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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

今すぐ建設現場で役立つヒト型ロボ x BIM:建設業におけるヒト型ロボ活用のアイディア

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今泉追記:

ヒューマノイド(人型ロボ)の建設業界における活用はこれまで労働力不足を補うものとして論じられてきましたが、BIMとリアル建設現場の境目において自律的なAIによって動くヒューマノイド(BIMを読める)が付加価値の高い作業をする...という視点は全く新しいと思います。ある種のブレークスルーがあるかも知れません。

──Figure AIと建設DXの接点を考える

建設DXの中核としてBIM(Building Information Modeling)が注目を集めて久しい。設計・施工・維持管理までの一貫した情報連携は、着実に業界標準になりつつある。

しかし、BIMデータがどれだけ整備されても、実際の施工現場では「人の動き」や「作業プロセス」のリアルタイム連携は依然として未整備なままだ。いわば、BIMは"図面上では理想的"でも、現場では人海戦術による運用に頼っているケースが多い。

こうした中、アメリカのFigure AI社が開発するヒューマノイドロボット「Figure 02」が、建設業界に新しい接点を提示しつつある。単なる作業ロボットではなく、「BIMとリアルの橋渡しをする汎用知能」としての可能性だ。

Figure 02はなぜ"BIM環境"と相性がいいのか?

Figure 02は、身長約160cm、16自由度の五指ハンドを備えた二足歩行ヒューマノイドであり、自律歩行・視覚認識・音声応答が可能だ。最大の特徴は、視覚・言語・行動を統合した独自AIモデル(Helix VLA)を搭載しており、人間の指示を自然言語で理解し、自分で判断して動けるという点にある。

BIMとの親和性が高い理由は、次の2点に集約される。

  1. デジタルツインとの連動性
     Figure 02はNVIDIAのOmniverse/Isaac Simを活用し、ロボット自身の3Dモデルと現場環境のシミュレーションデータを一致させながら動作学習を行っている。これは、BIMの3Dモデルをそのまま「ロボットの行動マップ」として活用できる可能性を意味する。

  2. 視覚と自己位置認識
     Figure 02は6台以上のカメラとステレオビジョンを使って、自分の位置や周囲の状況をリアルタイムで把握する。BIMモデル上のオブジェクト(部材、機材、通路)と、実際の空間内の位置を照合することができ、仮設計画や工程進捗との同期が可能になる。

建設現場におけるFigureの活用モデル

では、Figure 02が建設現場に導入された場合、どのような業務に対応できるのか。汎用性のあるヒューマノイドならではのユースケースを3つ挙げてみたい。

  1. 材料配置の確認
     図面通りに資材が配置されているかを、視覚情報でスキャンし、BIM上の計画と照合する。ずれがあれば音声で報告するか、スマートデバイスに通知する。

  2. 仮設動線の点検
     仮囲い、通路、足場の設置状況を日次で確認。作業者が安全に移動できるか、BIMモデル上の安全動線と現場が一致しているかをチェックする。

  3. 作業ログの記録
     作業中の職人の動線や資材搬入のタイミングをカメラで捉え、時系列でクラウドに記録する。これにより、BIM上で「いつ、どのエリアで、何が行われたか」の履歴が蓄積される。

これらはいずれも、従来は人間が記録・報告していた部分を自動化するものであり、属人性の排除と安全品質の可視化に直結する。

ヒューマノイド×BIMで何が可能になるか

BIMは「情報の集積点」であり、Figure 02のような自律型ロボットがその情報を「動作」へ変換するインターフェースとなることで、現場の知能化が進む。

例えば:

  • 施工計画の現場反映
     BIM上で更新された作業指示や危険エリア情報をリアルタイムで取得し、Figureが現場を巡回して最新状況を確認・案内できる。

  • 作業者への音声案内
     現場作業員が「次の作業はどこか?」「この資材はどこに運ぶか?」をFigureに尋ねると、BIMデータをもとに音声で答える。

  • 建築進捗のモニタリング
     図面通りに工事が進んでいるかを、Figureが定期的にスキャン・記録。進捗報告を半自動で生成し、管理者に共有できる。

これらは単なる自動化ではなく、現場と設計情報をリアルタイムで接続する「双方向インターフェース」としてFigureが機能することを意味する。

まとめ:建設業界における"現場知能化"の次ステップ

建設DXは、BIM導入や施工管理アプリの普及によって「情報のデジタル化」までは進んできた。しかし、肝心の「人が動く部分」──すなわち現場での実装には、まだ大きな断絶がある。

Figure 02のようなヒューマノイドが、BIMモデルと現場空間をつなぐ"行動する知能"として働くことで、

  • 計画と実態の差異を即時に検出し、

  • 作業員とデジタル情報の橋渡しを行い、

  • 工事そのものを「見える化」「自動記録」する
    という、まったく新しい施工支援の形が実現されつつある。

2025年から2030年にかけての建設業は、「BIMを使える企業」から「BIMとロボットを融合できる企業」へと進化するタイミングを迎える。

その時、Figureのような"現場に知能をもたらす存在"をどう活用するかが、次の競争力になるだろう。


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[構成]

1. エグゼクティブサマリー
2. Figure AIの設立背景と企業戦略
3. Figure 01・Figure 02のハードウェア・ソフトウェア特徴
4. NVIDIA技術スタックの活用
5. AI訓練データの生成・活用方法:デジタルツイン環境での模倣学習と 自律学習
6. 商用化への展望(量産計画、市場投入時期、競合比較)
7. 日本のロボティクス業界への戦略的・技術的示唆(特に介護ロボット 分野)
8. 参考文献一覧

米国ヒューマノイド業界のトップ:Figure AIの戦略とヒューマノイド技術の全体像

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