サウジアラビア政府がオープンに進めるメディナ空港PPPプロジェクト
一部の大型インフラPPP案件では、プロジェクト専用ウェブサイトを作り、関心を寄せる国際的なプレイヤーに対して情報発信を行ったり、入札に必要な情報を公開しています。
共和党知事が当選したことで中止に至ったフロリダ高速鉄道でも、運営事務局がかなりしっかりしたサイトを作っており、入札を考える企業が必要な情報はサイトからダウンロードすることができました。現在、このサイトは運用を停止しています。進行中のカリフォルニア高速鉄道では、やはりサイトを設け、住民に対して、そして入札希望企業に対して、必要な情報を提供しています。
昨日ご報告したオーストラリア・ゴールドコースト市のライトレールプロジェクトでも、独立したサイトを設けています。プロジェクト情報を提供するセクションのResourcesページに行くと、入札したいと考える企業が検討に必要な書類はすべて公開されていることがわかります。
このような動きは、入札プロセスのオープン化と透明化に役立ちますし、さらには、潜在的なより優れた国際プレイヤーを入札に呼び寄せる効果もあると思われます。大型案件ではますますこのような動きが強まるでしょう。
■過去5年にわたり年平均20%以上の利用者増加
サウジアラビア政府が進めているメディナ(Madinah)空港のPPPプロジェクトでも、プロジェクト専用のウェブサイトが設けられ、入札情報の公開が行われています。入札プロセスは現在、入札資格者が選定された後、最終提案が行われる前の段階です。
この空港(正式名称Prince Mohammad Bin Abdulaziz Airport、通称Madinah Airport)はイスラム教の聖地であるメディナにあり、Wikipediaによるとサウジアラビア国内で利用者数第4位となっています。基本的には国内空港ですが、巡礼の時期になると各国から国際便が飛んできます。近年のインドネシアなどの経済発展を反映してか、巡礼者の利用が急激に増えており、過去5年の年平均利用者成長率は21%に上り、4年弱で倍増する勢いです。2009年には390万人に達しました。
この急増を踏まえ、メディナ空港を国際空港に格上げすることとし、2014年までの第一期プロジェクトで利用者容量800万人、2022年までの第二期で1,400万人に増やします。今回の入札者公募は第一期プロジェクトのためのもの。同空港の開発、補修、拡張、運用がPPPにより民間事業者に委ねられます。国際的な競争入札にする目的があって、このようなサイトを設けて情報公開を行っているようです。
民間の収入源は、空港から直接上がるターミナル使用料やグラウンドハンドリング料と、商業施設から上がるコンセッション料(売上マージン)。収入はサウジアラビア政府とシェアすることになっています。落札者は、マネジメント、建設、オペレーション、ファイナンス、プロジェクト実施を請け負います。なお、エアトラフィックコントロール、税関、入出国管理についてはサウジアラビア政府が受け持ちます。
■中部国際空港も入札コンソーシアムに参加
以下が入札資格者のリスト。3番目のコンソーシアムには、仁川国際空港を運営する会社と並んで中部国際空港株式会社が加わっているのが興味深いです。
- Airports Company South Africa
- YDA INSAAT SANAYI VE TICARET, AENA Desarollo Internacional, OHL Concesiones, led by YDA
- Integrated Transportation Company, Incheon International Airport Corporation(仁川国際空港会社), Central Japan International Airport(中部国際空港株式会社), and Samsung, led by Integrated Transportation Company (BADR Consortium)
- Saudi Binladin Group, Aéroports de Paris Management(フランスの空港オペレーター), and Bouygues Bâtiment International, led by Saudi Binladin Group
- El Seif Engineering Contracting Co., MMM Group Limited, ADC & HAS Airports Inc. and Emirates NBD Capital / Emirates Financial Services, led by El Seif Engineering Contracting Co. (SaudiAirplex Consortium)
- Limak Investment, GMR Infrastructure, and MAPA Construction, led by Limak Invesment
- TAV Airports Holding(トルコの空港オペレーター), Saudi Oger Ltd., Al Rajhi Holding Group, Consolidated Contracting Company, led by TAV Airports Holding (TIBAH Consortium)
- Bakri International Energy Company, Malaysia Airports Holdings Berhad, Almabani General Contractors – Impregilo SpA, and Riyad Bank, led by Bakri International Energy Company (Saudi-Malaysian Consortium)
日本にいるとなかなか見えづらいですが、中間層の所得向上と、ローコストキャリアの浸透により、メディナ空港のように利用者数が急増している空港は世界各地にいくつもあるようです。東欧でも、共産主義政権時代に建設された空港では処理能力を越えているところがあると聞きました。
国際空港は、国が違っても収益が見えやすく、PPP案件として切り出しやすいところがあります。また、国際的なプロジェクトファイナンスの貸し手も、すでに国際空港案件を複数手がけているため、一定の条件を満たせば貸しやすいというところがあるでしょう。国際空港のPPPは今後増える可能性があると思います。
日本政府のインフラ輸出政策では国際空港分野は対象になっていませんが、いったん受注すると、設備、機器、建設、ITシステムに加えて、低炭素化を実現する一種のスマートグリッドシステム(エネルギーシステム)の納入が見込めるため、日本企業の出番もたくさんありそうです。対象分野に加えてもよいのではないかと思われます。