採算は十分に取れると判断できる…。そういう展開もあり得ます。そのへんは、アントレプレナーシップにかかっていると言えましょう。物事は悲観的に見ることもできるし、楽観的に見ることもできます。

とはいえ、綿密な準備を重ねて記述されたこの報告書が主張している内容、すなわち、現状の太陽光発電のパネル単価では採算が厳しい可能性があるということについては、耳を傾ける必要がありそうです。
(そこにおいて日本製以外の太陽光パネルが入ってくる余地があるということについても、十分に吟味すべきです。)

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