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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

物流世界最大手DHLがボストンダイナミクスの荷下ろしロボット"Stretch"を1,000台超導入へ

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日本は言わずと知れた産業ロボット世界市場シェア一位を誇る国な訳ですが、産業ロボット以外の分野では世界で存在感があまりありません。残念なことです。しかし、日本が現在持っている産業ロボットの技術にプラスアルファすると、以下の投稿で紹介したNVIDIAのロボット開発技術スタックを用いて(開発・商品化がAIの力によって早まります)、付加価値が飛躍的に高まった「AI + ロボティクス」の製品を具体化できるのではないか?そのように思わせるニュースが飛び込んできました。ポイントは顧客との共同開発です。

NVIDIAロボティクス技術スタックを活用して産業ロボット/ヒト型ロボット/倉庫内自律搬送ロボットを開発する手順

DHLとはどういう国際物流企業か?

DHLは物流世界最大手の企業です。2年ほど前、前職の案件で詳細を調べました。もちろんその内容は要守秘な訳ですが、公開情報からDHLの業容を簡単にまとめると次のようになります。ドイツの国営郵政事業から発展した企業です。米国の国際宅配事業を買収して現在の業容になっています。

DHLグループとは?

  • 正式名称:DHL Group(旧:Deutsche Post DHL Group、2023年に社名変更)

  • 本社所在地:ドイツ・ボン

  • 従業員数:世界で60万人以上(2024年時点)

  • 売上規模:約8兆円(2023年 売上高:約81.8ビリオンユーロ)

  • 事業展開国:220以上の国・地域(世界最大級の国際物流網)

主要事業セグメント(部門別)

  1. DHL Express(国際エクスプレス配送)

    • 国際小口貨物(書類・製品など)を航空便で迅速配送

    • FedExやUPSと並ぶ世界三大国際宅配便の一角

  2. DHL Supply Chain(契約物流)

    • 倉庫運営、流通加工、梱包、出荷などを顧客企業に代行

    • Amazonや自動車メーカーなど大手顧客と提携多数

  3. DHL Global Forwarding(国際輸送フォワーディング)

    • 航空貨物・海上貨物の国際輸送を手配(通関・輸出入業務含む)

  4. DHL eCommerce Solutions(越境EC物流)

    • EC事業者向けの国際小口配送(特にアジア・欧州間)

  5. Post & Parcel Germany(ドイツ国内の郵便・宅配)

    • ドイツ国内郵便事業(旧・ドイツ郵政)の後継

特徴と強み

  • 全世界に物流拠点と航空ネットワークを保有

  • 自動化・ロボティクス導入に積極的

  • 環境対応にも注力(EV配達車両、航空燃料の脱炭素化など)

DHLが物流効率化ロボット開発の戦略パートナーとしてボストンダイナミクスを選んだ

このDHLがロボットを導入した業務効率化に積極的です。先日、ボストンダイナミクス社(Boston Dynamics)の倉庫内荷下ろしロボットの「Stretch」を1,000台以上導入することが発表されました。

DHL Press Release: DHL Group signs MOU with Boston Dynamics for additional 1,000-robot deployment and accelerates cross-business automation strategyDHLグループ、Boston DynamicsとMOUを締結──1,000台のロボット追加導入と事業横断的な自動化戦略を加速

MOU締結を正式発表するとは、随分と前のめりな展開です。それだけロボット導入による業務効率化に積極的なのだと理解できます。

このプレスリリースの中身が日本のロボティクス関係者には大変に刺激的です。詳細は本投稿後半を参照。

簡単に言うと、世界物流最大手のDHLがボストンダイナミクスと戦略的な提携をして、世界拠点の様々な現場でボストンダイナミクスと一緒に新型物流ロボットをテストしていくと言うのです。もちろん完成度が高まればボストンダイナミクスから購入する流れとなります。

周知のように、業務用ロボットや産業用ロボットの世界では、まずPoC(概念実証)を顧客の現場に導入して、うまく行くかどうかを確かめ、要改善点を改善していくループを回すことが不可欠です。つまり一緒に開発してくれる顧客が必要です。ボストンダイナミクスはヒト型ロボット(ヒューマノイド)では有名な「Atlas」を開発していますが、何らかの理由があってまだ商用化されていません。親会社である現代自動車の意向もあるのでしょう。

Walk, Run, Crawl, RL Fun | Boston Dynamics | Atlas

このようなボストンダイナミクスにとって、DHLは、自社の技術力を高く評価してくれる理想的な顧客である訳です。しかも世界最大規模の物流企業。ロボット効率化の現場は無数にあります。

このような顧客との共同開発(Joint development、DHLのプレスリリースの中ではこの言葉が使われています)は、世界トップの技術力を持つ日本の産業ロボット各社にとっても大いに参考になると思います。

本ブログで何度か紹介しているNVIDIAのロボット開発技術スタックを使うと、仮想空間(デジタルツイン)上でのロボット開発がAIの力によって飛躍的に早まります。それを物理空間で製品化する際にも効率的なパスが作れます。以下の投稿を参照。

NVIDIAロボティクス技術スタックを活用して産業ロボット/ヒト型ロボット/倉庫内自律搬送ロボットを開発する手順

このようなAI時代の高速なロボット開発には、ボストンダイナミクスにとってのDHLのような、共に開発してくれる顧客が必要だということを本事例は教えてくれています。

日本郵政さん、どうでしょうか?

毎時最大700個のピッキング能力

さて、DHLに導入される荷下ろしロボット、プレスリリースの中では"Pickするロボット"という表現が使われており、日本語の語感では「荷物ピッキングロボット」が機能を伝える訳語になりそうです。

動画を見るのが一番早いです。ボストンダイナミクス公式動画です。

ロボットのジャンルとしては、"Automated Trailer Unloading"という言葉も使われていて、用途としては、コンテナトラックからの箱の積み下ろしが想定されています。DHLプレスリリースで強調されていたのは、熱いまたは冷たい箱のピッキングに効果を発揮するということです。利用場面としては大型コンテナ車で冷凍食品メーカーから倉庫に運ばれてきた荷物を、高速で倉庫内ベルトコンベアに載せる場面が想定されます。

1時間に最大700個のピッキング/積み下ろしができるそうです。ロボットの性能がいかんなく発揮されています。

なお、お気づきのようにこのロボットはAIを搭載している風はなく、従来型の産業ロボットの延長線で機能が作り込まれているようです。工夫されているのは箱ピッキングのアームの先にある吸盤のようなメカでしょうか?この程度であると日本の産業ロボットメーカーには朝飯前のような感じがします。

小見出し

以下はDHLのプレスリリースの内容のChatGPTによる創造的要約です。こういうのができる今日は便利です。

DHLグループ、Boston DynamicsとMOUを締結──1,000台超のロボット導入で事業横断的な自動化戦略を加速

2025年5月13日 午前10時(CEST)

DHLはBoston Dynamicsとのパートナーシップを拡大し、主要パートナーと共にロボット開発の方向性をより主体的に主導する立場を強化します。

1,000台超のロボット導入で事業部門をまたぐ展開へ

  • DHLグループは過去3年間で契約物流部門に10億ユーロ以上を自動化に投資。

  • 従来のベンダー関係を超え、イノベーターとともに共開発・実証・スケール展開に重点を置いた戦略的パートナーシップを推進。

MOU締結の概要

ボン(独)、ウォルサム(米)発――
世界有数の物流企業であるDHLグループは、先進ロボティクス分野のリーダーであるBoston Dynamicsと戦略的覚書(MOU)を締結しました。

これは、DHLがコンテナ荷下ろしの自動化に活用してきたロボット**「Stretch」**の実績を踏まえ、1,000台超の追加導入を全世界で進めることを可能にするものです。今後は、ケースピッキングなど、より多様な用途への展開も視野に入れています。

2018年からの協業、実績と拡張展開

この合意は、2018年からの協業における大きな節目となります。
契約物流部門(DHL Supply Chain)が先導し、2023年には北米でStretchを商用導入、以後、英国および欧州各地へ展開を拡大しています。

実績:

  • 最大毎時700ケースの荷下ろし能力

  • 高温/低温のトレーラー内作業を減らし、従業員満足度の向上に貢献

英国のプロジェクトでは、コンベア・パレタイザーと統合したエンドツーエンドの自動化ソリューションが導入され、今後、他の事業部門でも活用が検討されています。

次なる注力分野は、契約物流の中で最も労働集約的な「ケースピッキング」です。

DHL Supply Chain グローバルCIO サリー・ミラー氏のコメント

「私たちは"Accelerated Digitalization"を通じて、全事業領域においてロボティクスと自動化のインパクトを最大化することにコミットしています。
このパートナーシップによって、DHLはロボティクス開発の方向性を主体的に形成し、よりレジリエントでスマートなソリューションを生み出していきます。物流業界に新たな基準を打ち立てる覚悟です。」

クロスビジネス・イノベーション

DHLは、Supply Chain部門で開発された成果をグループ全体に展開・適用する体制を整備。規模と影響力を最大化することを重視しています。

実績概要:

  • 過去3年間で10億ユーロ超を契約物流部門に投資

  • グローバルで:

    • 7,500台超のロボット

    • 20万台超のスマート端末

    • 80万個近いIoTセンサー を運用

  • DHL倉庫の90%以上が何らかの自動化・デジタル化ソリューションを導入済

業界を牽引するオートメーション戦略

DHLは、既製品技術に頼らず、新旧のパートナーと共にソリューションを共創する方針を強化中です。

Boston Dynamicsとの協業モデルでは、DHLの現場を実証フィールドとして提供し、リアルタイムで共開発・試験・スケール展開を実施。これにより、DHLは物流オペレーションに専念しながら、ロボティクス企業は業界特化型の技術開発に集中できる構造を実現しています。

「Stretch」は世界初のマルチ用途型箱ピックアップロボットへ

Boston Dynamics CEO ロバート・プレイター氏:

「私たちはDHLとの関係をさらに深めることを誇りに思います。Stretchは、DHLの多様なニーズに応える初のマルチユースケース対応ロボットとなる準備が整いました。
共に、現代のサプライチェーンにおける実用的リーダーシップの模範を築いていきます。」

Strategy 2030に基づく長期的ビジョン

DHLグループは、「Strategy 2030」の一環として、以下のような統合的な協業モデルを重視しています:

  • 単なる導入にとどまらず、

    • 共同開発

    • 共同投資

    • 深い協力関係

  • 相互インセンティブによる持続可能な成長戦略

これらを通じて、ロボティクスと自動化を持続的成長の中核ドライバーとして位置づけていく方針です。


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