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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

英国が提示した「気候変動を織り込んだインフラ」という考え方

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英国の環境・食糧・地方開発省がインフラ整備に新しい視点を提供する報告書を発表しました。インフラを新設したり改修したりする際には、今後起こる可能性のある気候変動の可能性を織り込まなければならないというのがその主たるメッセージです。

この報告書は“Climate Resilient Infrastructure”(意訳すれば「気候変動が起こっても柔軟に回復できるインフラストラクチャ」)と題されています。注意を喚起する目的だと思われますが、表紙には海岸のすぐそばを走る列車に波がかぶさっている写真が使われています。

Climageresilient

被写体になっているDawlish Seawallは、ふだんはこのようにのんびりとした鉄道風景なのですが、海が荒れると列車が波をかぶるようです。

この報告書が想定している気候変動とそれによって影響を被る可能性のあるインフラとしては、以下が挙げられています。

  • 猛暑により送電線が過度に膨張し、たるむことによって送電不能になる事態に備え、送電線を強化する。
  • 波浪がより大きくなることに備えて橋をより高い場所に建設する。
  • より暑い気温および激しい降雨に耐えられるように、道路の表面を何らかの物質で覆う。
  • 発電所において空冷技術を使うようにし、水冷の使用を抑制する(水冷用の水が枯渇することを懸念)。
  • 猛暑により鉄道の線路が曲がる事態に備えて、線路をより強固な素材で造る。
  • 激しい降雨でダムが決壊しないように貯水池に対策を施す。猛暑で飲用水が蒸発しないように表面を覆う。
  • 通信用のケーブルが激しい気候によって断たれないように、例えば埋設処理を行う。

英国では向こう5年のうちに2,000億ポンド(26兆3,000億円)のインフラ投資が予定されています。できあがったインフラは50年〜100年といった長い命を持つものです。仮に気候変動を勘案しないでインフラが設計され、建設されるならば、激しい気象によってそのインフラが機能しなくなる恐れがあります。計画段階から気候変動を想定することで、そのインフラを当初の予定通り50年〜100年持たせることができる。そのような発想が根底にあります。

英国ではこの報告書の内容を具体的な政策に生かすことが検討されています。

日本の場合、現時点では東日本大震災の復旧・復興と震災・福島第1原発事故の影響により逼迫している電力供給の回復とが最優先ですが、ゆくゆくは、こうした発想を盛り込んだインフラ整備が不可欠になってくると思われます。

その他、素朴な感想としては、英国が提示したこのようなインフラに関する視点は、既存のインフラが「気候変動を織り込んでいないものである」という評価軸を設定するものであり、ファイナンス面では、既存のインフラの価値を下げる可能性があります。インフラは市場で売り買いされていないので、すぐに影響が出ることはないと思いますが、インフラを運営する特別目的会社の株式を相対で売買している、いわゆるセカンダリーのマーケットでは、中長期的に値決めに影響を与える可能性が若干あります。逆に言えば、今後新設されるインフラにおいては、気候変動を織り込むことによるプレミアムが付く可能性もあるということですね。

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