華為の「5nm復活」経緯─半導体関係者が読むべき台湾報道。米国制裁に負けない華為のサバイバル意識
Googleで私の興味に合わせた新しい記事の配信をもらっているのですが、昨晩深夜いきなり「華為(ファーウェイ)『3nm半導体』量産へ」というタイトルが出てきて驚きました。
当該記事は台湾経済紙の記事を出典としており、しかも孫びきでした(言うまでもなく孫びきには誤謬が紛れ込みがちです)。結論から言うと「華為(ファーウェイ)『3nm半導体』量産へ」は誤りとは言えないものの、超フライングの記事です。こういう記事に騙される経済人はいないと思いますが、しかし事実は確かめておきたいです。
そこでChatGPTを駆使して元記事を探し出したところ、以下の台湾華語の記事が出てきました。
台湾華語をChatGPTに翻訳させてみると極めて興味深い事実が沢山書かれています。TSMCのお膝元台湾ですから最新の半導体動向に詳しい経済記者が多数いるのだと推察しました。聯合報。内部事情にめちゃ詳しいです。そこで元記事を少しずつ引用しながら、日本の半導体関係者に意味がある補足等を加えていくスタイルの記事をChatGPT氏に書いてもらいました。書くべき内容は事細かに私が指示しています。
半導体やITなど、技術的に誤りを含むことが許されない記事の世界では、もはや人力でファクトチェックをかけながら書き進めるよりもChatGPT氏やGemini氏に書いてもらう方が生産的です。そうやって1日に1本しか書けない所を1日に5本書いて視野がより広くなることの方に意味があります。
以下の記事で判明するのは華為の半導体覇権に関する、踏まれても踏まれてもへこたれないサバイバル意識です。
この意識は、NVIDIAの禁輸されたAI半導体H20を代替する華為の最新型AI半導体Ascend(昇騰) 920にも表れていますし、中国の自動車業界を席巻しつつある華為のSDVプラットフォームHarmonyOS及びHiCarの展開にも表れています(トヨタの中国市場向け新型EV「bZ7」にも採用)。米国の制裁が数年をかけて華為を鍛え抜いた...ということは言えそうです。
2020年以降、世界の半導体業界における"技術制裁"は米中間の覇権争いを超え、産業構造そのものに影響を与えるフェーズに入りました。その中心にいるのが、中国・華為(ファーウェイ、Huawei)です。
かつてはTSMCのプレミアム顧客として最先端チップを外部委託していたHuaweiが、EUV装置が禁輸される中で"5nm相当"を復活させたとするニュースが、台湾経済紙「聯合報(UDN)」に掲載されました。
本稿ではその全文を引用しつつ、日本の半導体業界関係者が注目すべき補足と戦略的示唆を交え、Huaweiの進路を再検証していきます。
2020年:TSMC断供、米国制裁の衝撃
「華為早在2020年就委由台積電代工生產5奈米晶片麒麟9000,沒想到華為被美國列入「實體清單」,禁止其與使用美國技術的供應商合作,2020年9月,美國收緊政策,要求任何使用美國設備或技術的晶片代工廠,導致台積電直接「斷供」,華為只能靠囤積的晶片苦苦支撐。」
日本の多くの読者にとって、Huawei=スマホ企業という印象が強いかもしれませんが、2020年時点では、TSMCの最先端5nmプロセスで設計された「Kirin 9000」を搭載するハイエンドSoCメーカーでもありました。
ところが、米国が"エンティティリスト"にHuaweiを追加し、EDAツールやEUV露光装置など米国起源の技術を用いる企業との取引を全面的に禁じたことで、TSMCとの関係も一気に断たれました。
このTSMC断供事件は、日本の素材・装置サプライヤーにも衝撃をもたらしました。以後、Huaweiは"在庫頼み"の綱渡りを続けることになります。
EUVなき時代の悪戦苦闘:Kirin 9000Sと7nmの試行錯誤
「5奈米是當時最先進的工藝之一,涉及大量美國技術,例如EDA電子設計自動化軟體和EUV光刻機,華為的麒麟9000晶片庫存耗盡後,華為手機業務陷入困境,一度靠高通的4G晶片續命。2023年,華為通過中芯國際的7奈米工藝推出麒麟9000S(Mate60Pro),雖然是個突破,但良率低、成本高,且仍受美國調查壓力。」
2023年、Huaweiは中国・SMIC (中芯国際集成電路製造、Semiconductor Manufacturing International Corporation) の「N+2」プロセス(7nm相当)を用いて「Kirin 9000S」をリリースし、市場に再登場します。しかし、歩留まりは50%未満ともされ、コストは高く、技術的に"5nmレベル"とは言い難いものでした。
ここで日本の読者が理解すべきは、「EUVなしで7nm以下を製造する難しさ」です。EUVの代わりにDUV多重露光を用いたため、設計複雑度も飛躍的に高まり、最先端製品とは言えない内容でした。
白手袋経由のTSMC利用報道、そして"再断供"
「2025年初還傳出華為透過白手套向台積電下單,大量生產華為「昇騰(Ascend)910B處理器」的AI晶片,並將這些晶片運送到中國,違反美國出口管制,但很快就被台積電發現而斷供。」
この件は、台湾や米国でも一時的に注目されたニュースです。Huaweiが第三者(いわゆる「ホワイトグローブ」)を介してTSMCに発注を行ったとの報道がありましたが、すぐに追跡され、TSMC側が自発的に供給を停止。
TSMC側は「米国の規制順守」がグローバルビジネス継続の生命線であり、Huaweiに対する再断供を毅然と実行しました。日本企業も、この規範意識と透明性が今後の国際競争において不可欠であることを再確認すべきでしょう。
鴻蒙PCの登場──5nm製品としての「Kirin X90」
「時間來到2025年5月,華為發表鴻蒙電腦,傳出搭載5奈米製程的麒麟X90晶片,這是華為歷經五年研發的首款鴻蒙個人電腦,5奈米製程的麒麟X90晶片,與鴻蒙系統深度協同,讓操作更為順暢。」
ここで登場したのが、Huawei初のHarmonyOSパソコン「MateBook Pro」への5nmチップ「Kirin X90」搭載です。
ここで注意が必要なのは、物理的な5nm構造を実現しているかどうかは定かでない点です。以下に続くように、実際は"7nmクラスのプロセス+高度なパッケージング"による合成的な5nm相当性能だと分析されています。
実態は「7nm+Chiplet+4nm封装」の統合芸術
「有分析指出,華為透過中芯國際N+2製程與長電科技4奈米封裝技術來支撐量產,其實際製程技術相當於7奈米,主要透過小晶片(Chiplet)設計,再藉由先進封裝技術整合實現性能躍升。」
SMICのN+2(=7nm)プロセスに、江蘇長電科技(JCET)の4nm級封装技術を組み合わせ、さらにChiplet構造を採用。
ここで注目すべきは、日本のOSAT企業が持つ後工程技術力が、いかに将来の中国製チップ競争に巻き込まれる可能性があるかです。Huaweiは前工程だけでなく、後工程まで自前で統合できる体制を構築しつつあります。
DUV多重露光と国産エッチング機による"疑似5nm"
「華為的5奈米技術路線徹底避開EUV光刻機依賴,華為採用上海微電子研發的SSA800系列步進掃描光刻機...中微公司的5奈米刻蝕設備...北方華創的電子束量測系統...華為5奈米的突破,帶動大陸國內半導體設備、材料、設計工具等全產業鏈發展。」
ここで中国政府の国家戦略が浮かび上がります。露光装置はSMEE製「SSA800」シリーズ、エッチング装置はAMEC(中微公司)、計測機器はNAURA(北方華創)。
すべてが国産化され、EUVを回避しながらも"5nm相当"の製品を形にする国家的チャレンジが進行中です。
日本の装置メーカーや素材メーカーにとっては、この内製化のスピードと実現力をどう見るかが次の競争戦略を左右する重要な視点となります。
すでに次は「3nm/GAA/2D/カーボン」
「據華為內部消息,華為已啟動3奈米晶片研發,採用GAA環繞柵極技術和二維材料...基於碳奈米管的3奈米碳基晶片已完成實驗室驗證...」
Huaweiはすでに次世代「3nm」に着手しています。GAA(Gate-All-Around)に加え、2次元材料、カーボンナノチューブベースの研究も進んでいます。
これはTSMCやSamsungが歩む"ポストFinFET"の道筋と技術的には同等であり、Huaweiがいかに先端設計思想を失っていないかを示すものです。
終わりに──Huawei戦略の本質は「外部依存ゼロ」体制構築
Huaweiの5nm復活劇の本質は、単なる技術的ブレイクスルーではなく、「あらゆる制約を回避する設計・製造・検査の全内製体制」を5年がかりで構築してきたことにあります。
このレポートから浮かび上がるHuaweiの戦略キーワードは、以下の3点です:
-
EUVを使わず"性能相当"を達成する構造戦略(Chiplet+封装)
-
中国国内エコシステム全体の動員(装置・EDA・パッケージ)
-
ポスト3nm時代を見据えた設計思想の維持(GAA/2D/Carbon)
米国の制裁が"武器"になる一方、Huaweiはそれをバネに次の産業基盤を育てています。日本企業も、サプライヤーとしてこの動きにどう向き合うか。見て見ぬふりはできない段階にきています。